女神様はお見通し⑨
自分でやっておいて急に不安になってきた。
でも女神様も見てるし。
何より、全力でやれと言われた。
なら、やるしかないか。
私は指定された星を見つめる。
だけど、この場所は何もかもが現実離れしている。
宙に浮かぶ大地や海。
太陽と星が同時に存在する空。
空間そのものまで歪んでいるせいなのか、対象までの距離も星の大きさもいまいち測りづらい。
どれくらいの威力なら丁度いいのか分からない。
……なら全部吹き飛ばしてしまえば関係ないか。
「危なかったら、ちゃんと止めてくださいね!」
念のため最終確認。
本当に止めてくださいよ?
もし何かあっても私は責任取りませんから!!
「ええ、任せなさい。」
ガイアは自信満々といった様子で答えた。
その姿には一切の不安がない。
世界を作った女神様がそう言うなら多分大丈夫。
後は本当に頼みましたよ。
私はレーヴァテインを握る右手へさらに魔力を集中させる。
今から放つのは、全職業を通しても最強の一角。
四次職最強クラスの奥義スキル。
その名を『ウィッシュアポンアスター』。
名前の意味は『星に願いを』。
やっていることは、そんな可愛らしいものじゃないけどね。
理屈自体は単純だ。
星を破壊するなら星をぶつければいい。
通常なら宇宙から小隕石を呼び寄せ、指定地点へ落下させる究極魔法。
ゲームでは派手な演出と一緒に隕石が降ってきて、広範囲へ莫大なダメージを与える。
でも神にも届きうるほどの魔力から放たれたなら。
小さな隕石なんかで終わるはずがない。
その力は星さえ動かすことができる!
「『ウィッシュアポンアスター』!」
一気に魔力を解放する。
セピア色に染まっていた世界が、弾けるように急速に色を取り戻した。
私の中に集まっていた強大な魔力が天へ向かって飛んでいく。
そして遥か上空。
指定された星とは別の、近くに浮かんでいた巨大な星が――ぐわんと動いた。
「え?」
動かせる、そう確信していたけれど。
あまりに非常識な光景に自分でも驚いてしまう。
巨大な星がゆっくりと軌道を変える。
最初は目で追えるほどの速度だった。
だけど次第にどんどん加速していく。
やがて途方もない速度に達した星は、ガイアから指定された星へ一直線に向かっていった。
二つの星が急速に接近する。
その表面が赤く染まり、やがて互いに巨大な炎を纏った。
そして――衝突。
星と星がぶつかった。
二つの巨大な天体へ一瞬でひびが走る。
遠すぎるせいで音は何も聞こえない。
ただ、遥か彼方で凄まじい光が生まれた。
星同士が砕けながら混ざり合い、膨大な光を放って消えていく。
私はただ呆然とその光景を眺めた。
……本当に星、ぶつけちゃった。
念のため衝撃波か何かが飛んでくるかもしれないと思い、スヴェルを前に構えて待つ。
しばらく待ってみても何も来る様子はない。
女神の箱庭が壊れる様子もない。
どうやらガイアの言葉通り、本当に問題なかったらしい。
万が一に備えてわざわざ出した最強の盾。
『スヴェル』の仕事は、見事なまでの空振りに終わった。
「アイラ、あんたやりすぎ! 星が吹き飛んじゃったじゃない!」
「言われた通り思いっきりやったんだけど……。」
クライアントのオーダー通りにやった仕事で怒られるの辛すぎる。
ちゃんと事前確認だってしたよ?
『持てる限りの力全て』って意味ですかって聞いたら、女神様もそうだって答えたもん。
これについて私は多分悪くないはず。
それにしても凄い爆発だったね。
私が陽キャなら「たーまやー!」って叫んでるくらいの大爆発だったよ。
「さっきのピカピカすごかったねー。」
ほら、ドライアドには好評みたいだよ。
目を輝かせながら、さっきまで星があった場所を見つめている。
怖がらせるかもしれないと思ってたから、喜んでもらえて嬉しいよ。
パチパチパチ。
「素晴らしいものを見せてもらったわ。」
ガイアは楽しそうに拍手しながら、私の健闘を讃えてくれる。
良かった。少なくとも依頼主からの評価は上々。
こちらの掴みは良かったみたい。
私が達成感で高揚していると、ガイアは片手を宙にかざした。
そのまま何もない天を、手でそっとなぞっていく。
すると手が通過したところから、砕け散ったはずの大岩が次々と集まり始めた。
大小様々な岩が吸い寄せられるように集まり、見る見るうちに巨大な塊へと変わっていく。
やがて形は丸みを帯びていき、さっき私が吹き飛ばした二つの星を形成した。
数秒もすれば完全に元通り。
「……。」
何それ。
改めて女神の力の恐ろしさを見た気がする。
GM装備の力は確かに凄い。
全力なら星を動かして、別の星へぶつけて吹き飛ばすことまでできた。
だけどガイアは、その吹き飛んだ星を片手を動かすだけで元通りにしてしまった。
壊すことと、創ること。単純に比較できるものじゃないけど、こんな芸当はGM権限があっても絶対にできないと分かる。
やっぱり女神様は女神様なんだなぁ。
「恐れながら進言いたします!」
突然、大きな声が響いた。
何事かと振り返れば、サラマンダーが険しい表情でこちらを睨みつけている。
「この者の力は危険です。人間などいつ我々に牙を剥くか分かったものではありません。今すぐ処刑すべきかと!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 私は何もしてません!」
サラマンダーさーん!?
まだ何もしてないのに処刑はあんまりじゃない?
いや、星は二つ吹き飛ばしたけど。
あれは女神様に頼まれてやったことだからノーカウントでお願いします。
そもそも私は女神様のお願いだってちゃんと聞いてあげてるんだよ?
レイディアントの討伐だって引き受けた。
力を見せてと言われたから、わざわざGM装備まで出して全力で見せた。
それなのに終わった直後に処刑してくださいはあんまりじゃないですか!?
「黙れ! 人間がそんな力を持っていること自体が危険なのだ! 今は何もしてなくても将来必ず――」
『お座り。』
ドンッ!
見えない巨大な何かが上から落ちてきたような圧力が周囲を襲った。
空気が一瞬で重くなる。
さっき星を壊した時とは違う。
これは純粋な力で押さえ付けられるような、圧倒的な存在感だった。




