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復興支援⑤

ルカさんに教えてもらった建物の前までやってきた。

ネネさんは、この建物の中にいるはずだ。

建物の大きさは、小学校の体育館よりも少し小さいくらい。


中へ入ると、床には等間隔で一段高くなった板張りのスペースがいくつも作られていた。

そこが避難民たちのパーソナルスペースになっているらしく、土足で上がらないよう配慮されている。

それぞれの場所には名前を書いた木のプレートも打ち込まれていて、少し目を離した間に他の人へ場所を取られないようになっていた。


私はゆっくりと中を歩きながら、そこにいる人とプレートに書かれた名前を一つずつ確認していく。

違う。ここも違う。焦って見落とさないよう、丁寧に探していく。

そうして何分か経った頃。

板張りの上に横になっている、見慣れた人を見つけた。


「ネネさん。」

「ネネー、久しぶりね。」


ここには眠っている人もいるし、具合の悪そうな人もいる。

周りの迷惑にならないよう、できるだけ声を抑えてネネさんを呼んだ。

シルフにも、ここでは大人しくしているようあらかじめ伝えてある。


「なんだ、アイラとシルフかい。どうしたんだい。」

ネネさんは起き上がらず、顔だけをこちらへ向けた。

何だろう。あまり調子が良くなさそうに見える。

ルカさんが言い淀んでいたのは、このことだったのだろうか。


「ネネさんが心配で。大丈夫? 具合悪い?」

心配になって顔を覗き込むと、ネネさんはフッと小さく笑った。

「あぁ、体の調子は大丈夫だよ。」

そう言って、ゆっくりと体を起こして私の前に座る。


「何かあるなら、また今度にする?」

もし無理をしているなら止めたい。

「いや、大丈夫だよ。」

こんなの何でもない。


そう言いたげではあるけど、やっぱり表情には陰が差している。

「……。」

すると、隣を飛んでいたシルフが何かを考えるようにネネさんへ近づいた。

そのまま、じっと胸の辺りを見つめる。


「ネネ、アンタ、『リザレクション』で蘇生されたでしょ。」

「!?」

思わずネネさんを見る。

「ヤだねぇ。精霊様はそんなことも分かっちまうのかい。」


『リザレクション』って。

一度死にかけたってこと?

誰が?ネネさんが?何で?

