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しばしの休息③

その後は皆でご飯を食べながら談笑したり、妹ドライアドに魔力をあげたりして過ごした。

久しぶりに会えたことが嬉しいのか、ドライアドはずっと私の近くから離れない。


可愛い。とても癒される。

ここ最近の疲れが少しずつ溶けていくようだ。

……ただし姉ドライアドだけは別だった。


「いやー、しかしアイラさんの成長速度には目を見張るものがありますね。」

「そ、そうですか?」

「ええ。何があったのでしょうね?」

「さ、さぁ?」


会話の随所随所で。

『私は秘密があることを知ってます』

とでも言いたげなチクチク言葉を浴びせてくる。


笑顔なのが余計に怖い。許して。

確かに色々隠してますけど。

これは非常に話しづらいことなんです。


とはいえ、姉ドライアドも強引に聞き出そうとはしてこない。

知っているけど自分から問い詰めるつもりはない。

あくまで、そっちから話しなさい。

そういうスタンスなのね。


何となくティターニアに会った時までには、覚悟を決めておいた方が良い気がしてきた。


そんなことを考えていた時だった。

「王様ー!」

遠くから声が聞こえた。


振り向くと、白い羽を持つシルフがこちらへ向かって凄い速さで飛んできている。

しかも一人だけではない。

何人かが揃って、明らかに慌てた様子でこちらへ向かってきた。


「どうしたのアンタたち。」

「火の精霊王にばれました!」

「早く逃げて!」

「え!?」


もう!?

