女神様はお見通し⑫
「私にとっては、大切なものを守るために必要なかけがえのない力です。」
思ったことをそのまま言ってしまった。
もう後戻りはできない。
だけど嘘をついて取り繕うよりはいい。
これは私が持って生まれた力なんだから。
「貴女にとって大切なものって何かしら?」
「家族や友達、優しく接してくれた人たちです。」
これも迷わず答えた。
パパとママ。シルフやドライアド。セリーちゃんやネネさん、ルカさん。
他にも私と関わってくれたたくさんの人たち。
前世では持っていなかったものも、この世界に生まれてからたくさん手に入れた。
これらは全て、この世界で手に入れたものだ。
とても大切な『アイラ』の幸せの証だ。
「その人たちを守るために、世界を滅ぼさなきゃいけなくなったらどうするの?」
「……。」
その質問は結構意地悪だ。
世界か、大切な人たちか。
どちらか一方しか選べないと言われたら、私はどうするんだろう。
時と場合によっては、世界を滅ぼす選択だってするかもしれない。
だって私にとって大切なのは、顔も名前も知らない誰かより家族や友達だ。
綺麗事だけで大切な人を見捨てられるほど、私は立派な人間じゃない。
だけど前世でオタクだった私は、もちろんこういう究極の選択が出てくるシーンを妄想したことがある。
世界を救えば大切な人が死ぬ。
大切な人を救えば世界が滅びる。
そんな物語みたいな状況を想像した。
そして、その時に出した結論はいつも同じだった。
「まずは話し合いができる状況なら、頑張って対話します。それでも無理なら……世界を滅ぼすかもしれません。」
その瞬間、周囲の空気が少しだけピリッとした。
精霊王たちの視線が集まる。
そりゃそうだよね。
世界と個人の命。
世界法則と深く結びついて生きている精霊からすれば、比べるまでもない選択なのかもしれない。
それを私は個人を選ぶかもしれないと言ったんだから。
だけど、それはあくまで本当の最終手段だ。
最初から世界を滅ぼそうなんて考えるわけがない。
「だけど、私の大切な人たちは世界を滅ぼして自分が助かっても喜ばないと思います。」
パパもママはきっと凄く悲しむ。
シルフやドライアドだって、世界中の生命を犠牲にして自分だけ助かりたいなんて言わないだろう。
それなら私は、その人たちが悲しまない方法を最後まで探す。
自分一人で見つけられないなら――。
「だから、その時は女神様に泣きついてどうにかしてもらいますよ。」
「私に?」
「はい。」
そもそも私一人で解決する必要なんてないんだよね。
世界が滅びるほどの大事件なら、私より遥かに適任な人が目の前にいるんだし。
世界を作った女神様なんだから、世界の危機くらい一緒に考えてもらいましょう。
私一人で無理ならシルフたちにも相談する。
それでも無理ならティターニアにも。
最後はガイアに泣きつく。
使える人脈は全部使えばいい。
「うん、良い答え。」
ガイアは嬉しそうに微笑んだ。
どうやら今度こそ本当に正解だったらしい。
「人間は強い力を持つと、一人で何でも解決しようとしたり、短絡的な発想に向かうことがあるから。その気持ちを忘れないでね、アイラ。」
「はいっ!」
女神様に私の考えを肯定してもらえた。
何だかそれだけで胸の奥が少し温かくなる。
それに、よく考えたらこれって緊急時には女神様を頼ってもいいというお墨付きまでいただいたことにならない?
世界の危機が起こった時の相談先が女神ガイア。
これ以上頼もしい存在もいないだろう。
……どうやって連絡するのかは知らないけどティターニアに聞けばいいのかな。
「はぁ~。一時はどうなることかと思ったわよ」
シルフが大きなため息を吐いた。
「大丈夫。アイラ良い子だから。」
ドライアドは最初から心配していなかったと言わんばかりに、私の腰へ頬をすり寄せてくる。
「シルフとドライアドも私の家族だから。困ることがあったら言ってね。」
「……!」
「わぁ!」
二人の顔が一気に明るくなった。
私にとって二人はもうただの契約精霊じゃない。
シルフはずっと一緒に旅をしてくれた大切な相棒。
ドライアドも、これから一緒にたくさんの場所へ行く大切な仲間。
二人とも私の大切な家族だ。
さてと、もう今日はこれの出番もないでしょ。
《Storage》
念じると空間にGM倉庫への穴が開く。
レーヴァテイン、ギャラルホルン、ブリーシンガメン、スヴェル。
身に着けていたGM装備を次々と外して、GM倉庫へポイポイと投げ込んでいくとようやく身軽になった。
何より両手が塞がっていて、シルフやドライアドに触りづらいのが嫌だったんだ。
自由になった両手を大きく広げると、そのまま二人まとめて――。
「おりゃー!」
ギューッ!
「ちょっと、なーに?」
「きゃー♪」
二人まとめて思いっきり抱きしめる。
シルフはちょっと嫌そうな態度を取っている。
だけど虹色の羽はパタパタと元気いっぱいに動いていた。
ドライアドは素直に喜びながら私へ抱きつき返してくる。
頭に咲いた赤い花も、嬉しそうにゆらゆらと揺れていた。
ふふ、二人とも分かりやすいね。
こうして抱きしめられる大切な存在がいる。
やっぱり私にとってGM権限は、こういう幸せを守るための力で十分なのだ。




