しばしの休息⑮
精霊石側は既に私の魔力に合わせて固定されている。
だから今度は、魔道具側に調整をかけていくことになった。
セリーちゃんが水晶の反応を細かく調整して、シルフが精霊石と似たような魔力を流す。
そこで魔道具が光ってしまったらアウト。
私の精霊石以外にも反応するということだから、鍵としては使えない。
「少し調整してみた。」
「それじゃあ試すわね。」
セリーちゃんが調整して、シルフが魔力を流す。光った。
また調整して、もう一度。今度は大丈夫。
だけどシルフが少し魔力を変えてみると、また光ってしまった。
そんな作業を何度も何度も繰り返していく。
「うーん、結構いい線は行ってるんだけどね。」
「完璧にならないね。」
私の仕事は、二人がやいのやいの話しながら試行錯誤しているのを眺めているだけ。
たまに暇になって、工房に置いてある冷蔵庫を触ったりしながら時間を潰す。
どうも精霊石が鍵だとすると、魔道具が鍵穴。
その鍵穴がどうしても精霊石にピッタリ合わなくて、二人とも四苦八苦しているみたいだ。
かなり近いところまでは行っているらしいけど、ほんの少し条件を変えただけで別の魔力にも反応してしまう。
「ふーん。」
私も何となく魔道具を覗き込む。
よく分からないまま水晶にちょんと触れて、少しだけ魔力を流してみた。
パチチッ。
「ん?」
閃光のような火花が走って、すぐに消えた。
すると、それを見ていたシルフが私の方を向く。
「アイラ……。今の十倍くらいの魔力を流してみて。」
「へ? 大丈夫?」
さっきの魔力程度で火花が走ったんですけど。
十倍なんて流したら、水晶が焼け焦げそうなんだけど。
本当に良いのかな。
念のためセリーちゃんへ視線を向けると、少し考えた後に首を縦に振った。
やれっていうことね。
「分かった。」
大体の感覚で魔力量を調整する。
さっきの十倍くらい。
そう言われても正確に測れるわけじゃないので、自分の感覚だけが頼りだ。
「もうちょっと多く。」
「これくらい?」
「増やしすぎ。もう少し減らして。」
監督の指示を聞きながら、少しずつ魔力を増減させていく。
これが非常に難しい。
魔法を使う時より繊細に、決められた量をそのまま維持しないといけない。
「そこ。それを維持したまま魔力を流して。」
ようやく許可が出た。
言われた通り、その魔力量を維持したまま水晶へ流し込む。
バジジジジッ!
「わわっ!?」
さっきよりも大きな音と一緒に、激しい火花が飛び散った。
ちょ、これ本当に大丈夫なんだよね!?
今にも壊れそうなんですけど!
それでもシルフに止められていないので、そのまま指定された量の魔力を流し続ける。
やがて必要な量を流し終えたところで、ようやく手を離した。
「……焦げてる。」
水晶の外側には一部、黒い焦げ目が付いていた。
壊しちゃったんじゃないの?
そう思いながら中を覗き込んでみると、水晶の内側には何か銀色の渦みたいなものが見える。
さっきまではなかったよね、これ。
「ちょっとでも魔力量を間違えてたら爆発してたわね。」
「こわっ。」
そんな怖いこと一発本番で試さないで。
爆発して工房を壊したとか言われても、こっちで責任は取りきれないから。
「大丈夫よ。この程度なら爆発してもアタシが抑えられるから。」
なんだそれなら良かったぁ。
……良かったんだよね?
