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しばしの休息⑩

昨日の晩はあの後、皆でシルフを散々可愛がってあげた。

家族だと言われたのがよほど恥ずかしかったのか、最初は顔を真っ赤にしながら「やめなさいよ!」なんて騒いでいたシルフも、最後には本気で反撃してきた。


そして私の魔力をたんまり吸われてしまった。

結果、私の一人敗北。あれはズルだと思います。

こっちは口なのに物理的に魔力を吸うのは反則でしょう。

今後プロレスする時には禁止技としたい。


ただ、あれだけ騒いでいたくせに本気で嫌そうには見えなかったので、またいつか可愛がってあげよう。


その後は家の改装について、予算はいくらにするのか、どんな間取りにするのかなんて話もした。

今の家は三人で暮らす分には十分だけど、これからは家族が一人増える。


赤ちゃんのうちはママたちと一緒に寝るとしても、いつかは自分の部屋だって必要になるだろう。

私も冒険者として各地を飛び回っているとはいえ、ここが実家であることに変わりはない。

帰ってきた時に寝る場所くらいは欲しい。


それなら最初から少し余裕を持った家にしておいた方が良い。

色々と話し合った結果、うちの周りには十分なスペースもあるので、中途半端に改装するくらいならいっそ建て直してしまおうということで話はまとまった。


もちろん建築費は私持ち。

建て直している間の宿代も私持ち。


「一回は一回だよね?」

そうパパにゴリ押しした結果、私の勝利となった。

家を建て直すために必要なお金と、その間に暮らすためのお金。


確かに用途は違う。

だけど『家を建て直すために必要なお金』という大きなくくりなら同じ一回に含めても良いはず。


我ながら完璧な理屈である。

ママと戦ったら絶対に勝てないからね。

勝てる相手を選んで正解だった。


ただし、そのことでパパは後ほどママからお話がある模様。

私のせいではございません。パパが了承しただけです。


それから家を建て直すにあたって、セリーちゃんが作っている魔道具についてもあれやこれやと説明した。

冷房、暖房、冷蔵庫。


今後そういった魔道具を置く可能性があるなら、最初から設置場所を確保しておいた方が良い。

完成した家へ後から無理やり置くよりも、最初から使うことを想定して作ってもらった方が絶対に良いはずだ。


それに冷蔵庫については、近日中に試作品が届くと思う。

そう説明すると、ママは大喜びしていた。


食材を長く保存できるようになるんだもんね。

以前作った氷室は一定の効果があったもののやはり耐久性や持続力に欠点があった。


その点、冷蔵庫があれば毎日の食事を用意する負担を少しは減らせると思う。

家事をしているママからすれば、かなり嬉しい魔道具だろう。


それにこれからは赤ちゃんのお世話も始まる。

少しでも家事が楽になるなら、早いうちから使い慣れてもらった方が良い。


……ただ、一つ問題がある。

油断すると空き巣に魔道具を盗られる可能性があるんだよね。


今のところ冷蔵庫なんて珍しい魔道具を持っている家はほとんどないだろうけど、珍しいからこそ価値がある。

盗んで売れば高値になると知られたら、それだけで狙われる理由になってしまう。


貴族用の豪華な鍵付き扉にすることもできると思う。

だけど、それはそれで『ここに貴重品があります!』って主張しているようなものだ。


それでは防犯のための扉なのか、泥棒を呼び寄せるための扉なのか分からない。

普通の家に一軒だけ立派な扉が付いていたら、私だって何があるんだろうって気になる。


だったら外から見た時には、周りの家と大して変わらない方が良い。

目立たず、見た目は庶民的。


そのうえで魔法鍵の付いた扉をセリーちゃんに発注せねば。

お願いしたら、きっと目をキラキラさせながら作ってくれるに違いない。


『鍵を開けるためだけの魔道具』なんて話をしたら、その場で作り始めても驚かない。

問題は私が余計なことを言うと、セリーちゃんがどんどん改良を始めそうなところかな。

開発者としては頼もしいんだけどね。


そもそも、この世界では庶民の家に鍵なんて付いていない。

今まで大きな問題になっていないから、それが普通なんだろうけど。


前世の感覚が残っている私からすると、家の扉を閉めるだけで外出するのはどうしても不安になる。

ましてやこれから魔道具みたいな高価な物が庶民の家にも普及していくなら、防犯に対する意識だって変えていく必要があると思う。


便利な物が増えれば、それを狙う人だって出てくる。

生活だけ便利にして、防犯は昔のまま。


それではいつか問題が起きるだろう。

こういったところの意識改革も、私が生きているうちに少しずつやっていかねば。


もちろんセリーちゃんを介して、私自身は目立たないように!

