復興支援⑫
本日は生憎の雨模様。
朝から空は分厚い雲に覆われ、屋根を叩く雨音が絶え間なく聞こえている。
前世みたいに便利な傘があるわけでもないので、雨の日は冒険をしない。
これは私が決めているマイルールだ。
シルフも雨で羽が濡れるのを嫌がるので、ちょうどいい。
これまでは雨の日でも魔導都市レオの復興を手伝ってきた。
だけど昨日クレスにも伝えた通り、そろそろこの街を離れるつもりだ。
なので今日は思い切ってお休み。
ネネさんは自分の宿の再建について確認することがあるらしく、朝から雨の中を出かけていった。
「……暇だなぁ。」
久しぶりに、本当に何もすることがない。
こういう時間ができると、普段なら後回しにしていることまで無駄に色々と考えてしまう。
私は近くにいるシルフへ視線を向けた。
「シルフ、私の話を聞いてくれる?」
「良いわよ。」
すぐに返事が返ってくる。
その前に昨日からずっと気になっていたことを確認しておこう。
「昨日の怪我の後遺症とかはない?」
「無いわね。魔力も貰って元気すぎるくらいよ。」
「そう、良かった。」
シルフはいつも通り元気そうに飛んでいる。
昨日斬られた場所にも、見た限りでは異常はない。
本当に大丈夫そうだ。
安心しながら眺めていると、ふと違和感を覚えた。
「……あれ?」
「何よ?」
「髪伸びた?」
シルフの紫色の髪を見る。
気のせいかもしれない。
だけど昨日までより、本当に少しだけ長くなっているような。
それに何となく、以前より成体に少し近づいているようにも見える。
「あら、本当?」
シルフ自身も髪を摘まんで眺める。
「もしかしたら成長期なのかしらね。」
「成長期かぁ。」
精霊が成長する時の変化は早い。
人間みたいに何年もかけて少しずつ大きくなるとは限らない。
もし本当に成長期が来たのなら、成体へ向けた変化が始まったのかもしれない。
今後もシルフの容姿には注目しておこう。
「私が成長したなら、ドライアドにも影響が出ているかもしれないわ。」
「あ、それもそうだね。」
確かにシルフだけに変化が起きているとは限らない。
私の魔力を受け取って成長しているという意味では、ドライアドも同じだ。
「それならドライアドにも会いに行った方が良さそうだね。」
「そうね。きっと喜ぶわ。」
「うん。」
次の目的地は決まった。
アールヴヘイムへ行こう。
それでドライアドに会いに行く。
最近は本当に色々ありすぎて疲れた。
魔王は復活するし、未来は変わってるし、昨日なんて人間に殺されかけた。
そろそろ可愛いドライアドを眺めて癒されたい。
「じゃあ、ここからは私たちだけの内緒話ね。」
「何かしら?」
シルフが興味深そうに近寄ってくる。
将来的にはドライアドも、この手の話を知ることになるかもしれない。
だけど今は、私とシルフだけの秘密だ。
まずは昨日のクレスの、こと。
別にシルフやネネさんが言うみたいに、クレスが私を好きだなんて本気で考えているわけじゃない。
あれは二人の勘違い。そういうことにしておくとして。
それとは別に気になることがあった。
クレスの恋人。
あの人、今どこにいるんだろう。
「前に話した未来のことなんだけど。」
「ええ。」
「本来ならクレスには、恋人になる女性がいるんだよね。」
何かの事件を経て、やがてゾディアック王国の聖女となる女性。
名前は『セレナ』。
クレスと同じく、メインストーリーでは『ハイプリースト』のメインビジュアルとして描かれていた女性だ。
ただ困ったことに、その先が思い出せない。
セレナがどんな事件を経て聖女になったのか。
どういうきっかけでクレスと知り合い、恋人になっていったのか。
残念ながら、そこまでの記憶が無い。
メインストーリーそのものに大きく関わる設定ではなかったから、忘れてしまったんだと思う。
「うーん……。」
何とか記憶を掘り返してみる。
駄目だ。何も出てこない。
前世の記憶を取り戻してから、もう七年も経っている。
当時ですら細かい設定まで全部覚えていたわけじゃない。
今から無理やり思い出すのは難しいだろう。
「でも、まだその事件が起きてない可能性だってあるんじゃない?」
「そうだね。」
シルフの言う通りだ。
本来なら、魔王が復活するのだって二年後だった。
クレスとセレナが出会う出来事が、この先の未来に起きる可能性は十分にある。
今の時点で恋人らしい人が見当たらなくても、不思議ではない。
「セレナの顔は覚えてるから、会えば分かると思う。」
「へぇ。」
メインビジュアルで何度も見ていた顔だ。
実際に目の前へ現れれば、多分すぐ分かる。
どこかで会う機会があったら。
その時は、じっくり観察させてもらうとしよう。




