親離れ、子離れ①
初めてのネームドモンスター戦についてのストーリーを描くはずが気付けば短編になってしまいました……。
『家の施工が始まるまでは家にいるから。』
工務店の人の顔は私しか分からない。
私がいなければ、職人さんたちが来た時に作業へ差し支える可能性がある。
それに少ないとはいえ、家の中にある荷物も運ばないといけない。
身重なママにはさせられない作業なので、私が家に残る必要があった。
今回は実家に一週間ほど滞在することになるはずだ。
その間にお金とシルフの経験値をたくさん稼がなきゃ!
家の建て直しでかなりのお金を使ったし、シルフもまだまだ強くなれる。
時間は有効活用しよう。
そんなわけで、今日はシルフと一緒に深い森まで来ている。
ここは昔の苦い思い出が残る森だ。
辻斬りや深い森の主のような危険なモンスターもいる。
これまでは敢えて来ることを避けてきた。
だけど、いつまでも避け続けるわけにもいかない。
どこかでトラウマは克服した方が良いだろう。
幸い、今の私にはシルフもいる。
二人一緒ならきっと大丈夫。
……と思っていた。
「で、コイツらは誰なの?」
「おいおいシルフさん、そんな連れねーこと言わないでくださいよ!」
「そうですよ。一緒に連れて行ってください~。」
「……。」
かなり馴れ馴れしいナイトとプリーストの二人組。
私たちが深い森へ入っていくのを見て、そのまま着いてきてしまった。
もちろん知り合いでも何でもない。
「申し訳ありませんが、一緒には連れていけません。」
「でも十二歳でサモナーになった天才って聞きましたよ。」
「そうですよ~! 三人ならきっと余裕ですって。」
本来、こういう付きまといは冒険者にとって最大級のタブーだ。
誰かの稼ぎを覗き見る行為になるし、実力が伴わない場所に来れば自分だけでなく他人まで危険に晒すことになる。
この二人は明らかにツーアウト。
「申し訳ありませんが、お二人を連れては行けません。」
「あっち行きなさいよ。しっし。」
私が改めて断ると、シルフも手を振って追い払う仕草をする。
そもそも、この二人が何を目的に着いてきたのかは大体分かっていた。
私とシルフが狩ったモンスターの分け前を貰おうとしているのがバレバレ。
厚かましいことこの上ない。
「何だよ、俺たちがせっかく声をかけてやったのに。」
「天才とか言われて良い気になってんじゃないの? バーカ!」
意外と早く正体現したね。
さっきまで一緒に連れて行ってくださいなんて頼んでいたのに、断られた途端これだ。
まあ、こんな程度の暴言は前世の仕事と比べたら可愛いもの。
何にも心には響かな――。
「はぁ!?」
効いちゃってる精霊もいます。
シルフが羽を大きく広げて二人を睨み付けていた。
今にも飛び掛かっていきそうな勢いだ。
「シルフ、怒らなくていいよ。それでは、さようなら。」
「良いのアイラ!? コイツらに好き勝手言われてー!!」
全然いい。
むしろ良い顔をしながらずっと付きまとわれる方が面倒だ。
これだけ態度が悪ければ遠慮なく突き放しても問題ないしね。
あちらからその理由をくれて本当に助かる。
「死んじゃえ、バカ女。」
プリーストの方は口が本当に悪い。
この世界で死ねって、子供でもあんまり言わないんだけどね。
だって、本当に死ぬから。
朝笑っていた友達が昼には死んでいる。
そんな話だって珍しくない世界だ。
この歳になるまでに、サジタリウスにいた私の友達は何人か病気で亡くなった。
町の人だってモンスターに襲われて何人も亡くなっている。
死というものが、前世よりずっと身近にある。
だから「死ね」なんて、人には冗談でも言わない。
つまり本気ってことかな?
