女神様はお見通し⑬
「はいはい。貴女たち、とっても仲が良いのね。ティターニア、アイラの裁定は?」
「問題ないでしょう。嘘を言っているようには見えませんでした。」
私たちが抱き合っている横で、何やら話が進んでいる。
裁定? 何の話だろう。
女神様との話も終わったし、これで一件落着じゃないの?
「裁定って何のですか?」
何の話をしているのか分からなくて質問してみる。
するとティターニアが呆れたように目を細めた。
「呆れた。貴女は自分が何の用でアールヴヘイムを訪れたのか忘れたと見える。」
「何の用……。」
言われてから今日の目的を思い返す。
シルフが成長してドライアドも一緒に冒険できるようになった。
だから姉ドライアドとの約束を果たすためにアールヴヘイムを訪れて、それからティターニアに謁見して――。
「あ、そうでした。」
思い出した。
そうだよ! 私はハイサモナーになるためにアールヴヘイムを訪れたんだった!
女神様が出てきたり、異世界からの転生者だとバレたり、GM権限を披露したり、星を吹き飛ばしたり。
あまりにも色々なことが起こりすぎて、本来の目的が頭から完全に抜け落ちていた。
「……じゃあ、もしかして。」
期待を込めてティターニアを見る。
「あぁ、ハイサモナーの知識を授けよう。」
「……!」
ついにティターニアからの許しがもらえた!
「やったー! シルフ、ドライアド、これからはずっと一緒だよ!」
「ええ、ええ。やったわね、アイラ!」
「アイラと一緒で嬉しい。ばんざーい。」
三人で輪を作って喜びを分かち合う。
シルフの虹色の羽が激しくパタパタして、ドライアドの頭には真っ赤な花が咲いた。
私も嬉しくて二人の手を握ったまま何度も飛び跳ねる。
これでやっと三人で冒険できる。
それにパパとママにもドライアドを紹介できるね。
話には出したことがあるけど、連れて行ったら二人とも驚くだろうなぁ。
シルフだけでも最初はあんなに驚いていたのに、今度はもう一人増えるんだから。
「良かったですねぇ。」
姉ドライアドも穏やかな笑顔で祝福してくれる。
……主に目線は妹へ注がれているけど、それは別に良い。
大切な妹が幸せそうにしてるのが見れたんだもんね。
私も来年生まれてくる弟妹のことを考えたら、その気持ちは分かる気がする。
まだ生まれてすらいないのに、今から何をして遊ぼうか考えてるくらいだし。
「皆の者、聞け。」
ティターニアの声で、それまで少し緩んでいた空気が引き締まった。
「不服な者もいるだろうが、アイラは女神様と私が認めた人間だ。無下に扱うことを禁ずる。」
精霊王たちへ向けられた言葉。
誰に向けたものなのかは、何となく分かる。
「別に仲良くしろと言ってるわけじゃないわ。」
ガイアもティターニアの言葉を補うように続けた。
「適切な距離を保ちなさいと言ってるだけだから、そこは勘違いしないでね。」
うん、本当にありがたい。
嫌われること自体は仕方がない。
誰にだって好き嫌いはあるんだから。
だけど腹の中では何かを抱えたまま、上辺だけ仲良くされても怖いだけだ。
お互いに嫌なら近づかない。
必要がなければ関わらない。
これからは心身共に適切なソーシャルディスタンスを心掛けていきましょう。
「ではアイラ。貴女にハイサモナーの知識を授ける。」
「ありがとうございます。」
いよいよだ。
私はティターニアの前まで歩いていく。
さっきまでの浮かれた気分が嘘みたいに緊張してきた。
ティターニアの正面で立ち止まると、ゆっくり目を瞑る。
前回はサモナーの知識を一気に流し込まれて、そのまま意識を失ってしまった。
目が覚めた時には全部終わっていたんだよね。
今回も同じことにならないといいけど。
「では行くぞ。少し熱かったり、痛かったりするかもしれんから気を付けよ。」
「はい。」
とん、と額にティターニアの指が置かれた。
その瞬間、瞼の向こう側が真っ白に染まるほどの強い光を感じた。
「っ……。」
額が熱い。
火傷するような熱さとは少し違う。頭の中へ直接、熱した何かを流し込まれているような奇妙な感覚だった。
そして次の瞬間、大量の映像と文字が頭の中を駆け巡った。
精霊との繋がり。魔力の流れ。複数の精霊と契約を維持するための知識。
サモナーだった頃には知らなかった情報が、次から次へと流れ込んでくる。
まるでフィルムのネガを凄まじい速度で送り続けているみたい。
一つ一つを読み取る暇なんてない。
だけど流れていったはずの情報は、不思議と頭の奥へ刻み込まれていく。
「うっ……。熱い……。」
前回とは違う。
情報が多すぎて意識そのものを失うほどではない。
私自身が成長したからなのか。
それとも今回は既に体に染みついたサモナーの知識からの応用だからなのか。
理由は分からない。だけど勢いよく流れ込んでくる情報の多さに、体はピクリとも動かせなくなっていた。
頭の中だけが目まぐるしく動き続ける。
そして私は、その奔流の中で少しずつ理解していく。
これが、『ハイサモナー』の知識なんだ。