「これで良いの?」
「試してみるね。」
セリーちゃんが精霊石を手に取り、水晶へ近付ける。
すると魔道具がさっきよりも少しだけ強く光った。
ちゃんと反応している。
「今度はアタシの番ね。」
次はシルフが魔道具へ魔力を流す。
さっきまでと同じように精霊石に似せた魔力を作ったり、少しずつ性質を変えたりしながら何度も挑戦する。
だけど魔道具はピクリとも動かなかった。
何度やっても同じ。
シルフがどれだけ似た魔力を流しても、水晶は全く反応しない。
「成功ね。」
「さっきは何をさせたの?」
言われた通りに動いてみたけど、私には法則がまるで分からない。
何をさせられたのか気になって尋ねてみる。
「無理矢理アイラの魔力の波長に変えただけよ。」
「へぇ~。」
「そんなことできるんだ。」
だけよ、と言うわりには凄いことをしている気がする。
セリーちゃんも感心したように水晶を眺めていた。
「やってることは石に穴を空けて、無理矢理嵌まるようにしただけよ。」
……なるほど。
あれだけ緻密な魔力調整をして、最後にやったことは意外と力業だったらしい。
でも結果として目的が達成できたのなら、細かいことは言うまい。
その後も何度かテストを繰り返した。
私の精霊石を近付ければ反応する。
シルフが似せた魔力を流しても反応しない。
どうやら本当に、私の作った精霊石だけに反応する魔道具が完成したらしい。
そして、ここからセリーちゃんの魔改造が始まった。
魔力に反応した時だけ動く鍵を取り付けて、精霊石を近付けると自動で開くようにする。
逆に違う魔力を流してみると、
ピーッ!
甲高い音が工房に響いた。
警報機能まで付いてる。
さらに無理矢理こじ開けようとすると防犯機能が働き、今度は強力な電気が流れるようになっていた。
試しに確認してみると、その威力はかなりのもの。
まともに受ければ腕くらい焼け焦げる威力があった。
……安全面には十分配慮してほしい。
家族がうっかり触って感電なんてことになったら、防犯どころじゃないからね。
「大丈夫よ、子供の力くらいじゃビクともしないわ。」
私の可愛い兄弟の安全は守られるようで安心した。
「アイラ、アタシがサポートするからここに魔力を通して。」
「こう?」
シルフに言われた場所へ、ちょろちょろと魔力を流してみる。
どれくらい必要なのか案配が分からない。
するとシルフが私の手を掴み、そのまま魔道具へ寄せた。
「もっと思いっきりやって良いわ。」
「分かった。いくよ。」
今度は遠慮せず、全力で魔力を込める。
流した魔力をシルフが整えながら、そのまま魔道具へ送り込んでいく。
さっきみたいに細かな調整を求められないのはありがたい。
私はただ全力で魔力を送り続ければ良い。
「止めて!」
シルフの指示に従って、すぐに魔力を止めた。
見た目には特に変化がない。
だけど、かなりの量の魔力を蓄えているはずだ。
感覚としては、全力で放った『ウィンドカッター』五発分くらいは放出したつもり。
「これはどういう効果があるの?」
セリーちゃんが興味津々な様子で魔道具を覗き込む。
それでいて不用意に触ったりしないのは偉い。
さっき腕が焼け焦げるくらいの電撃を見たばかりだもんね。
「さっきの電撃に安定感を増しただけよ。この状態なら暴発もしないわ。」
シルフによると、より大きな魔力反応に引かれることで、電撃が不用意に外へ溢れなくなるらしい。
これなら何かの拍子に防犯機能が暴発して、家族が誤って感電するような事態も防げるみたいだ。
それなら安心。
「ありがとう、シルフ。セリーちゃん!」
「どういたしまして。」
「まぁね。」
本当に二人のお陰で最高の鍵が手に入った。
普通の鍵みたいに簡単に開けられる心配はない。
違う魔力を流せば警報が鳴り、無理矢理こじ開けようとすれば電撃まで流れる。
防犯性能だけなら十分すぎるくらいだ。
ただし問題もある。
これを作るには、現時点ではシルフの力が必要不可欠。
私の家で使う試作品としては成功だけど、誰でも作れる正規品として考えれば失敗作だ。
もっと量産に向いた物を作らないと……。
これについては、まだアイディアだけだけど。
魔力の型入れみたいな物が作れないかな。
まず、魔道具側に魔力を受け入れるための型を作る。
そこへ実際に使う人が自分の魔力を流せば、その人だけに反応する世界で一つだけの鍵が完成する。
そんな仕組みにできれば、シルフが一つずつ調整しなくても量産できる気がする。
「こういうのはできないかな?」
思い付いた草案を二人へ話してみる。
すると、それだけでも随分刺激になったらしい。
「それなら……。」
「でも、そのままだとここが問題になるわね。」
「だったら、こっちを先に調整したらどうかな?」
早速二人で実現方法について真剣に話し合い始めた。
うん。後は賢い二人に任せよう。
私が混ざっても、多分もう役に立たない。
椅子へ座り直し、私は二人に丸投げして休むのだった。




