しばしの休息⑨
「急なんだが。」
夕食を食べ終わって片付けをすると、突然パパからそんなことを切り出された。
深刻な話ではなさそうだけど、少しだけ改まっていて真剣な話をするような空気を感じる。
「?」
何だろう。
私がパパの方を見ていると、シルフとママがちらっと目線を合わせて笑った。
「サラ、アイラに話してあげてくれ。」
「ええ。アイラ、よく聞いてね。」
ママが改まって私の方をしっかり見る。
「うん?」
「ふふ。」
横ではシルフまで楽しそうに笑っている。
どうやらシルフは何の話なのか分かっているらしい。
何なの、私だけ除け者にされてる?
そんなことを考えていると、ママが自分のお腹へ手を添えた。
「私のお腹にね、アイラの弟か妹がいるの。」
「へ?」
一瞬、言われた意味が頭の中に入ってこなかった。
ママのお腹に弟か妹がいる。
「えええええええええ!?」
思いっきり大きな声が出ちゃった。
それってママが妊娠してるってことだよね!?
「アタシは気付いてたわよ。」
シルフが得意げに言う。
「あっ!」
そういえば前に家へ帰ってきた時、ママとシルフが何か目配せしていたことがあった。
今日だってパパはママを呼ばずに一人でヴォルフを解体していたし、食器もいつもより低いところへ移されていた。
これが理由だったんだ!
「じゃあ、私がお姉ちゃんになるの!?」
思わずテーブルから身を乗り出して尋ねる。
「そういうことだ。」
「そういうことよ。」
「そういうことね。」
パパ、ママ、シルフの声が綺麗に重なった。
わぁ、ハモった。
「やったっ!」
嬉しい!
前世から合わせても、弟か妹ができるのは初めてだ。
弟だったら一緒に冒険してみたい。
妹だったら一緒に散歩したい。
それにきっと、どっちでも可愛い。
「いつ生まれてくるの?」
「予定では最低でもあと半年あるわね。」
今から数えれば出産は春頃になるだろう。
「その時期は出来るだけ予定を開けとかなきゃ。」
絶対に帰ってきたい。
何があっても、その時には家にいたい。
「じゃあ早くハイサモナーになっておかなきゃね。」
「あ、そうだった。」
「ハイサモナー!?」
パパとママが揃って驚いた。
あ、そっか。
私の感覚では次の目標だけど、普通の庶民からすればとてつもないことを言ったのかもしれない。
でもママ、あんまりびっくりするとお腹の子供に良くないから落ち着いてね。
……どうか間違っても、その時期に魔王出現なんてしないでほしい。
弟か妹に会いたくて、多分その時の私は自重できないと思うから。
そして十二歳差の兄弟。
随分と歳の離れた兄弟だと思うかもしれない。
だけど前にも説明した通り、この世界では寿命が最低でも二百歳ほどある。
全盛期だってその六割近くあるので、百二十歳くらいまでは全然適齢期だ。
だから数十歳差の兄弟なんて別に珍しいことではない。
私と生まれてくる子の十二歳差くらいなら、何もおかしくないのだ。
ちなみに魔力量に比例して長生きすることを考えると、私自身の寿命は数百歳くらいまで達している気がする。
数百歳かぁ。
そんなに長い人生をどうやって楽しむのか、今のところ完全にノープランである。
まあ、それは将来の私に任せよう。
話は逸れたけど、我が家待望の第二子だ。
絶対に可愛がらなければいけない。
そうと決まれば早速、準備に取りかからなければ。
「ねぇパパ、ママ。私がお金を出すから家を改装しない?」
「成人したばかりの娘にお金を出してもらうほど苦しいわけではないんだが……。」
いや、それは嘘です。
別に生活に困っているという意味ではないけど、パパはもの凄く堅実だ。
何かあった時に困らないよう、ちゃんとお金も貯めている。
その代わり普段の生活は極めて質素で、まだ住める家をわざわざ改装するための予算なんて残しているはずがない。
私は今、冒険者として普通に稼げている。
家を良くするくらいなら十分出せる。
「私が何かしてあげたいの。ダメ?」
「うーん。」
パパが腕を組んで考え込んでしまった。
するとママが横から口を挟む。
「良いじゃない。最後の親孝行のつもりで受け取っておいたら?」
「最後のつもりは無いんだけど……。」
これからもするつもり。
まだ十二歳ですよ、私。
「私たちは何度も受け取るつもりは無いわ。そのたった一回を今回使うの?」
「うーん……。」
そこまで言われると悩む。
ママはこうなったら絶対に曲がらない。
つまり、私が親孝行として大きなお金を出せるのは一度だけ。
その貴重な一回を今回使うのか、少しだけ考える。だけど。
「分かった。使う。」
この先、また何が起きるか分からない。
魔王復活みたいな大事件が、いつ起きるとも限らないんだ。
その時になって、あの時やっておけば良かったと後悔するくらいなら、使える時に使ってしまおう。
私が何かしてあげたいと思っている今、その一回を使う。
パパとママが揃って目を大きくした。
どうやら、すぐ決めるとは思っていなかったらしい。
そして二人とも、ふっと笑った。
「ははっ。俺たちの負けだな、サラ。」
「ええ、うふふ。」
何ですか二人とも。
様子を見るに、どうやら優柔不断な私が最後まで決めきれず、保留にすると思っていたらしい。
失礼な。私だって色々考えてるんです。
「本当に仲が良いわね、アンタたち。ちょっと羨ましいわ。」
シルフがため息を吐く。
だけど、その顔は笑っていた。
そういえばシルフは前に、精霊には人間みたいな意味で本当に血の繋がった親族はいないと言っていた。
だから少し羨ましいのかな。
「大丈夫。血は繋がってないけど、シルフも私たちの家族だよ。」
「はぁ!? 人間ってよく分かんないこと言うわね!」
パタパタパタパタパタパタ。
すっごく速い。
今まで見た中で一番速く、シルフの羽が揺れる。
それに気づいた家族は笑った。




