復興支援⑨
こちらへ近づいてきたのは、予想外の人物だった。
「アイラ……。」
月明かりと『ライト』に照らされた姿を見る。
その出で立ちは間違いない。
ロードナイト。
クレスだ。
「あぁ、金髪!」
「シルフも元気そうだな。」
二人はすっかり普通に挨拶を交わしている。
どうしてクレスとシルフが知り合いなのかというと、魔王が復活してからクレスはずっと魔導都市レオに駐屯しているからだ。
現在は三国同盟におけるゾディアック王国側の司令官の一人として、魔王への警戒や街の護衛に当たっている。
私も一か月近くレオの復興を手伝っていたので、自然と顔を合わせる機会が増えた。
そういった関係もあって、今では普通に話せるくらいの仲になっている。
「こんばんは。どうしてここに?」
予想していなかった人物の登場に一瞬固まってしまったけど、何とか挨拶をして尋ねる。
「いや、なに。私も散歩だ。」
「……。」
散歩?
そんな偶然ある?
私はここ最近、ほぼ毎日のようにこの辺りを散歩している。
だけど今まで一度だって、散歩中にクレスと会ったことはない。
何なら、クレスに夜の散歩をしているなんて話した記憶すら無い。
「本当に?」
「怪しいわね。」
私とシルフは揃ってジト目を向けた。
クレスの視線が僅かに泳ぐ。
「……すまない。」
やがて観念したように両手を上げた。
嘘だったらしい。
理由までは話そうとしないけど、ここへ来る何かしらの理由があったのは間違いない。
何だろう。
まさかクロードの仲間だったりしないよね?
今の状況では、完全に信用するのも少し怖い。
「あの、あそこにいる人なんですけど。」
私はクレスの反応を確かめるように、川岸で倒れているクロードを指差した。
「いきなり斬りかかってきたのよ!」
「!」
シルフが続けると、クレスの表情が一変した。
目を見開き、僅かに体を強張らせる。
てっきり、そのままクロードのところへ駆け寄るのかと思った。
だけどクレスが最初に見たのは、倒れているクロードではなかった。
「怪我はないか!?」
私だ。
「あれ?」
私が心配されてる?
あっち、かなり酷い火傷なんだけど。
「いえ、シルフが守ってくれたので……。」
「アタシは斬られたけどね。」
「なんてことを……。」
クレスの顔が険しくなる。
そのまま、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
私は無意識に身構える。
無いとは思う。
だけど、クレスまで私たちの味方をしてくれるとは限らない。
さっきクロードに襲われたばかりなのだ。
何かあればすぐ動けるよう警戒しながら、その場で待つ。
するとクレスは背負っていた『ドラゴンスレイヤー』を地面へ置いた。
武器から手を離し、その場ですっと片膝をつく。
「私の元部下が申し訳ない。」
「えっ、ええっ!?」
予想していなかった行動に、今度は私の方が慌てた。
「アイラが死ぬとこだったんだからね!」
シルフは容赦ない。
というか、シルフさん。
今そこを強調しなくても。
クレスは顔を上げることなく、低い声で尋ねた。
「……詳しく情報を聞かせてもらえるか?」
さっきよりも、ずっと険しい表情をしている。
元部下と言っていたけど、やっぱり自分の部下だった人間が起こしたことは気になるみたいだ。
「はい。」
私は最初にクロードを見つけたところから、順番に説明していった。
暗い草むらに一人で立っていたこと。
声をかけても何も答えなかったこと。
『ライト』を掛けようとして近づいた瞬間、突然剣を振り上げたこと。
そして。
シルフが私を突き飛ばして庇ってくれたこと。
「それでアタシがアイラを突き飛ばしたの。そしたらアイツの剣が――」
「シルフ。」
そこは自分で話したくなかったのに。
思い出すだけで、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
私が少し言い淀んでいる間に、シルフが何でもないことみたいにスラスラ説明してしまった。
クレスは何も口を挟まず、片膝をついたまま最後まで話を聞いていた。
そして話が一区切りつくと、私ではなくシルフへ向き直る。
「風の精霊王、人間が無礼を働き申し訳ない。」
「え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
風の精霊王?
「えええっ!?」
な、何でクレスが知ってるの!?
私は誰にも喋ってないのに!
思わずシルフを見る。
だけど当の本人は、特に驚いた様子もない。
「いつから知ってたの?」
「確信したのは、指令室にアイラを呼んだ時からだ。見事な虹色の羽ですぐに分かったよ。」
「えぇ……。」
指令室。
カシウスさんと一緒にシルフを見ていた、あの時?
じゃあクレスはあの時からずっと知ってたんだ。
知ってたなら言ってよぉ~~~!!
一人で動揺している私を置き去りにして、二人の会話は普通に進んでいく。
その後は、私が『ファイアアロー』でクロードを倒したこと。
斬られたシルフを『エレメンタルヒール』で回復したこと。
クロードをどうやって騎士団へ引き渡そうか途方に暮れていたところへ、クレスがやってきたことまで説明した。
「なるほど。それなら丁度良かった。クロードは私が運ぼう。」
「お願いします。」
引き受けてもらえるなら助かる。
クレスは立ち上がると川岸へ向かい、倒れているクロードの状態を確認した。
それから手慣れた様子で手足を拘束する。
逃げられないことを確認すると、そのままクロードを吊るすように持ち上げた。
「……。」
凄いな。
クレス自身が着ている鎧。
大きな『ドラゴンスレイヤー』。
それに加えて、鎧を着た成人男性一人。
全部合わせたら相当な重さになるはずなのに、それを抱えて軽々しく歩いている。
見た目は細身なのに、恐ろしい力だ。
もしかしたら鎧の下は凄いことになっているのかもしれない。




