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復興支援④

頑張って避難所のあちこちを移動してみたものの、病院と違って出歩く人が多い分、探すのが大変すぎる。

その上、今はお昼過ぎ。

ちょうど炊き出しに並ぶ人も多い時間で、皆があちこち動き回っているせいで、さっき確認した場所に同じ人がいるとも限らない。


どうしよう。

これ、この中から二人を探すのは無理かもしれない。

人の波を眺めながら打ちひしがれていると、隣にいたシルフが口を開いた。


「探すのが無理なら、探してもらったら?」

「どういうこと?」

「別に向こうから来てもらう必要は無いんでしょ?」

「……あ、そっか。」


私が二人を見つける必要はない。

私の方が目立って、向こうから私を見つけてもらえばいいんだ。

「シルフ、最高。頭いい。」


「マーネ! おほほほほほ。」

「いよっ、さすが未来の精霊王!」

「それほどのことも、あるけど〜?」

うん、完全に調子に乗ってる。


でも今回は本当に助かったし、こういうところがシルフの良いところなのだ。

さて、目立つ方法を考えよう。

昨日みたいに冷房と送風をすることも考えたけど、あの時ですら休憩所が人でいっぱいになってしまった。

今日みたいな規模の避難所で同じことをして、大勢が一か所へ押し寄せたら危険すぎる。それなら。


「すいませーん。ここのお水に氷を入れても良いですか?」

炊き出しで水を配っているお姉さんへ声をかける。

小さな氷を入れて冷たい水を配る作戦だ。

これなら大勢の人に喜んでもらえるし、私たちのことも自然と広まるはず。


「えっ、助かります~!」

「じゃあ入れていきますね。」

お姉さんから許可ももらえたので、早速始めることにする。

『アイスジャベリン』


汲み上げられた井戸水へ、小さく作った氷を次々と入れていく。

暑さで温くなっていた水がみるみる冷えていき、その様子を見ていた人たちから「おぉ!」と大きな歓声が上がった。

列に並んでいる人たちにも笑顔が浮かぶ。

「お次はこう!」


今度は地面へ両手を当て、魔力を流し込む。

ゴゴゴゴと音を立てながら土が動き始め、少しずつ高く積み上がっていく。

そのまま炊き出しの周囲を覆うように形を整えて、簡易的な屋根を作った。

これなら、炊き出しに並んでいる間も強い日差しを避けられる。


最後に私が氷を積み上げると、シルフが周囲へ風を送り始めた。

氷から流れ出る冷気をシルフの風が運んでいく。

私が定期的に冷気を足し、それをシルフが周囲へ送る。

これで一番暑い時間帯でも、炊き出しの周りはかなり涼しくなったはずだ。


私とシルフの完璧なコンビネーションによって、炊き出しへ並ぶ列は一気に長くなっていった。

「サモナーのお姉ちゃん、ありがとう!」

小さな子供まで嬉しそうに冷たい水を受け取っている。


「ちゃんと炊き出しのお姉さんたちにもお礼を言うんだよ~。」

「うん! お姉さんたちもありがとう~!」

「どういたしまして~。」

優しい世界だ。

皆が嬉しそうにしていると、こっちまで嬉しくなってくる。


「ちょっと、私にもお礼しなさいよ!」

「ありがとうね、シルフ。」

「ふんっ。」


腕を組んで得意げにしているけど、羽がパタパタ動いてるよ?

