復興支援⑧
「……え?」
何、が?
今シルフが私を庇って?
どうして。
どうして、こんなことになっているの?
斬られた勢いのまま、シルフの小さな体が地面へ強く叩きつけられた。
「シルフ!!」
自分でも驚くほどの声が出た。
多分、人生で一番大きな声だったと思う。
「邪魔だ、精霊!」
その言葉を聞いた瞬間。
かぁっと頭が熱くなった。
邪魔?
邪魔はお前の方だ。
何でシルフがこんな目に遭わなきゃいけない。
こんな状態で手加減なんてできるわけがない。
『ライト』を使うために手元へ溜めていた魔力を、そのまま目の前のクロードへ向ける。
『ファイアアロー』
放たれた炎の矢は、私の頭一つ分くらいの大きさまで膨れ上がっていた。
それが真正面からクロードへ直撃する。
炎が弾けた。
「ぎゃああああ!? ひ、火が、燃えっ……!?」
一瞬で服へ燃え広がり、クロードが火だるまになって地面を転げ回る。
そのまま這うように川へ向かっていったけど、今はどうでもいい。
私はすぐにシルフの元へ駆け寄った。
迂闊だった。
人気の無い夜道で、素性も分からない人間へ不用意に近づいた。
その上、『ライト』を使おうと魔力を込めていたせいで、不意の事態にすぐ反応することもできなかった。
その結果。
シルフが大怪我をした。
「シルフ!!」
地面へ倒れているシルフを、できるだけ優しく両手で抱き上げる。
「アイラ、無事?」
シルフの顔は真っ青だった。
小さな体も僅かに震えている。
こんな状態なのに。
最初に心配するのが私なの?
「私は大丈夫! それより、すぐに回復するから!」
精霊は自然現象の化身のような存在だ。
だから人間のように怪我をして血を流すことはない。
それどころか、致命傷を受けても死ぬことだってない。
でも痛いものは痛い。
辛いものは辛いのだ。
「お願い……。」
私はできるだけ多くの魔力を込める。
『エレメンタルヒール』
精霊専用の回復魔法。
人間には効果がなく、精霊だけを癒すための回復スキルだ。
淡い光がシルフの体を包み込む。
傷ついていた部分がみるみるうちに元へ戻り、青ざめていた顔にも少しずつ色が戻ってきた。
「ふぅ、助かったわ。」
ようやくいつもの声が聞こえて、全身から力が抜けそうになる。
「シルフ、無茶しすぎだよ!」
「それより、あいつは?」
「あっ。」
そうだ。
クロードはどこに?
「あぁ……ああぁ……。」
後ろを振り返る。
クロードは川の中へ落ち、そこでまだ藻掻き苦しんでいた。
体中が火傷を負い、服は黒く焦げ付いている。
露出している肌も赤紫色に腫れ上がっていた。
「……。」
私がやったこととはいえ、かなり酷い状態だ。
あれなら、しばらくはまともに動けないだろう。
「大丈夫。しばらく動けないはず。それよりシルフ、無茶しすぎだよ!」
もう一度言う。
一回じゃ足りない。
「精霊は死んだりしないから大丈夫よ。」
「それはそうだけど……。」
死なないから大丈夫。
そんな単純な話じゃない。
精霊は致命傷を受けても人間のように死ぬことはない。
だけど、存在を維持できないほどの深傷を負えば、最悪の場合は記憶を損傷することだってある。
死なないというだけで、何をされても無事で済むわけではないのだ。
「アタシは最悪、回復できる。それより私はアイラが傷つく方が嫌だわ。」
「私だってシルフが傷つくのは嫌だよ!」
「ふふ、じゃあ同じね。私はアイラを助けられたから助けただけよ。」
シルフはずっと笑っている。
人の気も知らないで。
本当に。
「ありがとう、シルフ。」
「どういたしまして。……無事で良かった。」
私も。
シルフが無事で、本当に良かった。
一通り話し終えてから、改めて川の方へ目を向ける。
さっきまで苦しんでいたクロードは、川岸まで這い上がったところで力尽きていた。
「死んでないよね?」
「大丈夫。死んでないわ。」
シルフがそう言うなら大丈夫だろう。
それなら、ひと安心だ。
こんな人でも、ここで死なせるわけにはいかない。
ちゃんと法で裁いてもらわなきゃ。
問題は。
どうやって騎士団へ引き渡すかだ。
普段ならシルフに街まで飛んでもらって、騎士団の人を呼んできてもらえばいい。
だけど、さっき大怪我をしたばかりのシルフにこれ以上無理をさせたくない。
かといって、私までここを離れるのも怖い。
クロードは今のところ動けそうにないけど、目を離した隙に逃げられないとも限らない。
それに。
倒れている騎士団の人間。
その傍にいる、一人の冒険者。
この光景だけを見た人に、私がどう見えるかという問題もある。
騎士団の人間と一冒険者なら、普通は騎士団の方を信用するだろう。
クロードが私を襲った証拠だって、今ここにはない。
最悪の場合。
私の方が襲ったことにされて、冤罪をかけられたりしないよね?
「どうしよう……。」
その場で考え込んでいると。
ザッ。
遠くから、草を踏む音が聞こえた。
「……っ。」
思わず体が強張る。
さっきのことがあったばかりだ。
私はシルフを庇うようにしながら、足音のする方へ警戒して視線を向けた。




