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しばしの休息⑫

セリーちゃんのお店を出た後、私たちはアクエリアスにある工務店へ向かった。

店内に入って家を建て直したいことを伝えると、早速店主と細かな話を詰めていく。


まず確認したのは、サジタリウスまで職人を派遣してもらえるかどうか。

サジタリウスは良くも悪くも田舎町だ。


家を建てられる職人はいるけど、せっかく建て直すならアクエリアスのような大きな街から腕の良い職人を呼びたい。

当然、遠くまで職人を派遣するとなれば費用も余計に掛かる。


その辺りを確認してみると、予算を増やせば対応できるという話になった。

うん、それなら問題ない。


地盤などについては、実際に現地を見てみないと何とも言えないらしい。

これは後日サジタリウスまで職人がやってきて、土地を調査してから確定することになった。


さすがに地面の状態までは私にも分からない。

そこは専門家にお任せしよう。


次は家の間取りについて。

部屋はいくつ欲しいのか、それぞれをどのくらいの広さにするのか。

それ以外にも、こういう造りにはできるのか、この壁にはこんな棚を付けてほしいなど、細かな希望を一つずつ伝えていく。


ただ、口だけではいまいち伝わらない。

説明する私と店主の間で微妙に認識が食い違っている気がしたので、紙とペンを借りることにした。


「えっと、こんな感じで……。」

紙の上に家の形を描き、部屋を線で区切っていく。


玄関がここ。

その先にこの部屋があって、こっちには廊下。

この壁には棚を作ってほしい。

そんなことを説明しながら、簡単な間取り図を描いていった。


別に私は絵が上手いわけではない。

ただ、遥か昔の前世でイラストを描いていた時期がある。

そのお陰もあって、最低限何を描いているのか分かる程度には形にすることができた。


この世界にはイラストや間取り図という概念がないので、最初は店主も不思議そうに紙を眺めていた。

だけど説明を続けているうちに、私が何を伝えようとしているのか理解してくれたらしい。

むしろ途中からは、しきりに感心しながら紙を覗き込んでいた。


「これは分かりやすいですね。うちでも取り扱って構いませんか?」

「良いですよ。」

これは別に私の発明でも何でもない。

前世では普通に使われていたものだ。

それで職人さんたちの意思疎通がしやすくなって、人々の暮らしが少しでも良くなるならお安いもの。

快く承諾しておいた。


そうしてある程度の希望がまとまったところで、今度は料金の話になる。

今回の内容だと、ほとんど一から要望に合わせて作るオーダーメイドになるらしい。

そのため普通の家を建てるよりもかなり高額になると、店主から念を押された。


「それで、どれくらいになりますか?」

私が聞いたのは金額だけ。

こちらの予算がいくらなのかは伝えない。

先に使える金額を教えてしまったら、それを基準に料金を決められる可能性があるからね。


店主は少し悩んだ様子を見せた後、渋々といった様子で金額を提示してきた。

それを聞いて頭の中で計算する。

うん。予算内だ。


「それなら大丈夫です。」

持ってきた風呂敷を広げ、中に入っていたお金を取り出す。


「……これは。」


目の前に積まれた大金を見て、店主が目を丸くした。

そして私がきちんと支払える客だと分かった途端、少しだけ様子が変わる。


「でしたら、こういったものもありますが。」

「こちらも付けられますよ。」

これはどうか、あれはどうか。

次々と色々な提案をしてくる。

太客だと分かった途端に営業が始まりました。


とはいえ、正直なところほとんど興味がない。

豪華な装飾なんかを付けても仕方ないし、家族が暮らしやすければそれで良い。

そう思っていたけど、弟か妹が生まれる予定だと話したところで提案の内容が変わった。


「それでしたら、入口に緩やかなスロープを設けるのはいかがでしょう。それと赤子用の寝台もご用意できます。」

「それはお願いします。」

そういうのは欲しい。

赤ちゃんを抱えて生活するなら、少しでも移動しやすい方が良いだろうし、ベビーベッドも必要になる。


他にもいくつか説明を聞き、必要だと思ったものだけを追加していった。

うん。ここまで聞いた限り、値段にもおかしなところはない。

こちらがお金を持っていると分かってから色々勧めてはきたけど、無茶な金額を吹っ掛けてくることもなかった。


どうやら優良店だったみたい。

最後に今後の流れを確認し、お互いに納得したところで話はまとまった。


「よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

こうして気持ち良く取引を終える。

新しい家がどんな風になるのか、少し楽しみだ。

私はシルフと一緒に工務店を後にした。


「ゴキゲンね。」

「良い取引ができたからね。」

工務店を出て歩いていると、私の様子を見たシルフがそんなことを言った。

どうやら自分で思っていた以上に顔へ出ていたらしい。


さっき売った素材代だけでは足りず、結局これまで貯めていたお金も少し切り崩すことになった。

だけど必要経費だ。家族のためなら惜しくない。

それに、これから何十年も住むことになる家だと考えれば、中途半端に妥協するよりずっと良い。


頭の中で、さっき店主と相談して決めた新しい家の間取りを思い浮かべる。

パパとママの部屋。私の部屋。

それから、これから生まれてくる弟か妹の部屋。


合計三部屋。

今はまだ必要ないけど、弟か妹が大きくなった時に自分の部屋を持てるようにしてある。


キッチンは今より広くして、ママが調理しやすいように作ってもらう。

将来的に冷蔵庫や他の魔道具を置くことも考えて、そのための場所も最初から確保しておいた。


リビングダイニングには家族全員で囲める大きなテーブルを設置する。

前世みたいにテレビがあるわけじゃないけど、植木鉢を置いたり、ちょっとした作業台を置いたりできる憩いの間だ。

皆が自然と集まれる場所になったら良いな。


それとは別に、家の中と外の両方から出入りできる倉庫も作ってもらうことにした。

そこにはママが仕事で使っている荷台や、パパの弓やナイフなんかを置ける。


今までは家の中に置いていた仕事道具も、専用の場所があれば整理しやすくなるだろう。

二人とも仕事で使う物はそれなりに多いから、倉庫は少し余裕を持って広めにしてもらった。


こうして改めて考えてみると、かなり立派な家になった気がする。

もちろん貴族が暮らしている屋敷と比べれば大したことはない。

使用人が何人も暮らせるような部屋もなければ、豪華な装飾を付けたわけでもない。

あくまで私たち家族が暮らすための家だ。


外装はかなり目立たなくなったけど内装はかなり凝ってる。

……これは本格的に鍵が必要になりそうだね。


やっぱりセリーちゃんに相談しておこう。

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― 新着の感想 ―
警備や使用人のいないただの立派な家は強盗ホイホイなってしまうので気をつけないと!
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