復興支援⑪
「……あの、聴取とかあるんですか?」
騎士団の駐屯地へ着いたところで、気になっていたことを聞いてみた。
正直、面倒ではある。
だけど今回の件について正式な確認が必要なら、協力しておいた方がいいだろう。
変に拒否して私の立場が悪くなるのも困るし。
とはいえ、ここまで戻ってくるのにもそれなりに時間を使ってしまった。
いい加減、かなり眠い。
「いや、私が聞いた話で十分だ。これまでのクロードの言動と照らし合わせても齟齬はない。改めて確認することは無いだろう。」
「そうですか。」
良かった。
思わずホッと息を吐く。
「でも、何かあれば言ってください。」
できれば何も無い方がいい。
だけど、こういうところは一応言っておくべきだろう。
社交辞令は大切だ。
「後から変なこと言ってきたら許さないからね。」
シルフが横から釘を刺した。
「善処しよう。」
善処なんだ。
絶対に無いとは言い切れない、その微妙な温度感。
何となく、もうひと悶着くらいありそうな気がしてきた。
それは嫌だなぁ。
「あの、復興支援も落ち着いてきたと思うので、そろそろ街を離れようと思っていたのですが……今回の件があると難しいですか?」
「そうだな。」
クレスは少し考えてから答える。
「そのことで、あらぬ疑いをかけてくる者がいても不思議はない。」
「うーん……。」
それは困る。
私の人生の目的は、世界中を旅することだ。
最初から、一つの街にずっと留まるつもりはない。
もちろんネネさんやルカさんのお店は気になる。
二人とも魔導都市レオで店を再建しようとしているし、私だってできる範囲では手伝いたい。
だけど、再築そのものはもう始まっている。
最近では二人とも私を頼ってくるどころか、そろそろ冒険に戻れと急かしてくるくらいだ。
このままずっと残っていたら、逆に気を遣わせてしまう気がする。
どうしたものかな。
そう考えていると、クレスの方から口を開いた。
「そうだな。二つ約束を守ってくれるなら、私から取り計らおう。」
「約束?」
何だろう。
あまり大変な内容じゃないといいけど。
「一つ目は、今回の件を口外しないこと。」
クレスが少し声を落とす。
「騎士団側の不祥事だから、王国は隠したがるはずだ。」
「なるほど。」
まぁ、そうだよね。
騎士団に所属している人間が、私怨で冒険者を襲った。
しかも相手は精霊まで斬っている。
王国としては、できるだけ広まってほしくない話だろう。
前世みたいな感覚で吹聴したら、不敬罪みたいなもので捕まる可能性だってありそうだ。
「絶対に言いません。」
というかパパとママに知られたら絶対心配する。
そっちの意味でも言えない。
「シルフも内緒ね。」
「はいはい。」
はいは一回。
シルフがそんなに迂闊だとは思っていないけど、一応釘を刺しておく。
クレスはそれを見て満足そうに頷いた。
「二つ目は、念のため次にどこへ行くかだけ教えてくれ。これは騎士団には共有しない。」
「え?」
騎士団には共有しないの?
それなのに、わざわざ聞くんだ。
「……分かりました。」
理由はよく分からない。
だけど、別に隠すようなことでもない。
それにクレスが騙すために聞いているとは思わなかった。
だから素直に同意しておく。
それを聞いたクレスは、満足そうに少し口角を上げた。
クロードを騎士団へ引き渡した後。
クレスはそのまま、私を宿泊所まで送ると言い出した。
「そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ?」
一度は断った。
だけど、夜に女性を一人で帰すなんてできない。
そう強く言われてしまい、私は大人しく受け入れることにした。
こんな時でも紳士だなぁ。
もしかしたら、こういうのは貴族として当たり前の感覚なのかもしれないけど。
私たちは他愛もない話をしながら、仮設の宿泊所まで歩いていった。
やがて建物の前へ到着する。
「それでは、お休みなさい。」
「ああ、お疲れ様。また明日な。」
「はい。」
軽く会釈して別れる。
クレスが夜道の向こうへ消えていくのを見届けてから、私は宿泊所の扉を開けた。
「……やけに静かだったね。」
私は腕の上にいるシルフへ声をかける。
帰り道。
いつもなら何かしら喋っているシルフが、妙に大人しかった。
さっき大怪我をしたばかりだし、もしかしてまだ調子が悪いんじゃないだろうか。
少し心配になって顔を覗き込む。すると。
「にしし。」
「……何その顔。」
シルフが悪戯っぽく笑った。
「金髪は絶対アイラに気があるわよ。」
「またそれ?」
心配して損した。
「絶対無いでしょ。」
「そうかしら?」
「そうだよ。」
何でそこまで確信してるんだろう。
「お帰り、アイラ。なんだか楽しそうだね。」
声のする方を見る。
ネネさんが、笑いながらこちらを見ていた。
「あ、ただいま。シルフが変なこと言うんですよ。」
「変なことじゃないわよ。」
シルフは私の腕から飛び上がる。
「金髪、あれは絶対アイラのことが好きだと思う。」
「金髪って、クレス様のことかい?」
「えっ。」
よく『金髪』だけで通じたなぁ。
「そうよ。」
「さぁ、それはどうだろうねぇ。」
ネネさんは曖昧に笑う。
あ。これ、楽しんでる。
私には分かる。口元をにやにやさせながら、ずっと私の顔を見ている。
絶対面白がってるだけだ。
「えー、ネネはそう思わないの?」
「どうかねぇ。」
「二人ともっ!」
二人で私をからかって遊ぶのはやめてほしい。
「そんなこと無いから。それに相手は貴族だよ?」
侯爵家の長男。
私はただの平民。
身分だけを考えても、天と地ほどの差がある。
そもそも、そんなことを考えること自体が不敬なんじゃないだろうか。
私が必死に否定するほど、二人は楽しそうに笑った。
「もう……。」
私は大きくため息をつく。
そもそもクレスには。
いつか素敵な『ハイプリースト』の恋人ができるんだから。
私のことを好きだなんて。
そんなの、馬鹿らしい冗談だ。
あるはずがない。
そんなこと、あるはず無いのに。




