しばしの休息②
「ドライアドー!」
「遊びに来たわよ~!」
世界樹の近くを進みながら、私とシルフは揃って声を上げた。
早くドライアドに会いたい。
最近は本当に色々あり過ぎた。
魔王は復活するし、人間には襲われるし、未来のことを考えれば考えるほど不安になる。
だから今日は、心身共にドライアドに癒してほしい。
そんなことを考えながら歩いていると。
「アイラ……?」
聞き覚えのある声がした。
「アイラ!」
「ドライアド!」
嬉しそうな声と共に、私たちの前で少しずつドライアドの姿が可視化されていく。
緑色の髪。
頭から生えている二枚の双葉。
そして大きな胸の――。
……大きな胸?
「……あ?」
思わず目を擦る。
いや、胸だけじゃない。
というか、何か全体的に大きいような……?
「ド、ドドドド、ドライアド?」
隣を見ると、シルフまでわなわなと震えていた。
あ、これ、私だけの目の錯覚じゃないんだ。
以前まで小さかったドライアドは、私より少し小さいくらいの大きさにまで成長していた。
とはいえ、身長そのものはまだ小さい。
だけど体型は私やシルフよりも、明らかに大人っぽかった。
特にその、一部分が。
……どうしてこうなった。解せぬ。
「アイラ、待ってたよぉ。」
「わっ。」
大きくなったドライアドが勢いよく抱きついてくる。
そのまま正面から、ぎゅうっと抱きしめられた。
柔らかい。
何というか全体的に柔らかい。
それと、舌っ足らずは直ったけど、以前より喋り方がぽやぽやしている気がする。
「ドライアド、大きくなったねぇ。」
「ん♪」
頭へ手を伸ばし、優しく撫でる。
するとドライアドは嬉しそうに目を細め、頭の双葉をぷるぷると揺らした。
可愛い。
見た目は随分成長したけど、この反応は以前と全く変わらない。
「なーんでドライアドの方が大きくなってんのよ!」
そんな私たちの横ではドライアドを指差しながら、心底悔しそうにしている精霊が一人。
「私ね、アイラの魔力が大きくなって急に大きくなった。」
「「あ。」」
私とシルフの声が綺麗に重なった。
レーヴァテイン使った時か~~~。
原因を聞けば、思い当たることは一つしかない。
そりゃそうだよね。
ドライアドだって私と契約していて、魔力で繋がっている。
あの時の私の魔力がシルフに影響していたのなら、ドライアドに何の影響も無いはずがない。
離れたアールヴヘイムにいたから、今まで気付かなかっただけだ。
「ん? でもシルフは……。」
「アイラ、それ以上言ったら怒るわよ。」
「はい。」
怖い。目が据わってる。
どうやら、その先を口にしてはいけないらしい。
「シルフ、怒っちゃダメ。」
ドライアドが私を抱きしめたまま、シルフを窘める。
「大きくなってもドライアドは良い子だね。」
私は嬉しくなって、今度はこちらからドライアドをぎゅーっと抱きしめた。
「きゃー♪」
楽しそうな声が返ってくる。
うん。見た目は大人っぽくなっていても、中身はいつものドライアドだ。
それなら、うーん。
これだけ大きくなったんだし、もう連れ帰っても良いですか?
「ダメです。」
「うひゃあ!?」
突然背後から声がして、思わず飛び上がりそうになった。
「お姉ちゃんだぁ。」
ドライアドだけは嬉しそうに声の方を見る。
そこにいたのは土の精霊王さん。
いつの間に。
というか私の心を読むのと、世界樹の中から突然出てくるのもやめてもらって良いですか?
心臓に悪いです。
「お久しぶりですね、アイラさん。」
「お久しぶりです。」
「久しぶりね、土の。」
シルフも軽く挨拶を交わす。
この組み合わせも久しぶりだ。
「妹は『何故か』急成長しましたけど、まだ子供ですから。精霊魔法の扱いも未熟です。」
「へー、そうなんですね。」
今やたら『何故か』を強調しませんでした?
絶対何か分かってるよね?
でも知らなかった振りをしておこう。
私は何も知りませーん。
レーヴァテインなんて知りませーん。
「まだアイラと冒険しちゃダメ?」
ドライアドが姉を見上げる。
「そうですね。まだもうちょっと我慢しましょう。」
「分かった。我慢する……。」
「うっ。」
私の胸へ顔を埋めたまま、しょんぼりするドライアド。
頭の双葉まで、しゅんと下へ曲がった。
そんなところまで感情で出るんだ。愛おしい。
「許可が出たらいっぱい冒険しようね。」
「ん。」
頭を撫でながら声をかけると、ドライアドは小さく頷いた。
何とか納得してくれたらしい。
その時、背中にぴとっと何かがくっついた。
「……。」
「ん?」
背中から僅かな重みを感じる。
「シルフ、どうしたの?」
後ろを振り向く。
そこには、私の背中へぴったりとくっついているシルフがいた。
「……。」
何も言わない。
ただくっついている。
「おやおや。」
姉ドライアドが、ふっと楽しそうに笑った。
その反応を見て、ようやく理解した。
あ、これ。
妹ドライアドに嫉妬してるんだ。
普段のシルフなら絶対に自分から認めないだろう。
それなのに無言で甘えてくる姿が珍しくて、思わずキュンとしてしまった。可愛い。
でもここで何か言ったら絶対にいじける。
なので何も言わない。
私はドライアドを抱きしめたまま、背中にくっついているシルフもそのままにしておいた。
「それにしてもアイラさん。しばらく見ないうちに、ちょっと雰囲気が変わりましたね。」
「そうですか?」
姉ドライアドが、ふーむと私のことをマジマジと眺める。
自分では何も変わった気がしない。
魔王と戦ったくらいで、見た目が変わったわけでもないし。
何だろう。
「近いうちに『ハイサモナー』になれるかもしれません。」
「!?」
思わず目を見開いた。
「本当ですか?」
もしかして私、転職できるの?
『ハイサモナー』になれば、契約した精霊を二人まで同時に連れて歩ける。
つまりシルフとドライアド。
二人を一緒に連れて冒険へ行けるようになる。
「ええ。以前よりも精霊への親和力も上がったようですし。」
姉ドライアドは私を見ながら頷いた。
「風のの髪がもう少し伸びたら、もう一度アールヴヘイムを訪れてください。私が精霊女王に取り次ぎましょう。」
「わ、ありがとうございます!」
思わず声が弾んだ。
これは願ってもない話だ。
いつ転職できるのか分からなかったけど、これで一つの目安ができた。
「ドライアド、もうすぐ私やシルフと一緒に冒険できるよ。」
「……本当?」
ドライアドが顔を上げる。
「うん。」
「ようやく一緒に冒険できるのね。」
シルフも嬉しそうに声を上げた。
「やったぁ。」
「やったね!」
そのまま皆でキャッキャと喜ぶ。
この日を待ち望んで。
もうすぐ一年になりそうだもんね。
ドライアドと出会ってから、ずっと楽しみにしていた。
シルフとドライアド。
二人と一緒に世界を旅する日。
『ハイサモナー』になれる日が。
本当に待ち遠しいなぁ。




