復興支援②
「アイラ、アンタ怖い顔もできるじゃない!」
「はぁ……。」
がっくりと肩を落とす。
第一声がそれ?
まぁ、いつまでも怒りをぶちまけられるよりは良いけど。
「お友達にあんなこと言われたら、誰だって怒るよ。」
「ふーん。」
シルフの羽がピクピクっと動く。
これは嬉しい時にする動きだね。
そんな姿が可愛くなって、私は指でシルフのほっぺをウリウリしてやる。
「こら、アイラやめなさーい!」
かぷ。ちゅううううう。
「ひゃああ!?」
完全に油断してた。
手袋をしていたから大丈夫だと思っていたのに、思い切り魔力を吸われる。
慌てて手を引っ込めると、シルフは少し離れたところまで逃げていった。
そこで止まると、楽しそうに笑いながら私へあっかんべーしてくる。
「こらー! シルフ!」
「きゃー♪」
私は両手を上げてシルフを追いかける。
捕まりそうになるたびにシルフは笑い声を上げながら飛び回り、私から逃げていく。
そんな追いかけっこは、近くにいた冒険者たちに笑われるまで続いた。
「それにしてもアイツ何だったの?」
ひとしきり遊んで落ち着いたところで、シルフが聞いてきた。
「……これは多分なんだけど。」
まずは以前にあったセリーちゃんの誘拐事件について説明する。
「へぇ、そんなことがあったのね。」
この話は《HidePC》を含めたGMコマンド抜きでは説明しづらい内容だったから、シルフには今まで話せなかった。
秘密についてある程度話した今なら、ようやく説明できる。
「その時から私を不審に思ってそうだったんだよね、あの人。」
出会ってから別れるまでの時間は短かったけど、あの時から態度には出ていた。
「アイラが不審なのは間違いないから分かるとして、何で私にあんな態度だったの?」
「分からないけど、あんな態度だった理由は多分……。」
そこについては少し言葉を選ぶ。
人間の中には、人間至上主義の考えを持っている人たちがいる。
精霊やエルフ、オンスロなどを、モンスターと同じように扱う人たちだ。
私はできるだけシルフの不快感を煽らないよう、言葉を選びながら説明した。
これでシルフが私以外の人間まで嫌いになったら困るしね。
「なにそれ、ヤな感じね。」
シルフは心底信じられないという顔をしている。
まぁ、アールヴヘイムにも人間に対して差別的な精霊やエルフはいたんだけどね。
そこは思っても口には出さないでおこう。
悲しいことだけど、どうしても相容れないことはある。
主義主張が違うこと自体は、ある程度仕方がない。
でも、せめてこっちに関わってこないでほしいところである。
それにしても、部屋を出る時に見たあの騎士の顔。
かなり殺気立っていて、何をしてきても不思議じゃないように見えた。
「まさかと思うけど、襲ってきたりしないよね?」
「あり得るわよ。あいつ、そういう顔してたもん。」
「いや、顔かい。」
思わず突っ込みを入れてしまう。
でも、シルフも同じように感じていたんだね。
もしかして、これで逆恨みされたりする?
何かされたら返り討ちにしてやるけどね。
「それでアイラ、サジタリウスにはどうやって帰るの?」
「冒険者に転送を頼むつもりなんだけど、誰か登録してくれてるかな?」
サジタリウスは田舎町だ。
あまり利便性の高い町でもないから、転送先として登録している冒険者は少ない。
一度王都リーブラを経由して戻れば確実だけど、その場合は転送費が倍かかるもんね。
節約できるなら節約しておきたい。
夕方までは復旧作業を手伝いながら、サジタリウスへの『ポータル』を使える人を探そう。
私では力仕事はあまり手伝えないけど、氷を作ったり水を冷やしたりするくらいならできる。
夏の炎天下なら、それだけでも喜んでもらえるはずだ。
私は早速、休憩所まで来ると簡易クーラーを作った。
土で作った屋根付きの小屋に冷気を流して、シルフが風を吹き込む。
暑い中で作業を続けていた人たちにとっては、これだけでもずいぶん楽になったらしい。
気付けば休憩時間になるたび、少しでも涼しい風を浴びようと私たちの周りに大勢の人が集まるようになっている。
一方で、肝心のサジタリウス直通の『ポータル』を持った冒険者は見つからない。
これは王都リーブラを経由するルートで確定になりそうだ。
時刻は十六時前。
一日の中でも特に暑い時間帯を何とか乗り切り、私はシルフと一緒に休憩していた。
「シルフ、そろそろサジタリウスに行こう。」
私は隣にいるシルフへ声をかける。
「もう手伝いは良いの?」
「うん。復興作業は冒険者の義務ではないから、先に私の用事を済ませちゃおう。」
