女神様はお見通し④
『ティターニア、ありがとうね。』
ガイアが言葉を発する。
それだけで周囲の空気がビリビリと震え、膨大な魔力が波のように伝わってきた。
攻撃されているわけでもなく、威圧されているわけでもない。
ただ話しているだけ。
それなのに、逆らえる存在ではないことを体全体で理解させられる。
「勿体ないお言葉です。女神様。」
ティターニアは深々と頭を下げたまま答えた。
普段はあれだけ堂々としている精霊女王が、完全に崇敬している。
当然といえば当然か。
目の前にいるのは世界と、自分たち精霊を生み出した存在だもんね。
『そしてアイラ、いらっしゃい。待っていたわ。』
うわぁ。直接私に話しかけられると、もうダメだ。
さっきまでは何とか立っていたのに、自分へ意識を向けられた瞬間、体が勝手に強張った。
返事をしなきゃと思って口を開こうとしても声が出ない。
女神様。大変申し訳ございません。
もう少しだけ、その圧を抑えることはできないでしょうか。
このままだと会話どころか、まともに返事すらできそうにありません。
そんな私の様子を見て、ガイアは「あら」とでも言いたげに目を瞬かせた。
それから、いけないいけないという様子で自分の胸元へ手を当てる。
『あぁ~あ、あー。これでどうかしら?」
最初の「あぁ~」には、まだ魂まで震えるような圧が残っていた。
だけど声を出すたびに、その存在感が少しずつ薄れていく。
「あー。」
最後には、普通の女性が喋っているのとほとんど変わらない声になっていた。
周囲を満たしていた圧迫感も消えている。
どうやら私に合わせて、自分の力を調整してくれたらしい。
ようやく消えた圧迫感に、大きく深呼吸する。
ちゃんと息が吸える。
体が自由に動くことを確認してから、私は改めてガイアへ向き直った。
「初めまして、女神ガイア様。」
ここは当たり障りのない挨拶だけ返しておこう。
何の用事ですか?
なんて聞いたら、そのままマシンガントークで本題に入られそうだもん。
できることなら少しでも先延ばしにしたい。
「あら、ちょっとお話したかっただけよ。」
「お話ですか?」
私には女神様とお話しすることなんてありませんけど!
どうか今すぐ私を解放してください。
表面上は何とか笑顔を保っているけど、心の中では泣いてますよ、私。
「でも、その前にちょっと待ってね。」
「?」
ガイアが私から視線を外すと、すたすたとティターニアたちの方へ歩いていく。
何だろうと様子を見ているとそのまま精霊王たちの前まで進む。
そしてサラマンダーの目の前でピタリと足を止めた。
『めっ!』
ガイアは人差し指を立て、小さな子供を叱る母親のようなポーズを取った。
可愛い。仕草だけなら、とても可愛い。
だけど次の瞬間。とてつもない圧迫感が周囲を襲う。
ガイアの中心で爆発物を爆発させたような。
そんな精神衝撃が周囲に放たれた。
「ひっ……!」
さっき私へ向けられていたものより、一瞬だけ遥かに強い。
可愛らしい「めっ!」という言葉には、あまりにも似つかわしくない威力だった。
多分、一介の冒険者がこの場にいたら良くて気絶。
悪ければ心停止してると思う。
隣を見ると、シルフとドライアドが揃って涙目になっていた。
私は反射的に両手を伸ばし、二人を抱き寄せる。
うんうん、怖かったよね。
私も怖かったよ。
「も、申し訳ございません!」
サラマンダーが深々と頭を下げる。
心なしか体を覆っている火も小さくなって、見るからに縮こまっていた。
「サラマンダー、女神様が許しておられるのだ。自重せよ。」
ティターニアからも追加で注意を受ける。
どうやら、さっきからの私の態度がサラマンダーには相当癪に触っていたらしい。
もしかすると、実際に何か攻撃的な行動を取ろうとしていたのかもしれない。
それをガイアに察知されて怒られ、さらにティターニアからも釘を刺されたと。
うん。気持ちは分からなくもないけど、自業自得なのでそこはしっかり反省しておいてください。
あと、間違っても後で私に牙を剥かないでほしい。
「あぁ、ごめんね。泣かせるつもりはなかったの。」
私の腕の中で涙目になっている二人に、ガイアも気付いたらしい。
本当にそんなつもりは無かったようで、申し訳なさそうに両手を合わせて謝ってきた。
女神様から謝られてる。これは凄い状況だ。
それにしても、シルフたちの反応を見る限り、単純に魔力が強かっただけじゃない気がする。
もしかしたら『女神様に注意される』という行為そのものが、精霊にとって魂へ直接ダメージを受けるくらい重いことなのかもしれない。
「お詫びにそうね、お茶会しましょうか。」
お茶会という言葉に体が固まる。
ゲームでも、プレイヤーがガイアのお茶会へ呼び出されることは何度かあった。
ただ会話をする時もあれば、特別なアイテムを授けてくれることもある。
内容は様々だけど一つだけ共通していた。
ガイアとのお茶会が発生する時は、必ず何らかのイベントが動くタイミングだった。
今回のパターンは私にとっては嫌な予感しかしない。
ガイアが軽く、本当にほんの軽く魔力を込める。
すると何もなかった空間から、美しい装飾の施された椅子と丸机が現れた。
続いてティーセットまで空からふわりと降りてくる。
何でもありですね、女神様。




