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女神様はお見通し⑦

「それで、まだ十二歳の貴女がどうしてそんなことを知っているのかしら。人間の文献にも残っていないでしょうに。」

「あ。」

あれ? 話の流れがおかしいぞ?

素直に答えたら助かる流れじゃなかったの?


さっきのガイアの笑顔。

もしかして満足してたんじゃなくて、私が自分から墓穴を掘ったから笑ってた?

「私も初耳です。そのようなお考えだとは感じていましたが、確信までは……。」

ティターニアからの追撃。


横を見るとシルフは白目を剥いて、今にも口から魂が抜けそうになっていた。

これ完全にミスってない?

私、また余計なこと喋ったかな?

額から滝のように汗が流れる。


だけど今更どうしようもない。

私は張り付いた笑顔で表情を固定した。

ここはもう笑って誤魔化す。それしかない。

もしくは必殺の「記憶にございません」で乗り切る!


ガイアは百面相する私を見ながら、ずっと愉快そうに笑っている。

絶対楽しんでるでしょ、この状況。

「意地悪が過ぎたわね。話の本筋はそこじゃないの。」

……え? これ以上の追撃はないってこと?

私、生還できたみたい。


「魔王の名前は知ってる?」

「レイディアント……。」

「そう、レイディアント。あの子、人間の滅亡を諦めると思う?」

「思いません。」

そこだけは即答できた。


というか、絶対にないと断言できる。

今さら心を入れ替えるには、あまりにも拗れすぎた。

レイディアントは人間を憎み、人間もレイディアントを魔王として恐れている。

どちらか一方だけが歩み寄ったところで、もう元には戻れない。


人間かレイディアント。

どちらかが滅びるまでは止まらない。

少なくとも、私はそう思っている。

「そう。」


ガイアはそれを聞くと、ふぅ、と大きな溜め息を吐いた。

さっきまでの柔らかな笑顔が少しだけ曇る。

その表情を見ていると、ガイアだって望んでこうなったわけじゃないんだと改めて分かった。


「あの子を殺せる?」

「難しいと考えています。倒すのは容易ですが、命を奪うとなれば不可能かと。」

ゲームの中でも、プレイヤーの力だけで魔王の命を奪うことは叶わなかった。

どれだけ攻撃を重ねても完全には消滅しない。


最後にガイアが現れて、ようやくレイディアントは完全に消された。

だから私は、おそらく人間には魔王を完全に殺す術がないんじゃないかと予想している。

「倒すのは容易なのに、殺すのは難しいのね。」

「どこかおかしかったですか?」


「あら、おかしくないわ。正確な見立て過ぎて怖いくらいってだけ。」

ガイアが軽くウィンクする。

私もそのウィンクが怖いです。

また余計なことを知っているって突っ込まれそうで。


でも今の言葉で一つ分かった。

ガイアも、私ならレイディアントを倒すこと自体はできると考えている。

だけど完全に命を奪うことはできない。

女神であるガイアから見ても、その認識で合っているらしい。


どうして人間には殺せないのか。

そこは少し気になる。

だけど質問したら、また藪蛇になりそうなんだよね。

今は確認しないでおこう。

知らなくていいことまで知って、自分で首を絞めるのはもう嫌です。


「なら、レイディアントを倒すのはアイラに任せるわ。」

「それって何か意味があるんですか?」

思わず聞き返した。

私では殺すことができない。

だったら私が倒したところで、結局最後はガイアが何とかすることになるんじゃないの?


「人間に倒されたっていう事実が大事なのよ。」

「……。」

人間に倒されること。それ自体に意味がある。

正直、私にはまだ完全には理解できない。


レイディアントにとって何か意味があるのか。

それとも人間側に意味があるのか。

あるいは、ガイア自身にとって必要なことなのか。

だけど女神様がそう言うのなら、きっと何か理由があるんだろう。

そういうものなのかもしれない。


「分かりました。」

ひとまず頷く。

その返事を聞いたガイアは目を閉じた。

何かを考えるように、数秒ほどそのまま黙り込む。


周囲の精霊たちも誰一人として口を挟まない。

静かな時間が流れた。

そして数秒後。

ガイアはゆっくりと目を開いた。


「うん。私の腹は決まったわ。」

何かを納得したように、小さく頷く。

……何の腹が決まったんでしょうか。

できれば私に関係ないことであってほしいんですけど。


そんな願いも虚しく、ガイアは真っ直ぐ私を見た。

「その時が来たらよろしくね、アイラ。」

「お任せください。」

え、嫌です。

見事に本音と建前が真っ二つに分かれた。


おそらく、レイディアントが私に倒されればゲーム通りの展開になるのだろう。

人間を憎んだまま敗北して、最後はガイアによって消滅させられる。

そしてこの世界から完全に姿を消す。

それは何て虚しい一生なんだろう。


……いや。私が勝手に哀れむなんて、それこそ傲慢な考えだ。

レイディアント自身がどう思っているのかなんて、私には分からない。

それでもゲームで彼のエピソードを読んだ時、何度も思った。

もっと違う形で生まれていたら。

周りにいた人間が少しでも違っていたら。


あの子にも幸せになれる未来があったのではないか、と。

だけど、この時代に生まれてきてしまった以上、きっとそんな未来はもう存在しない。

既に多くの人間を殺して、今も人類そのものを滅ぼそうとしている。

私にできるのは人間の未来を守るために、レイディアントの討伐へ参加することだけだ。

女神様とも約束してしまったことだし。


「これは強制ではないんだけど、アイラの力を見せてもらうことはできるかしら?」

「え?」

考え込んでいたところに、ガイアから突然そんなお願いをされた。

力を見せる? 私のGM権限を?


「断っても良いわ。」

そう付け加えたガイアの声には、本当に強制するような響きはない。

それが逆に怖い。

断っても良いと言われても、本当に断って良いのだろうか。


何のために見たいのかも分からない。

目的が読めないだけに、どう答えるのが正解なのか判断できない。

ガイア本人からは全く圧を感じない。

だけど周囲を見ると、精霊たちからは「まさか断らないよな」という無言の圧を感じる。

……これ、実質的に選択肢一つじゃない?

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― 新着の感想 ―
主人公に腹の探り合いは無理なんだろうなぁ、思った事がつい口に出ちゃう人
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