女神様はお見通し⑥
ええい悩んだって仕方ない。
今言われた通り、私は別に全然凄い人間じゃなかった!
なら、もう度胸で勝負!
考えたところで女神様を相手に上手く立ち回れる気なんて全くしないもん。
だったら変に取り繕うより、聞きたいことを直接聞いた方がいい。
「私からも質問宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。」
お許しも出た。
なら、もう思い切って聞きます!
「女神様は、どこまで私についてご存じなんでしょうか。」
私の質問に、隣のシルフがハラハラした顔を向けてくる。
そんな顔しないで。
これにはちゃんと理由があるんだよ。
私は多分、変に質問されたらすぐボロを出す。
そもそも目の前にいるのは女神様だ。
この人を相手に、私が最後まで隠し事を貫き通せると思う?
こんな場面になってしまった以上、もう直球勝負しかないのだ。
だからシルフ。その可哀想な人を見るような目は止めて?
ガイアは私の問いに少し笑うと、ゆっくり口を開いた。
「全部は知らないわ。貴女が持っている不思議な力は、私に届きうることくらいかしら。」
……。
あ、終わった。
だから今から私を消します、の流れだよねこれ。
女神様に届きうる力を持った正体不明の異世界転生者。
字面だけ見れば、危険人物どころの話じゃない。
恐る恐る周囲を見渡す。
ガイアは変わらず笑っているけどティターニアの目付きは一気に鋭くなった。
精霊王たちの反応はまちまちだけど、サラマンダーなんて今にもこちらへ飛び掛かってきそうだ。
シルフは顔を青ざめさせて、あわあわと私とガイアを交互に見ている。
ドライアドは無表情だけど、私の服を握っている手にさっきよりも力が入った。
やっぱり皆も危険な話だと思ってるよね!?
「わ、私はこれからどうなるんでしょうか。」
声が少し震えた。
「特に何も?」
「へ?」
ガイア以外の全員の頭の上に、同時に疑問符が浮かんだように見えた。
いやいやいや。
だって、知らなかったとはいえ女神様と戦えるだけの力を持ってるんですよね?
それも出自は異世界。
普通なら危険分子として排除される流れじゃないんですか?
「あら。どうしてそんな顔をするの?」
むしろ不思議そうにされてしまった。
「悪いこともしてない私の子供を、手に掛けるようなことはしないわ。」
「私は異世界からの転生者なのに、女神様の子供なんですか?」
「あら、だってこの世界で生まれたのでしょう? 肉体を見ても、この世界の子だわ。」
「……はぁ~。」
そういう判断になるんだ。
てっきり異世界の記憶を持っている時点で、この世界に混ざり込んだ異分子みたいな扱いになると思っていた。
でもガイアにとっては、前世がどこの誰だったかよりも、今この世界で生まれて生きていることの方が大事らしい。
女神様から『私の子供』と言ってもらえた。
その言葉だけで、肩に乗っていた重いものが少し落ちた気がした。
良かった。少なくとも、今すぐ消されることは無さそうだ。
だけどそうなると、ますます今日ここへ呼ばれた理由が分からない。
私は一度呼吸を整えてから、もう一つ気になっていたことを尋ねる。
「では、今日は何故ここに呼ばれたのでしょうか。」
「それはお願いと、意思確認のためね。」
お願い? 女神様が私に?
そんなことある?
女神様なら大抵のことは自分で何とかできそうなんだけど。
それに意思確認という言葉も気になる。
私が首を傾げていると、ガイアは少しだけ表情を改めた。
「アイラ、魔王をどう思う?」
いきなり流れ変わったね。
魔王をどう思う、かぁ。
突然ずいぶん抽象的な話になった。
この質問に何と答えるのが正解なんだろう。
人類の敵です。
絶対に倒すべきです。
そう答えるのが人間的な発想なのかもしれない。
だけど、ガイアは多分そういう答えを求めていない気がする。
正解が分からないなら、素直に思っていることを話そう。
「可哀想だと思います。」
「それは何故?」
ガイアは否定も肯定もせず、続きを促した。
何故って。その理由は、私の中ではずっと変わらない。
「人間に生み出され、信頼していた人間に裏切られたからです。」
何も知らずに人間を信じていた。
家族や友達のように思っていた相手から、実験動物として扱われた。
助けを求めても誰も助けてくれなかった。
その結果として、人間を憎むようになった。
そこだけを見れば、魔王が人間を憎むこと自体は理解できてしまう。
「でも、あの子は人間をたくさん殺したわ。」
「ええ。だから分かり合うことは難しいでしょう。」
そこまで肯定するつもりはない。
どれだけ酷いことをされたとしても、関係のない人間まで殺したことが正当化されるわけじゃない。
今の魔王と人間が手を取り合う。
そんな未来は、もう難しいと思う。
だけど、きっと違う未来だってあったはずだ。
少なくとも、人間を怨まずに済んだ未来が。
最初から道を間違えなければ。
人間があの子をただの実験材料として扱わなければ。
魔王なんて存在は生まれなかったかもしれない。
ガイアは少しだけ目を伏せた。
「私は昔、魔王を封印したわ。あの子の憎しみは、きっと人間が滅びるまで続くと思ったから。」
「でも、封印されている間に改心してくれたらって思ったんですよね?」
私がそう返すと、ガイアの目がわずかに見開かれた。
そしてすぐに、満足そうな笑みへ変わる。
……あ、何か今、地雷を踏んだ気がする。
一方で周囲の精霊たちは、揃ってぽかんとしていた。
どうやら今の話。精霊も知らなかったみたいだから。




