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復興支援⑦

「シルフ。」

「なぁに?」

隣を飛んでいるシルフへ声をかける。

少しだけ迷ってから、私は口を開いた。


「前に私が未来についても少し知ってるって言った時に驚いた?」

「驚かなかったわ。」

即答だった。

「えっ。」


少しくらい驚いてくれても良くない?

そんな私の顔を見て、シルフは何でもないことのように続ける。


「そんなことより、ずっと凄いことしてるもの。」

「そ、そうなんだ。」

シルフの感覚だと、未来を知っていることなんて大したことじゃないらしい。


《HidePC》を使ったり、突然とんでもない武器を取り出したり、前世の記憶を持っていたり。

すでに色々な秘密を知っているシルフからすれば、今さら一つ増えたところで変わらないのかもしれない。

それならこの秘密も、話していいのかもしれない。


私は少し緊張しながら、ゆっくりと話し始めた。

私が知っていた歴史。

その歴史を変えるために、自分がしてきたこと。

本来なら亡くなるはずだったグローザ侯爵夫人を助けたこと。


その結果、クレスが正史とは違う道を歩むようになったこと。

そして、クレスがスコルピオへ向かわなかったことで、本来なら助けられていたはずの人たちが亡くなった可能性があること。

ヴォイドの妹も、その一人だったこと。


さらに、その出来事をきっかけにヴォイドが魔王の分体へ体を明け渡し、魔王の復活まで二年早まってしまったこと。

一つずつ自分の中で整理するように、ゆっくりと説明していった。


シルフは途中で茶化すこともなかった。

いつものように口を挟むこともなく、ただ真剣な顔で私の話を最後まで聞いてくれた。


「そう。」

全部を話し終えると、シルフは小さく頷いた。

「でも、それはやっぱりアイラのせいではないわね。」

「どうして?」


私は思わず聞き返した。

「だって、誰しも未来のことなんて分からないわ。それこそ女神様でもよ。」

女神ガイアでも。

その言葉を聞いて考える。


確かに、ガイアに未来を見通すような能力があるなんて話は聞いたことがない。

少なくとも私が知っている設定には、そんなものは無かった。


「それでも分からない中で、誰もが最善を願って生きている。」

「うん。」

「アイラは誰かの不幸を願ったの?」

「……。」


そんなことはない。

グローザ侯爵夫人を助けた時だって、ただ助けたかった。

誰かが代わりに死ねばいいなんて一度も願っていない。


「願ってない。」

「なら堂々としてればいいのよ。馬鹿ね。」

「うん。」


ふわりと、頭の上に何かが触れた。

シルフの小さな手だ。

今は顔を上げられない。


だけど、その手が頭の上に置かれているだけで。

ずっと胸の中に引っ掛かっていた重たいものが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。



日も落ちて、月と星が瞬く夜。

私は街の外を流れる川の傍を、シルフと一緒に歩いていた。

ここ最近、夜になるとこの辺りを散歩するのが日課になっている。


足元を取られないよう『ライト』で進む先を照らしながら、ゆっくりと川沿いを歩いていく。

「今日も暑かったねぇ。」

「本当よ。あんなに風を起こしたのに、まだ暑いんだもの。」


そんな他愛もない話をしながら歩く時間が好きだった。

昼間は復興作業で周囲にたくさんの人がいるけど、この時間になると辺りは静かになる。

川の流れる音を聞きながらシルフと話をして、いつもの道を進んで景色を眺めたら宿泊所へ戻る。

今日もそうするつもりだった。


そう、考えていた。


「ん?」

ふと、少し先の草むらに人影が見えた。

『ライト』の光がぎりぎり届くくらいの場所。

そこに一人、立っている。


装備を見る限りではナイトだろうか。

顔は深く被ったフードに隠れていて、ここからではよく分からない。

でも、今の魔導都市レオは街中がめちゃくちゃだ。


こんな時期にこの辺りにいる人なんて、復興支援へ来ている人か騎士団、それか街の人くらいだろう。

「あんな暗いところで大丈夫かな。」

「本当ね。何してるのかしら?」

シルフも不思議そうに首を傾げる。


この時間、この場所で誰かとすれ違うなんて珍しい。

夜の散歩をするようになってからは初めてのことだった。

辺りは暗いし、足元も見えづらい。

『ライト』くらい掛けてあげようかな。


私はその人の方へ、ゆっくりと近づいていった。

「こんばんは~。」

「……。」

返事がない。


聞こえなかったのかな。

もう少し近づいてみる。

「アンタ、こんなところで何をしてるのよ。」

「……。」


今度はシルフが声をかけた。

それでも相手は何も答えない。

ただ黙ったまま、その場に立ち続けている。


どうしたんだろう。

もしかしたら一人でいたいのかもしれない。

あまり話しかけられたくなかったのかな。

それなら、余計なお世話だったかも。


「余計なお世話かもしれませんけど、『ライト』だけしていきますね。」

それだけ伝えて立ち去ろう。

私は『ライト』を使うために魔力を込めながら、さらに数歩前へ出た。


その時だった。

今まで微動だにしなかったナイトが、スッと動いた。

右手に持っていた剣が持ち上がる。

頭上まで大きく振りかぶられた。


「え?」

何をしているのか理解できなかった。

「アイラ!」

シルフの叫び声が響く。


その瞬間、吹き抜けた風がフードを僅かに揺らした。

隠れていた顔が『ライト』の光に照らされる。


見覚えがある。

クレスと一緒にいた、あの名前を忘れた騎士。

クロードだった。

剣が力強く振り下ろされてくる。

その光景を、私はまるでスロー再生でも見ているような感覚で眺めていた。

今から避けようとしても間に合わない。

体は完全に強張っているのに、頭だけはやけに冷静だった。


このままじゃ斬られる。

そう思った瞬間。


ドンッ!

「っ!?」


何かに横から思いっきり突き飛ばされた。

剣で斬られた感触じゃない。

もっと小さな何かが、全力で体当たりしてきたような衝撃だった。


地面へ倒れ込みながら、さっきまで自分が立っていた場所を見る。

そこにいたのは紫色の髪、虹色に輝く羽。


「シル――」

私の声が最後まで出るよりも早く。

クロードの剣が、シルフの体を通過した。

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