復興支援⑩
帰り道。
クロードを運びながら歩くクレスが、どうして私を探しに来たのか話してくれた。
クロードは、以前の指令室での一件をきっかけにクレスの部下から外されていたらしい。
元々、普段から素行に問題があった。
そのたびに何度も注意してきたけど、本人の態度が改まることはなかったそうだ。
そして指令室でも最後まであの立ち振る舞いを続けた。
これ以上、自分の部下として置いておくことはできない。
そう判断され、やむなく更迭となったらしい。
だけど、それで終わりではなかった。
その後も配属された別の部隊で何度か問題行動を起こし、そのたびに上官から叱責を受けていた。
ついには騎士団から謹慎を言い渡されるところまで来ていたそうだ。
それでも態度が改善しなければ、騎士団そのものから除名することも考えなければならない。
クレスたちは、そこまで考えていたらしい。
ところが今日。
その願いも虚しく、謹慎しているはずのクロードが突然姿を消した。
宿舎にもいない。
街中を探しても見つからない。
誰に聞いても行き先を知らず、まったく足取りが掴めなかったそうだ。
そこで思い当たったのが私だった。
指令室で更迭される原因となった、私への逆恨み。
というのも、クロードは普段から私やシルフについて恨み言を口にしていたらしい。
『あいつらさえいなければ』
それが最近のクロードの口癖だったそうだ。
そして、その後は私たちが知っている通り。
クロードは私を狙って、街の外までやってきた。
「それで私が様子を見に来たら、手遅れだったということだ。」
「何よそれ、逆恨みじゃない。」
私の腕の上にいるシルフが憤慨したように身を乗り出す。
ちょっと。落ちそうで怖いから暴れないで。
「全くだ。どうやら私はクロードに甘くしすぎたらしい。」
クレスは低い声でそう呟いた。
横顔を見る限り、本当に落ち込んでいるように見える。
だけど悪いのはクロードだ。クレスじゃない。
何度も注意して、それでも直らなかったなら、そこまで責任を感じる必要はないと思うんだけど。
「今回の件でクロードは騎士団を除名。牢獄行きは免れないだろう。」
「そうですか。」
それを聞いて、少しだけ肩の力が抜ける。
仮にあそこで私やシルフが死んでいたら、その場でクレスに処刑されていてもおかしくないほどのことをしている。
死刑にならないだけ、まだマシなのかもしれない。
この国の法に照らし合わせれば、三十年くらいは牢獄に入ることになるだろう。
でも、私としてはありがたい。
少なくとも向こう三十年は、私たちを襲った犯罪者と顔を合わせる心配がないということだから。
「だが、そんなことよりも。」
「え?」
クレスが突然足を止めた。
吊るして運んでいたクロードを支え直してから、こちらへ向き直る。
そして空いている方の手を、ゆっくりと私へ伸ばしてきた。
何だろう。
そう思っている間に、その手がそっと頬へ触れる。
「アイラが無事で良かった。」
クレスはそう言って、はにかむように笑った。
心の底から安心したような顔だった。
「~~~。」
ちょっと待って何これ。
乙女ゲームのスチルみたいなんだけど。
夜。
月明かり。
イケメン。
頬に添えられた手。
そして、この台詞。
口をぱくぱくさせることしかできない。
好きでもない異性相手に、こんなことを自然にできるものなの?
これがイケメンの破壊力か。
そりゃ女性ファンだって浮き足立つよ。
「何どさくさに紛れてアイラに触ってるのよ!」
パシンッ!
「痛っ。」
シルフが思いっきりクレスの手を叩き落とした。
それが予想以上に痛かったらしく、クレスは眉を下げながら両手を上げる。
完全に降参のポーズだ。
私は自分の頬へ手を当てた。
……顔、赤くなってないよね?
そのまま夜道を歩いていると、私の腕の上にいるシルフが小さな声で囁いてきた。
「ねえ、アイラってあいつのこと好き?」
「何言ってるの!?」
「?」
思わず大きな声が出た。
前を歩いていたクレスが何事かとこちらを振り返る。
「どうした?」
「な、何でもないです~。」
慌てて笑って誤魔化す。
「そうか。」
クレスは少し不思議そうにしながらも、それ以上は追及せず、再び前を向いて歩き始めた。
危ない危ない。
聞こえてないよね?
私は声をさらに小さくして、シルフとの話を続ける。
「……ちょっと、何言ってるの。そんなはず無いじゃない。」
「あら、そうなの?」
シルフは意外そうに首を傾げた。
「金髪はアイラのこと好きだと思うけど。」
「えっ。」
クレスが私を?
そんなはずはない。
だってクレスには恋人が――
あれ?いるの?
思わず前を歩いているクレスの背中を見る。
そういえばクレスの恋人って、どこに行ったんだろう。
ネームレスオンラインのメインストーリーでは、確かに存在していた。
だけど今のクレスに恋人らしい人がいなさそうというのは、あくまで私の主観でしかない。
私が知らないだけで、本当はいるのかな?
というか何で私はこんなこと真面目に考えてるんだろう。
「二人でずっと何の話をしているんだ?」
「ひゃっ。」
前を歩いていたクレスが、今度は振り返らずに質問してきた。
思わず体がビクッと跳ねる。
どうしよう。なんて言う?
恋愛の話です、なんて本人に言えるわけがない。
答えに困っていると、シルフが先に口を開いた。
「乙女の話に勝手に割り込んでこないでくれる?」
「そうか。それは失礼した。」
辛辣すぎない?
だけどクレスは気にした様子もなく、ハハッと笑ってそのまま歩き続けた。
助かった。
ありがとう、シルフ。
……いや待って。
そもそもこれ、シルフが変なことを言い出したせいだよね?
お礼を言うところじゃなかった。
私はもう一度、少し前を歩いているクレスを見る。
だってクレスが私のことを好きなはずなんて無い。……無いはず。
なのに何故か、その言葉が頭から離れてくれない。
私はずっとモヤモヤしたまま、無言で夜道を歩き続けた。