そう取られても仕方ないよね。
「何だったのよアイツら。」
後ろでキャンキャン吠えている二人組を無視して、私はシルフと一緒にその場を去った。
シルフはまだ本当に許せないといった様子で怒り心頭。
何度も後ろを振り返っては文句を言っている。
「落ち着いて。」
私のために怒ってくれるのは嬉しい。
だけど、どちらかと言うと今は目の前の森に集中してほしい。
昔は気付かなかったけど、深い森は明らかにおかしいから。
木々が生い茂っているだけなのに、奥へ進むほど肌にまとわりつくような違和感が強くなる。
まるで森全体が意志を持っているかのように、侵入者を拒んでいる。
今なら、それがはっきりと分かる。
……さっきの二人組、無事に帰れたらいいけど。
冒険者が自分の分を弁えずに危険な場所へ入って死ぬのは自己責任だ。
だからといって、私の目の前で死なれるのは目覚めが悪い。
どうか今日だけでも何事もなく終わってほしい。
二人と分かれて数分後のこと。
「アイラ、右正面足元!」
「っ!」
私よりも先にシルフが草むらに隠れていた何かに気付いた。
そのままシルフの精霊魔法が放たれた。
風の刃は草を切り裂き、その奥にいた細長い何かを掠めた。
一瞬だったのでモンスターの姿はちゃんと見えていない。
だけど、あの形状はおそらく『フォレストヴァイパー』だ。
毒を持つ蛇型のモンスターで、麻痺攻撃を得意としている。
名前からも分かる通り、噛まれたら非常に危ない。
それに、掠ったとはいえシルフの魔法を避けたモンスターも初めて。
やっぱりこの森の敵はひと味もふた味も違う。
シュルルル。
音はするけど姿は見えない。
草や落ち葉の間を高速で地を這う音だけが周囲に響く。
フォレストヴァイパーは逃げたわけじゃない。
私たちの周囲を動き回りながら、虎視眈々と仕掛けるタイミングを狙っている。
下手に追いかけるより、向こうが動く瞬間を待った方が良さそうだ。
私もシルフもその場から動かず、周囲へ視線を巡らせる。
ふと、葉を揺らしていた音が消えた。
遠くへ去っていくように小さくなったわけじゃない。
いきなりだ。
さっきまでの執着を見れば、逃げたとは考えにくい。
私は一気に警戒度を最大まで引き上げた。
「シルフ、どこに行ったか分かる?」
「分からないわ。でも近くにいる。」
シルフも逃げたとは判断していない。
私たちの見解は一致している。
フォレストヴァイパーは絶対にすぐそばにいる。
いつでも魔法を使えるように魔力を込めながら周囲を警戒する。
いつ襲われても、絶対に攻撃の瞬間を見逃さない。
姿の見えない敵を待つ時間に緊張が走る。
それはあまりにも長く感じる数秒だった。
シュルル。
来た! 再び何かが高速で這う音がする。
「上!」
「シャアア!」
私とシルフは同時に木の上へ視線を送る。
細長い緑色の蛇が、今まさに木から声を上げてこちらへ飛びかかってくるのが見えた。
いつの間に木の上へ!?
「『ウィンドカッター』!」
私が使える最速の魔法。
少しでも間合いを作るため、後ろへ倒れ込みながら風の刃を放つ。
狙いを定める余裕なんてほとんどなかった。
それでも風の刃は見事に命中し、フォレストヴァイパーの尻尾から三分の一ほどを切断した。
「シュウウ!」
だけど、フォレストヴァイパーの勢いは死なない。
体の三分の一を失ってなお、私を仕留めんと飛びかかってくる。
このままだと噛まれる。
そう思った時だった。
横から飛んできたシルフの魔法が、フォレストヴァイパーの首をはね飛ばした。
地面へ倒れ込んだ私の頭の向こうに、蛇の頭部が落ちる。
胴体は私の足元でうねうねと動きながら激しく跳ね回り、やがて少しずつ力を失って動かなくなった。
「ふぅ。」
「なかなか手強かったわね。」
「うん。蛇と戦ったのは初めてだけど厄介な相手だった。」
力が強いとか、耐久力があるとかではなかった。
だけど素早くて狡猾で、その上に神経毒まで持っている。
一度噛まれればどうなるか分からない相手だけに、非常に緊張感のある戦いだった。
蛇は頭だけになっても反射で噛みついてくることがあるってパパが言ってた。
少し待って安全が確保できてから、倒したフォレストヴァイパーの処理を始める。
まずは吊るして、しっかりと血を抜く。
それが終わると首元の皮を捲り、そのまま引っ張っていく。
スルスルと剥げた皮を水で洗い、綺麗にしておいた。
次は腹を裂いて、潰さないように内臓を取り出す。
この内臓も素材になるので、こちらもきちんと血抜きをしておく。
蛇肉と内臓はそれぞれ別々に包んで冷凍保存。
最後に皮、内臓、蛇肉を《Storage》へ入れれば処置は完了だ。
「シルフ、お待たせ~。」
「お疲れ様。」
「警戒もありがとうね。」
私が作業をしている間、シルフはずっと周囲を警戒してくれていた。
一人だったら解体しながら周囲にも気を配らなければならない。
だけど二人なら、こうやって役割分担ができる。
やっぱり仲間がいるって良いね。
改めてサモナーになって、精霊という仲間を得られたことに感謝した。




