復興支援⑬
「次はね……。」
私は現在も進行している三国同盟について説明した。
ゾディアック王国。
神政国家ストレリチア。
シン共和国。
魔王という共通の脅威を前に三国が協力していることや、それぞれの国に思惑があること。
今後もこの関係が続くのか、それとも魔王への対処が終われば再び元の関係へ戻るのか。
私が知っている範囲で順番に話していく。
「……。」
シルフは途中から、いかにも理解できないという顔をしていた。
内容そのものは分かっているみたいだけど、人間同士の国家間にある複雑な関係が心底分からないらしい。
「人間って本当に変な種族だわ。もっと仲良くしたらいいのに。」
「そうだね。」
精霊同士だって、全員が仲良しというわけではない。
相性が悪かったり、喧嘩をしたりすることもある。
だけど国という大きな集団同士で争ったり、協力したと思えば互いを警戒したりする感覚は、シルフには理解しづらいのだろう。
「それで、アイラはどうしたいの?」
「まずは魔王をどうにかしないと。」
結局はそこだ。
魔王を何とかしない限り、今回の騒動は本当の意味では収束しない。
いつ現れるかも分からない脅威に曝されたまま、人々が生活を続けるのは苦しい。
「前に魔王は必ずまた現れるって言ってた理由について聞いても良い?」
「それは……。」
一瞬、言葉に詰まる。
そこまで話すつもりはなかった。
だけど今のシルフになら、もう話しても良いのかもしれない。
私が知っている未来のことも。
前世の記憶についても。
普通なら信じてもらえないような力についても。
シルフは知っている。
だったら、これも隠し続ける必要はないのかもしれない。
「魔王はね、人間を憎んでる。」
「どうして?」
シルフが首を傾げる。
「魔王を封印したのは女神様よね?」
「うん。」
どうやら精霊たちに伝わっているのは、女神ガイアが魔王を封印したという話までらしい。
どうして魔王がどうして生まれたのかまでは知らない。
「魔王はね……。」
私は少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
これから話すのは魔王誕生の話だ。
遥かな昔、魔王はフラスコの中で生まれた。
精霊の因子を持つ、人間の姿をしたホムンクルス。
金色の髪。
虹色の瞳。
小さく、美しい人間の姿をしていた。
それを生み出したのは、昔の魔導都市レオに住んでいた人間たち。
研究所に勤めていた彼らは、様々な魔導実験を行っていた。
目的は一つ。
究極の人間を生み出すこと。
その研究の中には、非人道的な行いも数多く含まれていたという。
だけど生まれたばかりの小人は、そんなことを知らなかった。
とても賢く、人懐っこく、そして純粋だった。
話しかければ応えてくれる。
優しくしてくれる。
そんな研究所の人間たちが親や兄弟、友達のように大好きだった。
自分が何のために生み出されたのか。
彼らが本当は何を目的にしているのか。
何も知らないまま、小人は人間を愛していた。
そして小人には、特別な才能があった。
あらゆる生物の細胞に適合できる能力。
人間も精霊も妖精も。
様々な生物の細胞を体内へ取り込み、それを自分に適した形へ最適化する。
そして取り込んだものによって、自らを進化させていく。
研究者たちは、その能力を利用した。
小人には食事として様々なものが与えられた。
だけど本人は、自分が口にしているものが何なのか知らない。
ただ研究所の人たちがくれるものだから。
疑うこともなく与えられるままに取り込み続けた。
そうして小人の体が安定した、ある日。
研究所の人間たちは実験を次の段階へ進めた。
今度はあらゆるモンスターの血液を混ぜ合わせた液体を、小人の入っているフラスコへ流し込むことにした。
悪魔や魚介や動物に竜。その他にも数多くの種族。
様々なモンスターから採取した血液が、一つに混ぜ合わされていたという。
突然フラスコの中へ流れ込んできた赤い液体を見て、小人は最初こそ困惑していた。
そして、その血液が体へ触れた瞬間だった。
皮膚から取り込まれた血液が、小人の体内へ侵入する。
特殊な能力によって強制的に適合が始まった。
だけど、それまでとは違った。
あまりにも多く異質すぎる数え切れないほどの種族。
それらが持っていた性質。
そして血液に刻まれていた、あらゆる怨念。
全てが一度に小人の中へ取り込まれたそれは体を勝手に進化させていく。
本人の意思なんて関係ない。
あまりの苦痛から「助けて」と小人は叫んだ。
苦しくて痛くて。
何度も何度も自分が家族や友達だと思っていた人間たちへ助けを求めた。
だけど研究者たちは助けなかった。
苦しむ小人を見ながら、笑っていた。
『実験は成功だ。』
『究極の生命が生まれた。』
歓声を上げていた。
小人が何を言っているのかなんて、誰も気にしていなかった。
助けを求める声にも取り合わない。
苦しんでいる姿を見ているのに喜んでいた。
自分を大切にしてくれていると思っていた人たち。
親だと思っていた人たち。
兄弟だと思っていた人たち。
友達だと思っていた人たち。
そんな人間たちが。
今の小人には、ただ恐ろしいものにしか見えなくなっていた。
やがて小さかった体は変貌していった。
人間の姿から遠ざかっていき、様々な生物の特徴が混ざり合っていく。
そして今の魔王と呼ばれる姿へ変わっていった。
何度助けを求めても終わらない。
どれだけ叫んでも誰も助けてくれない。
やがて痛覚すら、耐え続けることに慣れてしまうほどの時間が過ぎた頃。
小人は完全に人間へ絶望していた。