頭の中に次々と疑問が浮かんでくる。


ネネさんは私たち二人の顔を確認すると、大きくため息を吐いた。

それから、諦めたようにポツポツと話し始める。


ネネさんの宿は、魔王の封印があった場所から近かった。

魔王が復活したのと同時に宿は消し飛び、ネネさん自身も重傷を負った。

怪我で動けない中、最後に目へ飛び込んできたのは、魔王がスキルを使ったところだったという。

そこでネネさんの意識は一度途絶えた。


次に目を覚ました時には、周囲に死体が並べられた石畳の上にいたらしい。

『あぁ良かった。間に合ったようですね。』

隣にいた『プリースト』は、ネネさんが目を覚ましたことに安堵したようにそう呟いたそうだ。


その後、周りの人たちから話を聞いて分かった。

自分がいるのは王都リーブラで、ネネさんは心肺停止の状態で魔導都市レオから運ばれてきた。

つまり魔王のスキルを受けて、ネネさんは一度死亡していた。


「助かったことよりも、もしかしたら死んでたって思ったら怖くなってね。どうにも気持ちが落ち込んじまってこの様だよ。」

眉を下げながら、それでも気丈に振る舞おうとしている。

その姿があまりにも痛々しかった。


「うわああああん。」

もう堪えられなかった。

泣きながらネネさんへ抱きつく。


辛そうな顔をしているネネさんが悲しくて。

こんな酷いことをした魔王が許せなくて。

でも何より、ネネさんが生きていて本当に良かった。


「やれやれ、こうなりそうだから黙ってようと思ったのにねぇ。」

ネネさんの腕が私の背中へ回り、優しく撫でてくれる。

私より辛いはずのネネさんに慰められてしまっている。

本当は私が泣いている場合じゃないのに、涙が全然止まってくれなかった。


「隠してたらアイラは余計気にするじゃない。」

「そりゃそうなんだけどさぁ。」

頭の上では、シルフとネネさんが呆れたように話している。

そんな二人の会話を聞きながら、私はしばらく泣き続けた。

「うぅ……。」

ようやく泣き止んだ頃には、目の周りが真っ赤になってパンパンだった。

シルフに頬を突かれながら反省する。


まさかこの歳になって、こんなに大泣きするとは。

恥ずかしくて人の顔が見られない。

「私の代わりにアイラに泣かれちまったねぇ。」

「……ゴメンナサイ。」


即座に謝る。

多分、今は目だけじゃなく顔まで真っ赤になっている。

「いや良いんだよ。お陰でスッキリしたさね。」

「そうね。さっきよりも調子が良さそうに見えるわ。」


シルフがネネさんを見ながらそう言った。

精霊は魂や魔力の色まで見分けることができる。

シルフがそう言うなら、本当に少し変化があったのかもしれない。


「ネネさん、少しは元気になった?」

「あぁ、おかげさまでね。」

「よかった……。」

少し安心する。


だけど、問題はこれからだ。

宿は無くなってしまった。

お金だって、どれだけ手元に残っているか分からない。

これからどうやって生活していくつもりなんだろう。


そんなことを考えていると、ネネさんが答えるように口を開いた。

「預けているお金や素材を売って、また宿を続けるつもりさ。」

「そっか。」

確かに、復興後の魔導都市レオでは宿屋も再築されていた。


ネネさんもこの後、復興した街でまた仕事に戻るのだろう。それなら。

「ネネさん、これ。受け取ってください。」

私はウェストポーチからお金を取り出し、ルカさんの時と同じように差し出した。


「いいや、客からお金は受け取れないよ。」

即答された。

やっぱりそうなるか。

ならば、こっちにも切り札がある。


「ルカさんは受け取ってくれたよ?」

「あんの親父、余計なことを……。」

ネネさんがものすごく渋い顔をした。

私と、差し出されたお金を交互に見つめる。


「はぁ、仕方ないね。」

しばらく悩んだ末、ネネさんはため息を吐いて手を差し出した。

よし、受け取ってくれた。


「ただし、アンタ専用の部屋をいつも空けとくから、この貰った金額に達するまでは宿泊料無しだ。」

「えぇ、それじゃあ意味ないよ!」

思わず抗議の声を上げる。

それじゃあ結局、お金を先払いしただけじゃないか。


「それが嫌なら、ずっとうちの宿に泊まり続けることだね。」

「良いじゃない、そうしたら?」

シルフまでネネさん側に付いた。

シルフもあの宿を気に入ってるんだね。


「うん、分かった。」

仕方なく頷く。

まぁ、言われなくてもレオに泊まる時はネネさんの宿にしか行かないけどね。


「それで、魔王はどうなったんだい?」

不意にネネさんから尋ねられた。

「私も討伐隊には参加したんだけど、ここでは話しづらいかも。」

周囲をちらりと見回す。


ここには、まだ魔王への恐怖を忘れられていない人も多いだろう。

そんな場所で、魔王は倒せず逃げられました、なんて話をすれば、不安で心を病む人が出てくるかもしれない。

「……そうかい。」


それだけで、ネネさんには伝わったらしい。

私が言葉を濁した。

つまり、魔王は倒せていない。

少ない言葉だけで正確に理解したようだった。


魔王が生きている以上、これからまた危険が及ぶ可能性はある。

実際に目の前でその姿を見て、一度命まで奪われたネネさんにとっては、とてつもない恐怖のはずだ。

それでもネネさんはそんな素振りを見せず、そのまま私たちとの会話を続けた。


「それにしても、まさか魔王討伐隊に参加してたなんてね。無事でよかった。」

ネネさんの手が私の頭へ乗せられ、優しく撫でられる。

少しくすぐったくて、思わず片目を細めた。


「アタシもガンバったんだけど?」

「シルフも偉い偉い。」

「分かれば良いのよ。」

満足そうにシルフが胸を張る。


でも、今回は本当にその通りだ。

シルフは戦いだけじゃなく、私にとって精神的な支えにもなってくれていた。

もし一人だったら、もっと苦しい思いをしていたかもしれない。


「ありがとう、シルフ。」

改めてお礼を伝える。

「なーに、やっとアタシの偉大さがわかったワケ?」

すぐに得意げになるシルフを見て、ネネさんが楽しそうに笑った。


少し前まで沈んでいた表情が和らいでいる。

その顔を見られただけでも、ここまで探しに来て良かったと思えた。


「ネネさん、私ね、復興支援もしているの。力仕事はできないけど、魔法を使って色々なお手伝いもしてるんだよ。ほら、こんな風に。」

近くにあったコップへ水を入れる。

そこへ冷気を送り込んで水を冷やし、最後に小さな氷を落とした。

暑い夏でもキンキンに冷えたお冷やの完成だ。


「飲んでみて。」

「いただきます。……冷たくて美味しいね。」

一口飲んだネネさんが、驚いたように声を上げる。

冬でもここまで冷えた水は、なかなか飲めないはずだ。


そのままコクコクと喉を鳴らし、一気に飲み干した。

「ごちそうさま。こんな水がいつでも飲めるのはいいねぇ。」

「そうでしょ? 少しでも役に立てたら嬉しいな。」

氷水はシンプルだけど、この時期なら一番喜んでもらえる逸品だ。


「これは商売にもなりそうだねぇ。」

空になったコップを手の中で転がしながら、ネネさんが感心したように呟く。

そして私を見ると、いつもの調子で笑った。


「アイラ、冒険者を辞めたらいつでもうちで働いていいからね。」

その話、まだ生きてたんだ。

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