「分かったわ!」
ここで大変な思いをしている人たちには申し訳ない。
だけど、どうしても優先順位を付けるなら、やっぱりパパやママ、ネネさんやルカさんの方が大事だ。
まずはサジタリウスへ戻って、パパとママに元気な顔を見せて一泊する。
その次の日には王都リーブラへ向かい、ネネさんとルカさんを探す。
今後については、そんな予定とシルフにも共有していた。
「それでは皆さん、私は一度離れます。」
休憩所にいた人たちへそう告げる。
すると、あちこちから悲鳴にも似た声が上がった。
「えぇ~、アイラちゃんもシルフちゃんももっとゆっくりして行ってくれよ~!」
「貴女たちがいないと悲しいわ。」
「そんなに?」
今日一日で随分と気に入られてしまったらしい。
でも、気持ちは分かるよ。
エアコンって、一度覚えたら二度と元の生活には戻りたくないよね。
本格的に、前世の化学知識と魔法を組み合わせた技術を論文にして誰かへ譲渡することも考えた方がいいのかな。
それとも、セリーちゃんとの魔道具制作をもっと真剣に進めるべきか。
そうすれば、この世界の人たちも今よりずっと生活しやすくなるかもしれない。
とはいえ、それはもう少し先のお話になりそうだ。
「用事を済ませたら、また戻ってきますから。」
「絶対だよ~!」
「はーい。」
悲しそうにしている騎士や冒険者、職人さんたちを見ていると、少しだけ胸が痛む。
そんな私たちを見ていたシルフが、ふと思い出したように口を開いた。
「アイラ、あの氷室とかいうの作ってあげたら?」
「あ、そっか。」
それはいい案かもしれない。
簡易クーラーは私とシルフがいなくなれば使えなくなるけど、氷室なら残していける。
それに、大きめに作っておけばある程度は長持ちするはずだ。
「じゃあ、最後にそれだけ作っていこうか。」
私はギルド職員が管理している冒険者専用倉庫へ向かい、そこから大量のおがくずを取り出した。
氷室はいろんな人に喜んでもらえるので、おがくずは常にストックしてある。
それを何度かに分けて広場近くまで運ぶ。
何を始めるのか気になったのか、周囲には少しずつ人が集まり始めていた。
「はーい、皆さん。少しだけ退いてくださーい。」
巻き込まないように周囲の人たちへ声をかけ、十分な距離を取ってもらう。
準備ができたところで、私は地面へ両手を向けた。
魔力を思いっきり込める。
地面が大きく沈み込み、一気に地下へ向かって大穴が作られていった。
「うわ、なんだ!?」
「すごい……。」
周囲から驚きの声と歓声が上がる。
これくらいの大きさなら十分かな。
出来上がった穴の中へ、今度は魔力で作り出した大量の氷を落としていく。
底から氷が積み上がり、程よい量になったところで、用意しておいたおがくずを大量に入れた。
あとは周囲を土でしっかりと塗り固めて、できるだけ外の熱が入り込まず、冷気も逃げないように整えていく。
前世の知識を頼りに作った、見様見真似の氷室の完成だ。
最初に作ったあの小さな氷室から何度か改良を繰り返してきたけど、私は氷室作りの専門家じゃない。
細かい構造まで正しいのかも分からないし、夏が終わる頃には中の氷も全部溶けてしまうと思う。
それでも、今この暑さの中で復興作業を頑張っている人たちには、しばらくの間だけでも心強い味方になるはずだ。
「中に入ってよし、何かを冷やしてよし。好きに使ってください。」
「おお、凄いよアイラちゃん!」
「えっへん!」
何故かシルフが胸を張っている。
そこはひとまず無視するとして。
こんなに喜んでもらえるなら、作った甲斐もあるというものだ。
私は騎士団の人に簡単な氷室の使い方を説明する。
あとは現地の人たちに任せて大丈夫だろう。
あ、でも扉とかは魔法で作れないから自分たちで付けてね。
「それじゃあ、今度こそ行こうか。」
「ええ!」
その後、王都リーブラへの『ポータル』を登録しているプリーストさんへ転送をお願いすることにした。
残念ながら、結局最後までサジタリウス直通の『ポータル』を使える人は見つからなかった。
転送費は余計にかかってしまうけど、こればかりは仕方ない。
「落ち着いたらまた戻ってきますから~。」
「待ってるよ~!」
「シルフちゃんもまたなー!」
「当然よ!」
たくさんの人たちに見送られながら、私とシルフは『ポータル』の光に包まれる。
次の瞬間には、荒れ果てた魔導都市レオの景色が消えていった。
そうして私たちは、王都リーブラへと戻った。
転送される、その瞬間。
遠巻きに私たちを睨む一人の人物が、建物の影に立っていたことにも気付かずに。




