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しばしの休息⑬

「今日はこれからどうするの?」

「せっかく来たから、セリーちゃんの予定が空いてたら一緒に出かけるつもり。」

家の鍵についても相談したいし、昨日帰ったばかりなのに今日またアクエリアスまで来たんだ。

用事を済ませてすぐ帰るのも少しもったいない。


せっかくだから、セリーちゃんと一緒にどこかへ遊びに行けたら嬉しい。

もちろんセリーちゃんにも仕事がある。

もし予定があって断られたら、その時は仕方ない。

鍵の相談だけして、一緒に出かけるのはまた今度にするつもりだ。


「セリーちゃん、時間あったら相談ついでにお出かけしない?」

お店に戻ってセリーちゃんに声を掛けると、少し申し訳なさそうな顔をされた。


「ごめーん、さっきの素材を何個か売っておきたくて。一緒に来る?」

「それじゃあ着いていこうかな。」

遊びに行くという感じではなくなっちゃったけど、せっかくだしセリーちゃんの用事に付き合いながら鍵の相談をすることにした。


セリーちゃんについて町を歩き、素材を取り扱っている売店へ向かう。

そこでセリーちゃんが素材販売の交渉をしている間、私は近くに並べられている商品を眺めることにした。


アクエリアスの海石で作られたイヤリング。

サジタリウスの森で採れた木を加工した櫛。

スコルピオのサボテンから作られた化粧水。


さすがは各地から人や物が集まってくる港町。

眺めているだけでも目移りするような物が沢山あった。


「へぇ、こんなのもあるのね。」

隣を見ると、シルフも並んでいる商品を興味深そうに眺めていた。

どうやら人間が作った工芸品そのものに興味があるらしい。


「何か買ってあげようか?」

「いらないわよ。持ってても邪魔になるだけだもの。」

欲しいわけじゃないのね。

人間がどんな物を作っているのか、見ているだけで楽しいみたいだ。

精霊にはこういう道具を使う文化もほとんどなさそうだし、珍しいのかもしれない。


そんなことをしながら商品を見ていると、ようやくセリーちゃんの交渉が終わった。

「お待たせ~。」

「随分長かったね。」

「遅いわよ!」

シルフは不満そうに腕を組んでいるけど、さっきまで私よりも商品を見るのに夢中だったの知ってるからね?

待たされていたことなんて忘れてたでしょ。


「ごめんね~。」

「さっきまで商品に夢中だったから気にしなくていいよ。」

「アイラ!」

ぽかぽかぽか。

余計なことを言った私の頭を、シルフが両手で何度も叩いてくる。

もちろん本気じゃない。

全く痛くないどころか、軽く頭を叩かれている感覚がマッサージみたいでちょっと気持ち良かった。


そのまま三人で売店を離れ、近くにあった喫茶店へ入る。

席に着いて二人でお茶を飲んでいると、セリーちゃんがようやく本題を切り出した。


「それで用事って?」

「あ、あのね。家の鍵を作りたくて。」

「鍵屋さんにお願いするんじゃだめなの?」

「普通の鍵じゃ『シーフ』が来たらすぐ開けられちゃうじゃない?」

この世界では『シーフ』が一つの職業として認められている。

もちろん職業が『シーフ』だからといって、本当に人から物を盗んで生活しているわけではない。


鍵を開けたり、隠密行動をしたりすることに長けたエキスパートなのだ。

そんな人たちからすれば、一般的な民家に付けられる程度の鍵なんて簡単に開けられてしまうだろう。

せっかく新しい家に鍵を付けるなら、もう少し防犯性能の高い物にしたい。


「うーん、何か案があるの?」

「やれるかは分からないんだけど、魔力に反応する鍵とか。」

「発想は面白いけど……。」

そこからは二人で、ああでもないこうでもないと意見を交わしていく。


魔力を流したら開くようにする。

特定の何かを持っている人だけ反応するようにする。


セリーちゃんの魔道具に関する知識を聞きながら、私も思い付いたことを伝えてイメージを膨らませていった。

だけど、最終的に出た結論は非情だった。


「……というわけで、魔力に反応して開く鍵の実現は難しいの。」

「うぅ、ダメかぁ。」

例えば魔力石を媒介にした鍵を作った場合、同じ魔力石さえ持ってくれば誰でも開けられてしまうらしい。


魔力石の優れているところは、誰でも均一の魔法を使えることだ。

使う人によって大きく性質が変化しないからこそ、誰でも同じように魔道具を扱えるし、汎用的な使い方に向いている。


だけど今回に限っては、その長所がそのまま欠点になる。

人の魔力を記憶して、特定の人だけ違う効果を発揮させるような使い方には向いていない。


誰が魔力を通しても、魔力石を経由した時点で同じ波長になってしまうらしい。

つまり、本人確認には使えない。


「魔力石のような効果があって、使い手によって効果が変わる便利な石とか無いのかな。」

もう詰みだ。

そんな都合の良い物が簡単に見つかるわけもない。

ほとんど諦めた気持ちで軽く口にしただけだった。


「あるわよ?」

「あるの!?」

思わずシルフの方を見る。

あるんですか!?


「どんなの?」

「精霊石よ。精霊界にならたんまりあるわ。」

『精霊石』。ネームレスオンラインでも聞いたことのないアイテムが出てきた。


少なくとも私の記憶にはない。

シルフの言い方からすると、精霊界では別に珍しくもない普通の石みたいだけど。


「沢山あるなら、一つくらい貰っても良いのかな?」

「ええ、大丈夫よ。取ってくるから一分後に喚んで。」

「分かった。」

そう言い残すと、シルフの体が虹色の光に包まれる。

そして次の瞬間には、私たちの前からふっと姿を消した。

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