GM権限、使えちゃいました⑦
「……お水飲みたい。」
あまりの衝撃に、喉がからからになってしまった。
井戸へ行けば水は飲める。
だけど今は《HidePC》の検証中だ。
この状態で井戸を使うわけにはいかない。
空飛ぶ桶なんて見られたら、大騒ぎになってしまう。
「それなら、湖まで行こうかな。」
幸い、この近くには『サジタリウス湖』がある。
あそこなら誰かに見られる心配も少ない。
とはいえ――。
「ちょっと遠いんだよねぇ。」
歩いて行けない距離じゃない。
でも、転送で行けたら楽なのになぁ。
そんな何気ない考えが、ふと頭をよぎった。
「もし、転送で行けたら?」
私はその場で立ち止まる。
当然ながら、転送系のGMコマンドも存在する。
仕事でも何度となく使ってきた、お馴染みのコマンドだ。
「だめ。さっきので、好奇心が抑えられなくなってる……。」
小さくため息をつく。
《HidePC》も《CreateItem》も使えてしまった。
驚きと興奮で、冷静な判断ができている自信は正直ない。
もし転送まで使えてしまったら――。
「でも、経済を壊すわけじゃないし。」
たしかに?
「ただ移動するだけだし?」
そうだよね?
「危ないことをするわけじゃないし?」
むしろ安全なんじゃ?
「……うん。」
何度もうなずき、自分を無理やり納得させる。
そして――。
「ええい!」
迷いを振り切るように声を上げると、私は頭の中で静かにコマンドを思い浮かべた。
≪WarpPC Sagittarius_Lake≫
次の瞬間、景色が切り替わった。
眩しい湖面。
木々のざわめき。
頬を撫でる湿った風。
魔法陣もなければ、光が溢れることもない。
体が浮く感覚すらなく、まるで最初からそこに立っているようだった。
「……。」
しばらく口を開けたまま固まって、小さく肩を落とした。
「は、はは。」
乾いた笑いしか出てこない。
もう驚き疲れてしまった。
自分の知っている常識が、今日で何度ひっくり返ったのか。
数えるのも馬鹿らしくなってくる。
「とりあえず、お水。」
今は喉が渇いて仕方がない。
まずは水を飲まなければ冷静になれそうになかった。
湖畔へしゃがみ込むと、両手で澄んだ湖水をそっと掬い上げ、そのまま口へ運ぶ。
勢いよく飲み込むたび、小さな喉が上下に鳴った。
冷たい水が火照った体へ染み渡っていく。
「ふぅ。」
冷たい水を飲んだおかげで、少しだけ頭が冷えてきた。
とはいえ、完全に落ち着いたとは言い難い。
「今日はもう、検証終わり。」
これ以上何かを試したところで、冷静な判断ができる自信がない。
そのまま湖畔の柔らかな芝生へ、ごろんと仰向けに寝転がる。
風が草を揺らし、木々の葉が心地よい音を奏でていた。
空を見上げれば、ゆっくりと流れる白い雲。
「凄いことになっちゃったなぁ。」
思わず本音が漏れた。
今日は次から次へと凄いことがたくさんあった。
何故こんな力があるのかは分からない。
でも、私がGM権限を行使できることは疑いようのない事実だった。




