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復興支援⑭

「何よそれ。酷すぎない?」

話を聞き終えたシルフが、不機嫌そうに顔をしかめた。

「私もこの話には魔王に同情的だよ。」


人間によって生み出されて。

人間を信じて。人間を愛して。その人間たちによって酷いことをされた。

そんな魔王が人間を憎むようになったのは、自然なことだと思う。


もちろん、だからといって今を生きている人間まで滅ぼしていいとは思わない。

だけど、その気持ちは何となく理解できる。


「ねぇ、『勇者』と『魔王』については知ってる?」

「知ってるわ。女神様が加護を与えた存在のことよね?」

「やっぱり知ってるんだ。」


この辺りの話になると、人間より精霊の方が詳しいのかもしれない。

それなら説明も早そうだ。


「じゃあ、魔王は女神様の加護を受けていると思う?」

「思わないわね。本当に加護を受けていたら、封印されるはずが無いわ。」

「正解。」


うん。話が早くて助かる。

シルフは少し考えてから、すぐに答えへ辿り着いた。


「じゃあ魔王は、魔王じゃないのね?」

「そうだね。魔王というのは、人間が魔王の姿を見て勝手につけた名前だよ。」


魔王のような容姿。

魔王のような行い。

そして、魔王のような圧倒的な強さ。


それを目の当たりにした人間たちは思った。

『あれは魔王に違いない』

そうして、いつしか魔王と呼ばれるようになっただけだ。


「本当はね、『レイディアント』って名前があるの。」

「なんかカッコいい名前じゃない。」

「そうだね。」


レイディアント。

英語の存在しないこの世界では、その言葉自体に意味はない。

ゲーム開発としては、人類の希望という意味を込めて『光を放つ』と名付けたんだろうけど。


人間を愛して生まれた存在が、人間への絶望から魔王と呼ばれるようになった。

何とも皮肉な名前だ。


「ちょっと話が反れたわね。」

シルフが話を戻す。

「じゃあ、魔王は復讐のためまた現れるのね?」

「そういうこと。」


今は姿を隠している。

だけど、それで終わりじゃない。

十分に力を蓄えて、さらに進化して。

いつか必ず、もう一度人間の前に現れるはずだ。


「でも、あんなのアイラの力無しで倒せる相手なの?」

「まず無理だね。魔王を倒した冒険者はハイサモナーとかグランドナイトだよ。」

「あーね。」


ハイサモナーは分かるとして。

グランドナイトまで普通に分かったらしい。

精霊に伝わっている伝承の中にでも出てくるのかな?

そこは少し気になる。


「ただ、倒すのは冒険者なんだけど。トドメを刺したのは女神ガイア様なんだよね。」

「女神様が?」

「うん。」


ネームレスオンラインでも、魔王を完全に殺すことは冒険者にはできなかった。

どれだけ攻撃して追い詰めても最後の最後だけは、プレイヤーの力ではどうにもならなかった。


「女神様はね、封印されている間に魔王が心変わりするのを願ってたの。」

「なるほどね。」

シルフは納得したように頷く。

それから私の顔をじっと見た。


「女神様の考えていることまで知ってるのは異常だけど、今は聞かないでおくわ。」

「はい……。」


本当に理解が早くて助かります。

もう私が何を知っていても、あまり驚かなくなってない?