サモナーになった日から、私はずーっと火の精霊王であるサラマンダーから逃げ続けている。


あの日以来、白い羽のシルフたちは私たちへ近づいてくる精霊を監視してくれていたのだ。

今回も見つかった時のために協力してもらっていた。

だけどこんなに早くバレるなんて。


「はぁ~、面倒ね。」

シルフが心底嫌そうにため息をつく。


まあ、あのサラマンダーとは、どこかでちゃんと決着をつけないといけないんだよね。

いつまでも逃げ続けるわけにもいかない。

だけど今ここで話すのは悪手だと思う。


少なくとも私の中では、まだ早い。

話をするならハイサモナーになるため、ティターニアに会った時かな。


「私が少しだけ時間を稼いでおきますので、あなたたちはその隙に。」

姉ドライアドが静かに立ち上がった。

そのまま体が世界樹の幹へ吸い込まれるように入っていく。


「ありがとうございます。」

「お話はまたの機会に。」


最後にこちらへ向けられた笑顔。

……圧があったなぁ。


どうあっても私自身の口から話をさせたいらしい。

はい、その時が来たらちゃんと話します。多分。


「ドライアド、ごめんね。」

膝の上に乗せていたドライアドを地面へ降ろし、その頭を優しく撫でる。


「アイラ、行っちゃうの?」

途端にドライアドの表情が曇った。

凄く残念そうな顔。

頭の双葉まで少し元気を失っている。


うう、凄い後ろ髪を引かれる。

私だって、もっと一緒にいたい。


「ごめんね。このままだとサラマンダーに捕まっちゃうから。」

「悪いのはあの火蜥蜴よ!」

「こら、シルフ。悪口はダメ。」


あとドライアドの教育にも悪いです。

変な言葉を覚えさせないでください。


「私が怒っとく、ね。」

ドライアドが両手をぐっと握り締めた。

小さな拳を胸元まで持ち上げて、やる気満々の顔をしている。


可愛い。もの凄く可愛いけど。

悪いことは覚えないでほしいなぁ。


「ダメだよ。それにそんなことしたら、サラマンダーとの関係がもっと拗れちゃうから。」

「そう?」

「うん。」


サラマンダーにも、サラマンダーなりに理由があるはずだ。

そこへ他の精霊たちまで集まって一斉に責めたりしたら、余計に意固地になってしまうかもしれない。


私はこれからも精霊たちと良好な関係を築いていきたい。

そのためにも今は我慢の時だ。


「ぷぅ。」

ドライアドが頬いっぱいに空気を溜める。

分かりやすく不満ですという顔。

本当にいちいち可愛くてつらい。


「アイラ、そろそろ限界よ。」

シルフが周囲の気配を確認しながら声をかけてきた。


「分かった。」

仕方ない。名残惜しいけど、そろそろ本当に離れないと。

私はもう一度ドライアドの前にしゃがみ込む。


「ドライアド、次に来た時はきっと一緒に冒険できる時だよ。」

「ん、待ってるね。」

「うん。」


ドライアドは私と握手をする。

それからシルフとも手を取り合って、嬉しそうに笑った。


「王様、急いで!」

「分かってるわよ! ドライアド、また会いましょう。」

「ドライアド、体に気を付けてね。」

「アイラとシルフも、ね。」


私たちは最後にもう一度手を振る。

シルフの精霊魔法で私の体がふわりと浮かび上がった。

そのまま二人で世界樹から離れていく。


ドライアドも、見えなくなるまで大きく手を振り続けていた。

私も何度も振り返りながら手を振り返す。


「今日は早かったね。」

世界樹からある程度離れたところで、ようやく口を開く。

前回より、ずっと早く見つかった。


「一晩くらいは保つかと思ったけど、甘かったわね。」

「ね。」


火の精霊たちに監視されているような気配は無かった。

それなのにサラマンダーはどうやって、私がアールヴヘイムへ来たことに気付いたんだろう。


「火の精霊王の探知って、どれくらい有効なの?」

「本気を出せば世界樹全体くらいはいけるのかもね。」

「そんなに?」


サラマンダーは火力だけに優れた精霊ではない。

探知能力にも優れた種族だ。


何か普段と違う予兆を感じて。

それを調べてみたら、私がいた。

そんなところだろうか。


「あの子達がヘマ打った可能性もありそうね。」

「あの子達って、さっきのシルフたち?」

「そうよ。」


なるほど。確かにそれもありそうだ。

白い羽のシルフたちは、私たちを隠すために普段とは違う行動をしていたはずだ。


その不自然さにサラマンダーが違和感を覚えた。

そこから調べられて、私たちの存在が見つかったことも十分あり得る。


「そうなると、次からこの手は使えないかもね。」

「別に良いでしょ。次来るときはもうコソコソ隠れなくていいんだから。」

「あ。」


それもそうか。

次にアールヴヘイムを訪れるのは。

ハイサモナーになる時だ。


その時にはティターニアとも会うことになる。

サラマンダーから逃げ回る必要もなくなるだろう。


それにハイサモナーになれば、ドライアドとも一緒に冒険できるようになる。

そうなれば、ドライアドに会うためだけにアールヴヘイムへ通う必要も無くなる。


つまり、この逃亡生活も、今回で最後になるはずだ。


「そのためにも早くシルフの髪を伸ばさないとね。」

姉ドライアドが言っていた。

風のの髪がもう少し伸びれば、精霊女王へ取り次いでくれる。


なら今は、シルフの成長を待つだけだ。


「あら、それならギャラルホルンを付けた状態でアイラの魔力をたくさん貰わないとね。」

「嫌だ~!」


即答した。

それは嫌です。


確かにそれが一番の近道だとは思う。

ギャラルホルンを装備した状態なら、普段とは比べものにならない量の魔力をシルフへ与えられる。

そうすれば髪だって、一気に伸びるかもしれない。


でもあのMPを吸われる感覚は、どうしても耐えられない。

思い出しただけで少し変な気分になる。


それに今回アールヴヘイムへ来たことで、もう一つ分かったことがある。

GM装備の影響はシルフだけではない。

魔力で繋がっているドライアドにも及ぶ。


レーヴァテインを使っただけで、あれだけ急成長した。

ならギャラルホルンだって、何が起きるか分からない。


これからは今まで以上に、GM装備を使う場面を慎重に選んだ方がいい。

下手に使ってまた精霊たちに異変が起きて、その原因を辿られたら。

いよいよティターニア本人まで出てくるかもしれない。それは困る。


だからGM装備なんて使わなくても良い。

そんな平和な日々が。

これから少しでも長く続いてくれることを願った。

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