嬉しいのが丸分かりなんだから。

しばらくすると、様子を見ていた通りすがりの『ウィザード』まで手伝ってくれるようになった。


私みたいに小さな氷を直接作ることはできないらしいけど、『アイスジャベリン』を作って、それを削って配ってくれている。

人が多いだけあって、作ったそばから凄い勢いで氷が無くなっていく。

それでも私たちも負けじと氷を作り続けた。

そんなちょっとしたお祭り騒ぎは、一時間以上続いた。


「アイラ。」

ふと、聞き慣れた声が耳に届いた。

手を止めて、ゆっくりと視線を上げる。

そこには、よく知った強面のおじさんが立っていた。


着ている服は所々に穴が空き、ボロボロになっている。

乾いた血の痕まで残っていたけど、四肢は無事で、今は怪我をしている様子もない。

「……っ。」

一気に目の奥が熱くなる。


それを必死に堪えた。

「何か派手なことしてるサモナーがいるって聞いたが、やっぱりお前だったか。」

待ち人は来た。

「ルカさぁん……。」


唇が震えるのを必死に抑えながら、何とか声を絞り出す。

「なんだ、泣きそうな面しやがって。俺が幽霊にでも見えたか?」

「こんな顔が怖い幽霊がいたら気絶する……。」

「お前なぁ。」


怒るでもなく、ルカさんは笑いながらため息を吐いた。

「あはは。」

今日は怒んないんだね。


――無事でよかった。

「すいません、休憩してきまーす。」

「ありがとうね~!」

炊き出しのお姉さんたちへ声をかけ、休憩中にも困らないよう氷をたっぷり用意してからその場を離れる。


ルカさんは出来上がった簡易テントや大量の氷を見回しながら、感心したように声を漏らした。

「こりゃすげぇな。」

成長を褒めてもらえたみたいで、ちょっと嬉しい。


「久しぶりね、怖い顔のオジサン!」

「おーおー、綺麗な精霊の姉ちゃんも元気そうだな。」

「ふふん、そうでしょう。」

シルフはルカさんのことを気に入っている。


何を言ってもこうやって褒めてくれるから、嬉しいらしい。

少し世間話をしながら水を飲み、落ち着いたところで私は一番聞きたかったことを尋ねる。

「それで、どうして避難所に?」


ルカさんは持っていた水を一気に飲み干すと、魔王が復活した時のことを話してくれた。

魔王の封印が解ける瞬間、街全体が光に包まれ、その直後に大きな衝撃波が走ったらしい。

飛んできた瓦礫などによってルカさんの露店は跡形もなく吹き飛び、ルカさん自身も重体になった。


封印があった方角へ目を向けた時には、黒い体に翼と角を持った巨大な魔王の影が見えたそうだ。

そこまで確認したところで意識を失い、次に目を覚ました時には王都リーブラまで運ばれていたらしい。

つまり、今着ている服がボロボロなのも、ついている血の痕も、全部その時のものということだ。


目が覚めた時にはすでに治療も終わっていた。

だけど露店ごと何もかも失って無一文になったルカさんは、自分でこの避難所まで歩いてきて、そのまま一晩を明かした。

そして現在に至る、ということらしい。


私はウェストポーチへ手を入れ、中からお金を取り出した。

「ルカさん、これ受け取って。」

有無を言わせない勢いで、そのままルカさんへ差し出す。


「いや、娘みたいな歳の子からお金を受け取るわけにはいかないだろ。」

予想どおり遠慮してきた。

でも、前に貰った『冒険者のお守り』や、指名依頼で支払ってもらった代金を考えれば、数百倍の差がある。


かといって、これ以上渡そうとすればルカさんは絶対に受け取ってくれない。

ここが私なりの妥協ラインなんだけど、なかなか首を縦に振ってくれない。

「さっさと受け取りなさいよ!」


パァン!

「いでっ!?」

凄い音が響いた。

シルフが思いっきりルカさんの頭を叩いた音だ。


ナイス、シルフ。

「このまま受け取らないとアイラもずっとこのままよ! この子、こういう時は凄い頑固なんだから!」

……前言撤回。

シルフさん、後で少しだけお話したいことがあります。


でも結局、その一言が決め手になったのか、ルカさんは渋々お金を受け取ってくれた。

結果オーライということで、お咎め無しにしておこう。

「助かる。これがあれば倉庫も開けるし、当面の生活は何とかなりそうだな。」


「じゃあ素材が取れたら、ルカさんのところまで売りに行くね。」

「おいおい、さっきまで無一文だった奴から金を巻き上げるのか?」

そんなことを言いながら、ルカさんは笑っている。


ルカさんなら、持ち込んだ素材を上手く使ってお金を稼いでくれるだろう。

後払いでも良いから、容赦なく素材を持ち込んであげなきゃ。

そんな調子で今後について話していると、突然シルフがピシャリと会話を切った。


「そんなことよりオジサン、お金ができたなら先に服を着替えた方が良いわ。すっごく臭いもの。」

精霊は辛辣である。

その後、服を着替えて川で体を洗ったルカさんは、すっかり綺麗になった。


タオルなどは手元に無いので、最後は私が風魔法を送って服や体を乾かしてあげる。

「うん、オジサン。だいぶマシになったわよ。」

「ありがとうよ。」

ルカさんの顔が少し曇った。


まぁ、あのまま歩き回られるよりは良かったと思うしかない。

これは人助けだったんだよ、ルカさん。

「私ね、レオで復興支援を手伝ってるから、上手くルカさんのお店を作れないか聞いてみるよ。」


「何から何まですまねぇな。だったら、俺もレオに戻って手伝わないとな。」

「昨日大怪我したんだから、大人しくしてた方が良いよ。」

無理をしてほしくなくて、私はそう提案する。


「いや、十分に休ませてもらったさ。助けてくれた人たちにも本当に感謝してる。」

「それならなおさら――」

「俺にできることは何でもしたいんだ。」

ルカさんはそう言って笑った。


その顔で笑うと普通の子供なら泣くと思うけど、本人がそうしたいなら仕方ないか。

私だって、もしサジタリウスで同じことが起きたら、きっと同じことを言う。

「分かった。それなら転送広場から定期的に無料便が出てるらしいから、それで行くと良いと思うよ。」


「そうかい、そいつは助かる。」

「私もネネさんを見つけたらすぐ戻るよ。」

何気なくそう言ったつもりだった。

「ああ、宿屋の女将か。」


「知ってるの!?」

思わず公衆の面前で大きな声が出てしまった。

けどルカさんが知っているなら話は早い。

「あー、でもなぁ。うーん……。」


「……ネネさんに何かあったの?」

急に歯切れが悪くなったルカさんを見ていると、不安がどんどん膨らんでくる。

「いや、生きてはいるんだが。」

「もしかして後遺症とか……?」


ネネさんの宿は、封印があった場所からかなり近い。

ルカさんですら重体になったのだから、重大な怪我を負っていたとしても不思議じゃない。

「いや、そういうのもないんだが。俺から言うのはおかしいから、直接本人に聞いてくれ。」


「場所を知ってるの?」

「ああ、知ってる。ここから歩いて三つ目の建物の中だ。」

「ありがとう、ルカさん!」

それなら、そう遠くない。


今すぐ会いに行こう。

私は勢いよく立ち上がって踵を返した。

「それじゃあルカさん、またレオで。」

「オジサンまたねー。」


「ああ、お金ありがとうな~!」

手を振るルカさんへ私たちも手を振り返す。

そうして一旦ルカさんと別れ、私はシルフを連れてネネさんの元へ向かった。

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