冷蔵庫を作った少女が、今度は魔法鍵まで作りました。

素晴らしい。私は何もしてませんよ。


「アイラ、そろそろ寝る時間でしょ。」

「んっ。」

シルフに額を小突かれて、やっと意識が戻った。

どうやら家の防犯について真剣に考えすぎていたらしい。


気付けば頭の中では、扉だけではなく窓の位置やら魔道具の置き場所やらまで考え始めていた。

危ない。このままだと寝落ちするまで一人で新居の設計会議を続けかねない。


もちろん身重なママや、これから生まれてくる可愛い弟か妹のためにも妥協はしたくない。

安心して暮らせる家にしたいし、できることなら今より便利で快適な家にもしてあげたい。


とはいえ、それはあくまで私が健康なうえでの話だ。

無理は良くない。今日はこれくらいにしておこう。


前世の知識があるから、何となくの良し悪しや防犯の概念については分かる。

だけど私は建築のプロではない。


家を建てた経験なんて前世を含めても一度もないし、こちらの建築技術について詳しく知っているわけでもない。

実際にどうやって家を建てるのか、どこまで希望通りにできるのか。


材料の調達だって必要だろうし、私が知らない決まりや常識もあるかもしれない。

その辺りの施工に関しては、ちゃんと業者と相談しながら決めるべきだろう。

私が全部決める必要なんてないんだしね。


「パパ、ママ、そろそろ寝るね。」

「ああ、おやすみアイラ。」

「お腹を出して寝ちゃだめよ。」

「それはママの方でしょ。」


「あら、確かにそうね。」

ママがふふっと笑う。

いや、笑い事じゃないよ。


今はママ一人の体じゃないんだから、ちゃんと気を付けてください。

これから少しずつお腹も大きくなっていくだろうし、今まで通りに動けなくなることだって増えるはずだ。

私が家にいる間くらいは、できるだけ手伝おう。


「大丈夫だ。俺がママと一緒に寝てるからな。」

パパが何故か自信満々に言った。

そういう話じゃないと思うよ、パパ。


……いや。そういう話なのかな?

一緒に寝ていれば、何かあった時すぐに気付ける。

そう考えれば確かに意味はある。


でも何となく、パパが言いたいのはそういうことじゃない気もする。

結婚したことないから、よく分かんないや。


「それじゃあシルフ、私は寝るね。」

「ええ、また明日ね。」

そう言うと、シルフはいつも通り虹色の光に包まれ、そのままアールヴヘイムへ戻っていった。

さっきまでシルフがいた場所から光が消えていく。


今日も一日ありがとう。

私も自分の寝床へ向かい、靴を脱いで布団へ入った。


「『ライト』。」

灯していた魔法を解除する。

途端に部屋の中から明かりが消え、窓から差し込む月と星の光だけになる。

外から聞こえてくる音もほとんどない。


久しぶりに帰ってきた自分の家。

使い慣れた布団に体を預けていると、少しずつ眠気がやってくる。


今日一日だけでも、本当に色々なことがあった。

家に帰ってきて。

パパとママと一緒にご飯を食べて。

そして、弟か妹ができると知った。


ずっと三人だった家族が、もうすぐ五人になる。

そんなことを考えると、自然と頬が緩んだ。


まだ顔も知らない。

男の子なのか女の子なのかも分からない。

どんな性格になるのかだって分からない。

それでも、きっと可愛い。


布団の中で目を閉じた。

私の可愛い弟か妹。早く、会いたいな。

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― 新着の感想 ―
フィリピン人の知人が大きいテレビを家に設置したら その日の夜に強盗が来るらしい。 だから怖いので大きいテレビは買えないと言ってました。
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