「なら魔王は、人間を滅ぼせるだけの力を持ちながら最後まで心変わりをしなかった。」

「うん。」


シルフは一人で考えを整理するように、何度か頷く。

「だから世界の危険分子として削除されたと。」


百点満点です。

説明することがほとんど残ってない。


「ということは、これ女神様案件じゃない。」

「そうなんだよねぇ。」

「アイラは大丈夫なの?」

「それがあるから、あんまり目立ちたくなかったんだよぉ。」


思わず情けない声が出た。

正史の通りなら魔王は冒険者たちとの戦いに敗れる。

だけど、冒険者たちだけでは完全に消滅させることができない。


そして魔王を倒した冒険者たちの前に、女神ガイアが降臨する。

女神は冒険者たちの目の前で魔王を完全に消滅させる。

そのうえ戦った冒険者たちの名前を覚えて帰っていく。


つまり魔王との決戦で目立てば女神ガイア本人と直接遭遇する可能性が極めて高い。

――絶対嫌だ。


「でも、さっきも言ったようにアイラが何もしないで魔王を倒せる可能性はなさそうね。」

「顔見知りで魔王を倒せそうなのは、ティターニアくらいだね。」

私が知っている中で、今の魔王を正面から倒せそうな存在。

真っ先に思い浮かぶのは、やっぱり精霊女王ティターニアだ。


「精霊女王は動かないでしょ。人間の自業自得だもの。」

「ハイ、ソノトオリデス。」

ですよね。


今回の魔王は、人間が勝手に生み出して、人間が勝手に酷いことをして、その結果として人間を憎むようになった存在だ。

精霊女王が人間の尻拭いをしてくれるとは思えない。


「頑張りなさい、アイラ。」

「うう……。」

他人事だと思ってぇ。

私が恨めしそうな視線を向けても、シルフはどこ吹く風だ。


「どうせアイラの望みを叶えるためには、その力を女神様に隠したままにはできないわ。」

シルフがボソッと呟いた。

「……うん。」

それも分かってる。


私は世界中を旅したい。

この世界で色々なものを見て、色々な人と出会って、幸せに暮らしたい。

そのためには魔王を放置するわけにもいかない。

それに問題は魔王だけじゃない。


「さっき、魔王を倒したら今度は人間の諍いが起きるって聞いたけど。」

「うん。神政国家ストレリチアとシン共和国の話が進んでいくね。」

「それにアイラも関わることになるのね?」

「そうなると思う。」


正直、関わらずに済むならそうしたい。

だけどゲームのメインキャラクターたちが大活躍して事件を次々と解決!

なんて都合のいい展開は期待してはいけない。


「ふふ、大忙しね!」

「笑い事じゃないってば。」

シルフは楽しそうだけど、こっちは笑えない。

きっとシルフは、これからもどこまでも着いてきてくれると思う。


それは嬉しいけど私の将来には不安しかない。

どうしてこうなった。


「どうしてって顔してるけど、それはアイラが選択したからよ。」

「え?」

いつになく真面目な顔をしたシルフが、私を真っ直ぐ見つめていた。


「アイラは自分の大事な者だけ助けて、後は見て見ぬふりをすることだってできた。」

「……そうだね。」

本当にシルフの言う通りだ。


私がもっと自重していたら、今とは違う未来になっていたはずだ。

そもそも冒険者にならない。

サジタリウスでパパやママと一緒に暮らして、魔王が近くまで来た時だけ対処する。

そういう道だってあった。


だけど私は、それを選ばなかった。

自分で冒険者になることを決めた。

世界を旅すると決めた。

その途中で出会った人たちを、助けたいと思った。


全部、自分で選んできたことだ。

「なら、私にできる範囲のことはしなきゃね。」

「そうよ。何も全部やらなくたっていい。目の前のことに集中しなさい。」

「はぁい。」


こういう時は本当に頼りになる。

普段はお調子者で自尊心も強いけど、シルフは私よりずっとお姉さんなんだよね。

私一人で考えていたら、また余計なところまで悩んでいたかもしれない。

今後も何かに悩んだ時は、ちゃんとシルフに相談するようにしよう。


「今日はもう未来の話は良いわ。」

「え?」

「アイラの顔色がどんどん悪くなってるもの。」

「お気遣いどうも。」


確かに。

自分でも分かるくらい疲れた。

朝から過去や未来のことを思い出して、魔王や女神様についてまで考えたんだから当然かもしれない。

続きはまた今度にしよう。


「あ、最後に昨日の騎士の話なんだけど。」

「騎士?」

「私たちを襲ってきた人。」

「ああ、アイツね。」


そういえば昨日は、シルフにクロードが今後どうなるのかまでちゃんと説明できていなかった。

私は人間の法に照らし合わせながら、騎士団を除名されることや、長期間牢獄へ入ることになるだろうと説明する。


「ふーん。」

「……それだけ?」

「だって、ちゃんと罰を受けるんでしょ?」

「まぁ、そうだけど。」


どうやらシルフとしては、それならもう興味がないらしい。

自分を斬った相手なのに、随分とあっさりしている。

だけどシルフにとっては、ちゃんと罰を受けるならそれでいいのだろう。


私としても同じだ。

クロードはこれから長い間、牢獄で罪を償うことになる。

二度と会うことも無いだろう。

だからこの話をすることも、もう無いだろう。

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