しばしの休息⑥
ここからの一週間については、特別大きなことも無かったのでダイジェストで。
朝から夕方までは、アクエリアスの港から船で行ける海底洞窟を探索した。
目的は戦闘よりも素材の採集が中心。
岩肌に露出している天然の魔力石の原石を採ったり。
洞窟の奥で人魚の姿をしたモンスターに遭遇したり。
初めて訪れる場所だったので、私としてはかなり楽しかった一方で、
「また魚……。」
海底洞窟を泳いでいるモンスターを見たシルフは、何とも言えないうんざりした顔をしていた。
前に倒させられた海のモンスターでも思い出したのかな。
魚型、蟹型、海底洞窟だけあって、水の中に生息するモンスターが多い。
シルフからすると、あまり良い思い出が無いのかもしれない。
その中でも食べられる種類のモンスターは、倒した後に持ち帰った。
魚は活け締めして蟹の身は傷まないよう凍らせる。
そうして処理した素材をセリーちゃんのお母さんへ渡したところ。
「まあ! こんなに良いもの貰っていいの?」
もの凄く喜んでもらえた。
港町なので魚介類そのものは珍しくない。
だけど私たちが持ち帰ったものは、討伐した直後にきちんと処置をしている。
活け締めした魚肉に、すぐ凍らせた蟹の身。
港で普通に売られている品よりも状態が良かったらしい。
喜んでもらえたなら何よりです。
それと今回の滞在中に、セリーちゃんのお父さんとも初めて会った。
以前セリーちゃんから聞いた話だけだと。
真面目で娘にも厳しく、いかにもお父さんという感じの人を想像していたんだけど。
「いやぁ、アイラちゃんか! いつもセリーが世話になってるね! あの魔道具も本当に面白い発想だ!」
実際に会ってみるとめちゃくちゃ喋る人だった。
商品の話、店の話。
最近のアクエリアスの景気。
私たちが作っている魔道具の今後について。
次から次へと話題が飛んでくる。
ああ、この人。完全な商売人だ。
以前セリーちゃんに厳しい話をしていたのも、娘が大事だからこそだったらしい。
別に怖い人ではなかったのは良かった。
お友達のお父さんに睨まれながら一週間過ごすことにならなくて、本当に良かった。
そして夜になれば。
「今日は何の話する?」
「ん~、じゃあ昨日の続き!」
一日の終わりは、セリーちゃんの部屋でパジャマパーティ。
……パジャマパーティ。
そう呼んでいいのかは少し疑問だけど。
あんまり良い寝間着が無くて今は下着みたいな格好なんだよね。
まあ、それは置いておこう。
話題の中心は、私の冒険の話とセリーちゃんの商売の話だった。
私がどこの街へ行ったのか。
どんなモンスターと戦ったのか。
セリーちゃんがどんな商品を作ったのか。
どれくらい売れたのか。
そんな話をしているだけでも、かなり盛り上がる。
だけど、この一週間で一番盛り上がってしまった話題は。
「だからアタシは言ってるでしょ。金髪はアイラのこと絶対好きだと思うわ!」
これだった。
「シルフ!」
余計なことを言わないで!
「えっ!?」
ほらぁ!
案の定、セリーちゃんが思いっきり食いついた。
「何それ!? アイラちゃん、好きな人いるの!?」
「いないよ!?」
「金髪が一方的に好きなのよ。」
「シルフ!」
だから!
年頃の女の子の前で、そんな話をしたら興味を持つに決まってるじゃん!
……まあ。私だって、人の恋バナなら興味あるけど。
それとこれとは話が別です。
私が主役となれば話は別なのだ。
「ねぇねぇ、どんな人!?」
「前に話してたクレスって人よ。」
「シルフ!」
「クレスさん!? あの騎士の!?」
「ほら、やっぱり覚えてる!」
もう嫌。
その後、二人から左右を固められた私は、強い圧力に屈した。
本当に仕方なくクレスについて話すことになってしまった。
とはいえ最初にクレスと出会った時のことは、セリーちゃんには話せない。
あれを説明しようとすれば、私がずっと隠していることまで話さなければならなくなる。
だから最初の部分については、かなり濁して話すことになった。
「えっと。昔、ちょっと見かけたことがあって。」
「見かけた?」
「うん。」
「それで二年後にレオで再会したの?」
「そう。」
「……?」
ほら。やっぱりそうなるよね。
話の最初が全然繋がっていない。
セリーちゃんが露骨に『?』という顔をしている。
お願い。そこは深く聞かないで。
それでも話を進めていくうちに、疑問よりも恋バナの方が楽しくなってきたらしい。
「それでね、アイラが危ない目に遭った後、金髪がアイラの頬を触ったのよ。」
「ええっ!?」
「ちょっとシルフ!?」
「それ絶対好きじゃん!」
「だから違うって!」
「しかも別れる時なんて、わざわざアイラに次の行き先まで聞いてたのよ。」
「シルフ!」
何で全部喋るの!?
「それって、また会いたいからじゃないの?」
「違うよ! 魔王のことで連絡が必要になるかもしれないから!」
「本当にそれだけかしらねぇ。」
シルフがニヤニヤしている。その顔やめて。
「じゃあ、クレスさんがアイラちゃんのこと心配して会いに来たのも?」
「それは騎士として――。」
「好きだからでしょ。」
「シルフ!」
「きゃー!」
何でセリーちゃんまでそんなに楽しそうなの!?
話せば話すほど。
シルフが勝手な妄想を付け足す。
そしてその妄想へ、セリーちゃんが食い気味に反応する。
「それでそれで!?」
「アンタ、結構食いつくわね。」
「だって気になるもん!」
「私は気にならないよ!」
「本人なのに?」
「本人だからだよ!」
本当にもうやめてください。
二人に挟まれたまま私は逃げることもできず。
話題を変えようとしても、すぐクレスの話へ戻される。
そのあまりの勢いに、もう殺して……。と私は心の中で泣き続けることになった。




