女神様はお見通し⑪
「ねぇ、アイラ。」
「はい?」
「私と貴女が一対一で戦ったら、どっちが勝つと思う?」
突然の質問。
……女神様。皆がいる場所でするには、かなりセンシティブな話題ですよね、それ。
さっきまで私の力が危険だ何だって話をしていたのに、今度は女神様とどちらが強いかなんて。
周囲を見る勇気がない。
絶対みんな私の答えに注目してるもん。
でも、これは思っていることをそのまま言っても問題ない確信がある。
「間違いなく女神様が勝つでしょう。」
即答した。
だってそこに迷いはない。
ガイアの力も、その怖さも私はよく知っている。
単純な攻撃力だけなら、今の私も相当なところまで来ていると思う。
実際に星を二つ吹き飛ばせた。
だけどガイアとの戦いは、そんな単純な強い弱いの話じゃない。
私がどれだけ強力な攻撃を放てたとしても、特殊能力の差で負けると思う。
ゲームで知っているだけでも、まともに戦いたくない能力がいくつもあった。
そして今のガイアはゲームのキャラクターではなく、この世界そのものを生み出した女神。
私が勝てないというのは限りなく正確な見立てなのだ。
「ふふ、正解。」
ガイアが楽しそうに笑う。
ふっふっふ。当たり障りのない完璧な正解を引けたみたい。
我ながら惚れ惚れするね。
皆も見習えるような、これ以上ない模範解答でしょう。
「じゃあ。」
ガイアが頬杖をつきながら、何でもないことのように続けた。
「貴女の持ってるその剣を、全人類が持って私と戦ったら?」
「はい?」
思考が止まった。
女神様。その質問は禁止カードでしょ。
さっきまでの話と意味が全然違う。
私一人と女神様なら迷わず答えられる。
だけど全人類がレーヴァテインを装備して?
……いや何度か考えたことはあるよ?
《CreateItem》でレーヴァテインを大量に出して、それを全員で装備した部隊とか。
前世でゲームを作っていた人間としては、そういう極端な条件を考えるのは嫌いじゃない。
あの時は非常に妄想が捗った。
そうじゃなくて問題は、その時に私が出した結論だ。
勝てるかもと思ってしまった。
この世界を生み出した女神を相手でも全人類へGM装備を配れば、もしかしたら勝てるんじゃないかと考えてしまった。
そんなこと、絶対に口に出してはいけない。
肯定すれば、人間が女神を倒せる可能性を認めることになる。
否定すれば嘘になる。
どうしよう。さっきまであんなに完璧な受け答えをしていたのに、いきなり逃げ道が全部塞がれた。
「答えないのね。」
ガイアはそんな私を見て、楽しそうに目を細めた。
「それが答えかしら?」
「……。」
何も言えません。
「分かりやすくて正直な子は好きよ。」
完全に察された。女神様相手に沈黙は肯定と同じだったらしい。
私はただ、引きつった笑顔を返すことしかできない。
何か言わなきゃと思って口を開こうとしても、喉につっかえたように言葉が出てこない。
このまま黙っていたら、本当に「女神様を倒せると思っています」と認めたようなものだ。
嘘はつかないにしても、せめてここで都合の良い言葉くらい絞り出さないと私の存在が危険視されるかもしれない。
何かないの?
女神様と敵対する意思なんてありませんとか。
世界征服なんて考えたこともありませんとか。
そもそもレーヴァテインを他人に渡すつもりなんてありませんとか!
どれでもいいから早く言わないと!
「で、でもアイラは悪用なんかしてません!」
「アイラは私と契約してから数回かしかさっきの使ってないよ?」
「わぁっ!?」
突然、右肩のシルフと腰に手を回していたドライアドが、ぎゅっと強く抱きついてきた。
シルフは両手で私の頬を抱えるようにして、ガイアを真っ直ぐ見つめている。
ドライアドも腰から離れようとせず、私を守るように抱きしめていた。
旗色が悪くなった私を守ろうとしてくれている。
なんって可愛い子たちなの。
どうしよう。さっきまで恐怖でいっぱいだった胸の中に、今度は喜びが溢れて止まらない。
二人とも私のために女神様へ意見してくれてるんだよね。
その気持ちだけでもう十分だよ。
「私も、アイラさんは悪用していないと思いますよ。ましてや女神様に敵対する度胸なんて無いでしょう。火のからも逃げ回ってるくらいですから。」
姉ドライアドまで援護に入ってくれた。
最後のセリフに補足をしておくと私は平和主義者なんです。
争うつもりが無い相手とまで争う気はない。
「我からも進言いたします。アイラの力は確かに恐るべきものでしたが、邪悪なものは感じません。信用できるかはまだ分かりませんが。」
ティターニアまで私を庇ってくれた。
姉ドライアドさーん!
ティターニアさーん!
ここでの援護、痛み入ります。
私の生存ルートのために、これからも何卒お力添えを。
信用できるかまでは分からないという最後の一言については聞かなかったことにします。
今は少しでも味方が多いことが大事だからね。
「はいはい。」
パンパン。
ガイアが二度手を叩いた。
「まるで私がアイラを手をかけるみたいな流れになってるけど、そんな話はしてないわ。」
騒ぎ始めた精霊たちを落ち着かせるように、ガイアが苦笑する。
その言葉を聞いた瞬間、全身から力が抜けそうになった。
もしかして私、ここから入れる保険があるんですか。
女神様に危険人物認定されて処分される流れじゃなかったんですね?
良かった。本当に良かった。
危うく十二歳で二度目の人生まで終了するのかと思った。
……明らかに残念そうな顔をしてるサラマンダーはスルーしよう。
「アイラ自身が、自分の力に関してどう思っているのか興味があっただけ。」
「私自身が……ですか?」
どうってまた難しいことを聞いてくる。
私は少しだけ考えてから、慎重に言葉を選んでいく。
「気付いたら使えた不思議な力でした。」
五歳の時。前世の記憶を取り戻して、冗談交じりにGMコマンドを思い浮かべた。
それだけで使えてしまった。
誰かから貰ったわけでもない。
どうして私が使えるのかも分からない。
前世では仕事のために使っていたコマンドが、この世界では私だけの力になっていた。
「最初は、どうして使えるのかも分かりませんでした。今でも原理は全然分かっていません。」
自分でも不思議な話だと思う。
ゲームだった世界でGM権限が使える。
それだけ聞いたら、何でもできる万能の力みたいだ。
実際、できることはとんでもなく多い。
戦闘に限らずアイテムを生み出したし無敵化したりと。
その気になれば、もっと色々なことだってできるのかもしれない。
「でも、これまでも私の夢を手伝ってくれました。」
私がこの世界でやりたいことは英雄になることじゃない。
王様になることでも、神様になることでもない。
大好きだったこの世界で今の家族や、大切な人たちと一緒にただ幸せに暮らしたかった。
そんな力のない私をこの力は何度も私を助けてくれた。
だから私はGM権限を嫌ってはいない。
慎重に使うべきだと思うことは多い。
使い方を間違えれば、とんでもないことになるとも分かっている。
それでも私にとってこの力は、世界を支配するためのものじゃない。
私がこの世界で幸せに生きていくために、背中を押してくれる力なんだと思っている。




