女神様はお見通し①
今は世界樹の隣を、シルフの精霊魔法で飛行中。
もう秋ともなると高所は寒い。
その対策として、温熱を生み出す『ライト』を出してある。
これで寒い場所でも凍えることない。
「それにしてもシルフ、髪伸びたね~。」
「えへへ、綺麗でしょ?」
「王様、大変お美しいです!」
一か月前は腰の上くらいだった髪も、今では膝裏まで伸びている。
虹色の羽は一回り大きくなって、体つきも心なしか綺麗になった。
白い羽のシルフたちが褒めるのも無理はない。
本人も満更ではないようで、髪を風になびかせながら上機嫌に笑っている。
あれから一か月間、シルフはモンスターをみっちり倒させてきた。
深い森の主を倒した後にシルフが急成長したのを見て、やはりレベルアップが成長の最大の鍵だと思ったからだ。
その予想は見事に当たり、シルフは今の姿まで成長している。
それについて気になっていることが一つ。
ゲームでは精霊のレベルは共通処理になっていた。
だとしたら、ドライアドもシルフに影響を受けて成長しているかもしれない。
もしもこれで久しぶりに会ったドライアドが凄いセクシーなお姉さんとかになっていたらどうしよう。
そんな心配をシルフに相談したら、
「ドライアドなら一応、まだ子供のままよ。」
という、何とも曖昧な返事が返ってきた。
「一応ってどういうこと? それにどうして分かるの?」
「アイラが寝た後に、たまに会いに行ってるもの。」
「えっ、教えてくれたらいいのに。」
そんな話、今まで聞いたことがない。
私が寝ている間に二人で会っていたんだ。
どうして内緒にしていたんだろう。
「精霊には精霊の秘密があるの。アイラだって全てを私たちに話すわけじゃないでしょう?」
「それは……そうだね。ごめんシルフ。」
私は素直に謝った。
自分だって秘密にしておきたいことがあるのに、相手の秘密は全部知りたいなんて不公平だ。
シルフやドライアドにだって、私には話したくないことがあって当然。
少し傲慢な考えだったことを反省する。
「別に謝るようなことじゃないわよ。」
シルフはふっとため息を吐いた。
「でも……。」
「だけどいい? これはね、私たち精霊の矜持なの。」
ビシッと人差し指を私に突き付け、シルフはいつになく真剣な顔をする。
「サモナーとの契約に応えて契約を結んだ以上は、絶対アイラのことを守るわ。私も、ドライアドもね。」
「うん、分かった。ありがとうね、シルフ。」
「そのセリフは、この謁見が上手く行ったらドライアドに言ってあげなさい。」
そうだ。
これからドライアドに会って、そのままティターニアに会いに行くつもりなのだ。
そこには、あのサラマンダーもいるだろう。
今日は逃げずに話をする以上、絶対に衝突は避けられないよね。
そこで役に立つのが首都でも大人気店のスイーツ。
高級お菓子店のモンブランを持ってやってきた。
前回は精霊女王に何かを渡すタイミングすら無かったもんね。
旬の味覚なら、きっとスイーツモンスターのティターニアにも満足してもらえるはずだ。
ちなみにモンブランは前世の私の大好物だったケーキの一つ。
もう一つはベイクドチーズケーキです。
……話が逸れたね。
そういうわけで、今回の謁見対策はばっちりなのだ。
「着いたわよ。」
「ドライアド。久しぶり~!」
この振り、前にもやった気がするな?
だけど今回は、いつまで待ってもドライアドから反応が無かった。
「あれ?」
どうしたんだろう。
いつもなら呼びかければすぐに出てくるのに。
もしかして何かあったのかな。
それとも今はここにはいない?
私がキョロキョロと辺りを見回していると、シルフは目を瞑って呆れた顔をしていた。
「どうし――。」
むにゅ。
その理由をシルフに尋ねようとした瞬間、柔らかいものが右頬に触れた。
え。何だろう、これ。
驚いてそちらへ顔を向けると、可愛らしい双葉が目の前に映った。
「ドライアド!?」
じゃあ、さっきのは久しぶりにドライアドにチューされたの?
なるほど。シルフはこの悪戯に気付いていたからあんな顔をしたんだ。
「アイラ、久しぶり!」
元気に挨拶したドライアドを改めて見る。
髪はシルフと同じように伸びて、今では膝裏まで届く長さになっていた。
子供のようなあどけない顔立ちは以前のまま。
だけど体はやけに女性的に成長していて、その組み合わせが何ともアンバランスだった。
これって前世でいうところの、ろりきょ――。
はっ、いけない。
可愛いドライアドに相応しくない言葉が出てくるところだった。
「私ね、もう冒険一緒に行けるよぉ。」
言葉遣いも前よりしっかりしている。
それでもドライアドらしいぽやぽやした感じは残っていて、少しだけ間延びした話し方になっていた。
「ドライアド、大きくなったね~!」
嬉しくなって、そのままぎゅうっと抱きしめる。
ドライアドの肌は柔らかくて、植物性の良い匂いがする。
しかも人間サイズにしたら、明らかに私より発育が良い。
こんなの街中を一緒に歩いたら、絶対ジロジロ見られちゃうだろうな。
「さっきの一緒に冒険に行けるってどういうこと?」
「お姉ちゃんがね、もう大人精霊の仲間入りだって言ってたよぉ。」
「わぁ! すっごく嬉しいよ~!」
もう一度ぎゅうっと抱きしめると、ドライアドは「きゃー♪」と嬉しそうな声を上げた。
本格的に姉ドライアドから許可をもらえたらしい。
「良かったじゃない!」
シルフも一緒に冒険する仲間が増えて嬉しそうだ。
私とドライアドの周りをパタパタと飛び回っている。
これでハイサモナーになれれば、ようやく三人で冒険できる。
ずっと楽しみにしていたことが、もう目の前まで来ているんだ。
「それじゃあ精霊女王様に許可を貰いに行かないとね。」
「アタシが持ってるこれを渡せばいいのよね?」
シルフの手にはモンブラン。
これを献上すれば、精霊女王からの好感度アップも間違いなしって寸法だ。
「王様を荷物持ちに!?」
「不敬! 不敬!」
「死刑を要求するー!!」
近くにいた白い羽のシルフたちが一斉に騒ぎ始めた。
相変わらず過激だなぁ。
「コラ。」
「ひぃ!?」
だけどシルフが叱ると、さっきまでの勢いが嘘みたいに大人しくなった。
揃ってシュンとしている姿を見ると、何だか可哀想になってくる。
こういう時は嫌われないように助け船も出してあげるべきかな。
「怒らせるようなことしてごめんね。王様が大好きなだけだもんね。」
子供に語り掛けるように優しく声を掛ける。
すると白い羽のシルフたちは、今度はベソを掻きながらシルフへ謝り始めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「王様、嫌わないで~。」
「何泣いてるのよ、もう。」
仕方ないわね、といった様子で白い羽のシルフたちを慰めている。
こうして見ると、王様というより皆のお姉ちゃんみたいだね。
でもシルフ。好かれてて嬉しいのか、さっきから虹色の羽がパタパタ動いてるよ?
威厳的にも、そこはもう少し隠した方が良いと思う。




