しばしの休息⑦
こうして、あっという間に一週間が経った。
楽しい時間というのは、本当に過ぎるのが早い。
海底洞窟へ冒険に行って。
セリーちゃん一家と一緒にご飯を食べて。
夜はセリーちゃんと話して。
魔道具作りにも少しだけ関わった。
そして、この一週間でセリーちゃんの冷蔵庫はとてつもない進化を遂げていた。
最初に見せてもらった時とは比べものにならないほど魔力効率が向上している。
シルフの見立てでは「無駄に開け閉めしなければ、一年くらいは持つんじゃない?」とのこと。
最初は魔力石一個で一か月程度だった。
それを考えれば、とんでもない進歩だ。
正直に言うともうこれで、ほぼ完成していると思うけど。
「耐久テストはした方が良いかも。」
私が何気なく口にしたその言葉は採用されることとなった。
現在は複数台の試作品を作って、色々な条件で実験することになっている。
一日に何度も扉を開け閉めするもの。
逆に、ずっと閉めっぱなしにしておくもの。
設定温度を高めにしたもの。
可能な限り低く設定したもの。
色々な使い方を想定して。
どのくらい壊れずに動き続けられるのか。
そんな最終試験が行われていた。
だって売った後になって、すぐ壊れました。
耐久性が足りませんでした。返金してください。
なんてことになったら大変だもんね。
最悪、詐欺だと言われて訴えられるかもしれない。
この世界にどこまで商品保証の考え方があるのかは知らないけど、信用を失うのは間違いない。
商売をするなら、そこは大事だと思う。
セリーちゃんも、最初から一般向けに大量販売するつもりはないらしい。
まずは『試作品』だと理解した上で買ってくれる相手にだけ販売する。
実際に使ってもらいながら、問題点を探していく予定だそうだ。
それが安全だよね。
「試作品で良ければ、アイラちゃんの家にも送るよ。」
「え、良いの!?」
思わず身を乗り出した。
それは嬉しい。絶対にママも喜ぶ。
食材を長く保存できるなら、家事もかなり楽になるはずだ。
魔力石ならママの店でも取り扱っている。
交換が必要になっても困ることはないだろう。
「ありがとう。きっとママも喜ぶよ。」
「じゃあ今度送っておくね。」
「うん!」
あ、でも一つ気になる。
「説明書とかはある?」
「説明書?」
セリーちゃんが首を傾げた。
やっぱり。この世界には、商品へ説明書を付けるという考え方自体があまり無いらしい。
少なくともセリーちゃんには馴染みがなかった。
なので説明書とは何なのか。
どういう目的で商品に付けるのか。
簡単に説明することにした。
「使い方とか、やっちゃいけないこととかを書いておくんだよ。」
「へぇ……。」
「簡単に使える魔道具なら、図解さえ用意すれば文字が読めなくても扱えるよ。」
「え、何それ凄い案だよ!」
セリーちゃんの目が輝いた。
「やるじゃない、アイラ。」
シルフまで感心したように言う。
やめて。これも私が考えたわけではありません。
前世では普通にあったものです。
そんなに褒めないでください。
罪悪感が増します。
「でも私、絵は描けないからなぁ。」
セリーちゃんが少し考え込む。
「画家さんを探すところからかな。」
「当てはあるの?」
「ううん。でも、お金で雇える人なら探せると思うよ。」
「そっか。」
この世界で画家という職業は、基本的に貴族向けの需要が大きい。
肖像画だったり。屋敷へ飾る絵だったり。
芸術品として絵を描く人が多い。
商品説明のために絵を描いてほしい。
なんて依頼を受けてくれる人が、本当に簡単に見つかるのかな。
だけど、まだ名前が売れていなくて。
絵だけでは食べていけない人なら。
仕事として受けてくれる人もいるのかもしれない。
……ただ画家からすれば、芸術とは全く別の仕事に感じるかもね。
私はこういう仕事も立派な絵の仕事だと思うけど。
この世界では、まだそういう考え方が一般的ではないんだろうなぁ。
「説明書は作るのに時間がかかるから、アイラちゃんのご両親には届けた時に使い方を説明しておくね。」
「うん、ありがとう。」
それなら安心だ。
うちのパパもママも地頭は良い。
一度きちんと説明してもらえれば、問題なく使えるだろう。
冷蔵庫かぁ。実家に帰る楽しみが、また一つ増えたね。
そして、いよいよアクエリアスを出発する時間になった。
荷物をまとめ、お世話になったセリーちゃん一家へ挨拶する。
「それじゃあ皆さん。何から何までお世話になりました。」
私はぺこりと頭を下げた。
一週間、本当に良くしてもらった。
「そんなことないよ。私も助かっちゃった。」
セリーちゃんが笑う。
「アイラちゃんの持ってきてくれたご飯、美味しかったわ。」
お母さんも笑顔だ。
「娘とも仲良くしてくれてありがとう。」
お父さんまで、いつもの勢いを少し抑えて穏やかに笑っている。
そして。
「なかなか悪くなかったわ。」
「……。」
一精霊だけ、やたら上から目線だった。
まあシルフらしいと言えば、シルフらしいけど。
本人的には、これでもかなり満足していたという意味なんだろう。
家の前まで出て皆で手を振る。
「またねー!」
「うん。また来るね!」
短い滞在だったけど本当に楽しかった。
次に来る頃には、冷蔵庫も完成しているのかな。
セリーちゃんの魔道具がどこまで進化しているのかも楽しみだ。
そんなことを考えていたら。
「アイラちゃーん!」
セリーちゃんが大きな声を上げた。
「なにー?」
振り返る。そして、
「クレスさんと仲良くなったら教えてね~!」
「絶対、嫌~!」
最後の最後でそれ!?
一週間散々弄ったのに、まだ足りないの!?
「ふふふ。」
後ろではシルフまで笑っている。
もう知らない。
セリーちゃんにはしばらく会いに行かない!
私はそう強く心に決めながらアクエリアスの街を後にしたのだった。




