復興支援③
王都リーブラを経由してサジタリウスへ帰ると、パパとママは私の姿を見るなり大喜びした。
魔王復活の知らせはすでに届いていたらしく、ずっと私の安否を心配していたらしい。
さらに私まで討伐隊に参加したと知った時には、それはもう大慌てだったそうだ。
「シルフちゃん、お願いね。アイラに無茶させないでちょうだい。」
「任せなさい!」
「ちょっと待って。」
何故そうなるの。
どうも二人の中では、シルフが上で私が下という扱いになっているらしい。解せぬ。
普段からシルフの暴走を止めているのは私の方なんだけど?
それからシルフも、『私に任せなさい!』みたいな顔で胸を張らないこと。
「今日は心配させないように顔を見せに来ただけだから、明日には王都に戻るよ。」
そう伝えると、パパとママは目に見えて残念そうな顔をした。
もう少し家にいてほしいのだろう。
だけど、ネネさんとルカさんのことや、魔導都市レオの復興を手伝いたいことを説明すると、最後には二人とも納得してくれた。
これなら、パパとママまで魔王討伐に参加するとか言い出すことも無さそうだ。
とりあえず一安心かな。
「それはそうと、次に帰ってきた時に大事な話があるから。」
「大事な話って?」
ママの言葉に首を傾げる。
「内緒よ。」
そう言うと、ママは口元へ指を立てながら、シルフへちらりと視線を送った。
シルフもそれに応えるように親指を立てて、何度も首を縦に振っている。
何それ。二人だけで何か話してたの?
どうやら私にだけ秘密にしたいことらしい。すごく気になる。
何度聞いても教えてもらえず、結局その日はモヤモヤしたまま眠りにつくことになった。
翌朝、簡単に朝ご飯を済ませると、珍しくパパより先に家を出る。
「それじゃあパパ、ママ、行ってきまーす!」
「ああ、行ってらっしゃい。」
「シルフちゃんもアイラをよろしくね~。」
「まっかせなさいよ!」
だから何で私が任される側なんだってば。解せぬ。
そのままいつもの転送屋へ向かい、『ポータル』をお願いして王都リーブラへ戻る。
さて予定どおり、今日はネネさんとルカさんを探さなきゃ。
まず向かったのは病院だ。
魔導都市レオから負傷者として運び出されてきたのなら、ここにいる可能性が一番高い。
だけど病院の前まで来ると、そこにはお見舞いに来た人たちで長い列ができていた。
「うわぁ……。」
医療の邪魔にならないよう面会には規制がかけられていて、一人十五分までしか中に入れてもらえないらしい。
二人がここにいると分かっているなら並ぶんだけど、そもそもいるかどうかすら分からない。
そんな状態で貴重な一枠を私が使うのは、少し気が引ける。
どうしたものかな。
「あの見えなくなるやつで忍び込んだら?」
「なるほど、名案だね。」
さすがシルフ。
こういうことになると、本当によく知恵が回る。
その案を採用することにして、一度病院から離れた。
人目につかない場所へ入り込み、周囲に誰もいないことをシルフと一緒に確認する。
よし大丈夫そうだ。
《HidePC》
そう念じた瞬間、いつものように私たちの姿が世界から消える。
「ほら、行くわよアイラ。」
「待ってよシルフ。」
シルフはもう先に飛んでいこうとしていた。
何だか妙に楽しそうだ。
普段は堂々と病院へ入るなんてできないから、妖精のいたずら好きなところが刺激されているのかもしれない。
私たちは順番を待っている人々をすり抜け、そのまま院内へ入った。
気分だけはプライオリティパスだね。
もちろん、今回は遊びに来たわけじゃない。
一部屋ずつ回りながら、ベッドで休んでいる患者さんの顔を丁寧に確認していく。
昨日あれだけ酷い目に遭ったばかりだから、どの人にも疲れの色は残っていた。
それでも、見てる限りでは比較的元気そうな人が多い。
本当に、これだけたくさんの人が助かってよかった。
お見舞いの人が多いせいで院内は混雑しているけど、治療が追いつかないほどの重症患者が大量に放置されているような様子もなかった。
もし医療崩壊でも起きているなら、《HidePC》を使ってこっそり治療を手伝うことも考えていた。
だけど、今のところは単純に患者と面会者が多いだけみたいだ。
たまに怪我人も運ばれてくることがあるけど、病院の人間で十分対処できるレベルだ。
私はそういう人は無視することにしている。
治療で生計を立ててる人もいるから私が余計なことはできないもんね。
とはいえ、ベッドはほとんど全部埋まっている。
そのせいで、新しい患者を受け入れる余裕がないらしい。
中には、自分はもう大丈夫だからと周囲に気を遣って退院していく人もいたくらい。
気持ちは素晴らしいと思う。
だけど、無理だけはしないでほしいものだ。
そうして病院内を一通り見て回ったものの。
「ここにはいなさそう。」
「次行きましょ。」
残念ながら、ネネさんもルカさんも見つからなかった。
仕方なく別の病院へ向かう。
その後は王都にある大きな病院を片っ端から回った。
そこでも見つからず、今度は小さな病院まで一つずつ探していく。
だけど、どれだけ探しても二人の姿は見つからなかった。
「ここにはいないんじゃないの。」
「うーん……。」
シルフも、さすがに探すのに飽きてきたらしい。
私だって少し疲れてきた。
それでも諦めるわけにはいかない。
《HidePC》を使ったまま次の場所を探して街中を歩いていると、偶然近くを通った人たちの会話が耳に入った。
「街の外の避難所に~~さんがいるんだって。」
避難所?
足を止める。
どうやら、魔導都市レオから避難してきた人たちが集まっている場所が王都の外にあるらしい。
それなら、二人がいる可能性は高い。
病院へ運ばれるほどの怪我をしていなかったなら、避難民としてそちらにいるのかもしれない。
「行ってみよう。」
「はいはい。」
少し疲れた様子のシルフを連れて、今度は避難所へ急ぐ。
朝から探し始めたのに、現地へ着いた頃にはもう昼を過ぎていた。
《HidePC》のおかげで人混みや順番をほとんど無視して動けているのに、それでもこれだけ時間がかかった。
最初から普通に探していたら何日必要だったか分からない。
「うわぁ……。」
そして避難所へ到着して、今度は私まで声が漏れた。
ここも凄い人数だ。
避難民だけでも、ざっと見た限り数千人はいるんじゃないだろうか。
さらに炊き出しを行っている人、看護を担当している人、家族や知人を探しに来た人たちまで含めれば。
「これ、一万人くらいいない?」
「アイラ、これを探すの?」
シルフが露骨に嫌そうな顔で、人の海を見つめている。
うん。気持ちは分かる。
携帯電話も無い。
館内放送みたいな便利なものも無い。
その状態で、この人数の中から二人の人間を探し出そうとしている。
冷静に考えれば、かなり無謀だ。
だけど、ここまで来たらやるしかない。
私は大勢の避難民を前に小さく息を吐いた。
「がんばろう……。」
自分自身に言い聞かせるように、そう呟いた。




