↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
162/318

親離れ、子離れ③

「シルフ、もう一回行くよ!」

「ええ。」

さっきは先制攻撃で混乱を受けた。

だけど今は、本物の深い森の主を捉えられているはず。


私はしっかりと狙いを定め、シルフと一緒に再び風の魔法を放った。

その後は、ほとんど同時に起こった。

「ニ"ャンナ"ァ。」

深い森の主は気味の悪い鳴き声を上げる。

それと同時に枝を蹴り、隣の木へ向かって大きくジャンプした。


隣にいたナイトとプリーストが鳴き声に反応してビクッと体を動かす。

直後、二つの風の刃が深い森の主のいた場所を通過した。


また外した。

だったら次だ。

私が次の魔法へ意識を切り替えると、シルフもすぐに次弾の準備を始める。


今の鳴き声も聞いてしまったけど、一度『コンフュージョンクライ』を受けたばかりだ。

しばらくは混乱に対しての耐性がある。


少なくとも今すぐ再び混乱して、同士討ちを起こすことはないはずだ。

次こそ当ててやる。

そう思って、深い森の主に向かって手をかざした時だった。


「アイラ!!」

シルフの大きな声が、鼓膜を破らんばかりに響いた。


「え?」

突然の大声に体の動きが止まる。

反射的に声のした方へ顔を向けようとした瞬間、視界の端に何かが映り込んだ。


それは銀色に輝く長い刃物。

大きな刃渡りの剣が、私の肩から脇腹までを通り抜けた。

それは体の上から熱いお湯でも流されたような不思議な感覚だった。


何が起きたんだろうと自分の胸元へ視線を落とす。


服が裂けていた。

その下にある肉も深く切れている。

傷口からは、まだじんわりと血が滲み出している程度だった。


「あ……。」

自分が斬られた。

ようやく自身の状況を認識する。


そして、来る。

ジンジンジンジンと、傷口から灼けるような痛みと熱さが一気に広がった。

「っ……!」

息が詰まる。

全身から急速に力が抜けていき、立っていられなくなった。


膝から崩れ落ちる。

視界が暗くなっていく。

音も遠ざかっていく。


薄れていく意識の中で、最後に見えたもの。

それは剣を握り締めたまま、何かを呟くナイトの姿だった。



「アイラ、アイラ!」

シルフの大声で意識を取り戻す。

ぼんやりと開いた視界の中で、私の可愛いお友達が泣いていた。

泣かせたのは、誰?


そうだ。

さっき私は深い森の主と出会って、戦っている途中で混乱したナイトに斬られて……?


「……っ!!」

バッと体を起こす。

記憶通りなら、まだ交戦中のはずだ。


傷があった場所にはまだ痛みが残っている。

それでも我慢して意識を集中させ、すぐに周囲の状況を確認する。


「アイラ、良かった。良かったよぉ!」

シルフが大声で泣きながら私のそばにいる。

その手にはヒーリングポーション。


足元にも空になったポーション瓶が二個落ちていた。

どうやら私が意識を失っている間に、シルフがウェストポーチから取り出して使ってくれていたらしい。


まだ斬られた場所に痛みはあるものの、傷自体は癒えている。

これならまだ戦うことができる。


「シルフ、ありがとう!」

危うく死にかけた。

別に油断なんかしていない。


深い森の主を警戒して、状態異常にも対処して、シルフと二人で戦っていた。

それでも深い森の主は、私の想像より遥かに厄介な相手だった。

イレギュラーなナイトとプリーストがいたせいもあったけど。


そういえば、その二人はどこに?

ふと横を見る。

ナイトとプリーストは二人とも地面に崩れ落ち、意識を失っていた。

胸が動いているところを見ると、まだ呼吸はしている。


「アイラが斬られた後、止めを刺そうとしたから私が魔法で吹っ飛ばしてやったの。」

「うわっ、本当にありがとうシルフ。」

私、もう少しで殺されていたんだね。

シルフがいなかったらどうなっていたか分からない。


これは絶対に後でお礼をしないと。

それに、二人が気絶しているのなら都合が良い。

私は顔を上げ、先ほど深い森の主がいた木の上を見る。


まだいる。

深い森の主は相変わらず大きな口を開き、こちらを見ながら笑っていた。

逃げる様子なんて微塵もない。


戦えば自分が勝てる。

そう確信したうえでの余裕だ。

その性格の悪さが、今だけはありがたい。


「あなたの失敗は、最初から全力で戦わなかったことだよ。」

もちろん、私もね。

お互いに力を隠して失敗をしたのなら。

より大きな力を隠していた方が、勝つ。

これが道理だ。


《Storage》

レーヴァテイン。

ギャラルホルン。

呼び出した二つのGM装備を、そのまま両手で掴み取る。


そして、もう一つ。

《CreateItem Brisingamen》

頭上に光が生まれる。

そこから炎のように煌めく首飾りが空中を滑るように降りてきた。


私はそれを受け取り、自分の首にかける。

その名はGM装備『ブリーシンガメン』。

効果は、状態異常に対する完全耐性。


深い森の主は『コンフュージョンクライ』だけを使うモンスターじゃない。

鳴き声だけで敵を麻痺させたり、恐怖を与えたり。

様々な状態異常を付与してくる。


一方で『ブリーシンガメン』は、それらの効果を一切受けなくなる。

つまり、もう深い森の主が得意の状態異常を使ってきても私には通じない。

決着はついた。


「フシュルル、ウ"ニャアアア!」

私が突然取り出した装備の異様さに気付いたのか、深い森の主がしきりに鳴き喚く。

さっきまでの余裕そうな鳴き声とは違う。


だけど残念。

もうその鳴き声は私には届かない。


シルフもGM装備によって大幅にステータスが上昇したことで、深い森の主が使う程度の状態異常では効果がなかった。


深い森の主は確かに強かった。

特に多人数のパーティで挑むほど、状態異常による同士討ちが起こりやすくなる厄介なモンスターでもある。

私だって実際に追い詰められた。


でも、所詮はサービス開始当初から存在するモンスターでもあった。

『ネームレスオンライン』は、既にサービス年数が二十年を超えている。

そんな長寿ゲームの中で見れば、深い森の主の強さなんて最新ダンジョンの雑魚敵にも劣る程度。

そして今の私は、そんな敵を瞬殺できる最新のGM装備を身に着けている。


なら、どうなるか。

答えは簡単だった。


足に少しだけ力を入れて、軽く跳ぶ。

それだけで一気に木の高さまで跳び上がり、深い森の主の目の前まで来た。


深い森の主が驚いたように体を動かす。

慌てて逃げようと足に力を入れている。

だけど、もう遅い。

いやそもそも、逃げられるはずなんてなかった。


「『アサルトリッパー』!」

非常に鋭利な斬撃スキル。

今回は素材が欲しいので、余計な魔力を叩き込まないように注意してレーヴァテインを振り抜く。


一撃で深い森の主の首が跳ね飛んだ。

あの人間のような笑顔を張り付かせたまま、首だけが枝から落ちていく。


残された巨体がぐらりとよろめく。

そして次の瞬間。

ズドンッ!

重い音を立てて、深い森の主の体が木の上から地面へ落下した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。