復興支援①
私は今、捜査協力という形で騎士団の指令室を訪れている。
ここまで案内してくれた騎士が扉をノックする。
返事を待って扉が開かれると、その先にはテーブルを挟んで腰掛けているカシウスとクレスの姿があった。
「失礼します。」
軽く頭を下げて部屋へ入る。
中には他にも三人の騎士が立っていた。
私は今、重要参考人として騎士団まで呼ばれている。
「わざわざすまないな。」
「いえ、とんでもございません。」
カシウスの言葉に、当たり障りのない返事を返す。
「何よコイツ、偉そうに。」
「シルフ、ダメ。」
「うぐっ。」
しまった。シルフに黙っているよう言い忘れてた。
カシウスとクレスは一瞬だけシルフへ視線を向けると、すぐに私の方へ戻した。
今の一瞬、何か考えてたよね?
何を考えたのかまでは分からないけど、きっと私にとって嬉しいことじゃない気がする。
「さて、今日来てもらったのは他でもない。あのヴォイドというアサシンについてだ。」
「君が知っていることを教えてほしい。」
今日呼ばれた理由はこれだ。
あの時、私がヴォイドの名前を呼んでしまったから、何か知っていることがあるなら話してほしいと言われた。
とはいえ、私が話せることなんてあの場で言った内容くらいしかない。
だから最初は断ったんだけど、『第二騎士団長が直接お話ししたいと言っています』なんて言われてしまった。
さすがにそこまで言われたら無視することもできないよね。
「騎士にも説明しましたが、スコルピオ出身のアサシンで、十五歳。ソロの冒険者で現在は妹と暮らしているくらいのことしか知りません。」
「その情報はどこで?」
「知り合いの冒険者から聞きました。」
ここへ来るまでに、何度も頭の中で受け答えを練習してきた。
聞かれそうな質問は大体考えてある。
「その冒険者の名前は?」
「知りません。」
「では、その者の特徴を教えてくれ。」
これについては、前世の同僚と同じ特徴を適当に答えることにしていた。
その特徴を淡々と伝えていく。
仮に探したとしても実在しない人物なので見つかることは無い。
ここで気になるのは、クレスの後ろに立っている騎士。
不快感を隠そうともせず、さっきからずっとこちらを睨んでいる。
貴方に何かしましたっけ?
でも、どこかで会ったことがあるような気もする。
少し考えてみたけど、やっぱり思い出せない。
私の視線に気付いたのか、クレスがほんの少しだけ目を横へ向けた。
だけど、何事もなかったように視線を戻したその時だった。
「何なのよアンタ! 言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!」
シルフが爆発した。
さっきから私を睨んでいた騎士を指差し、大声で叫んでいる。やってしまった。
「最初アイラが断ったのに、どうしてもって言ってきたのはそっちじゃない!」
「ちょ、シルフ落ち着いて。」
慌てて宥めようとするけど、シルフはまったく言うことを聞いてくれない。
でも、こういう時に私まで怒るのは逆効果なんだよね。
シルフはただ、私を守ろうとしてくれているだけなんだから。
一方、糾弾された騎士も顔を真っ赤にして、わなわなと震えていた。
こんな場所でも態度に出してしまうくらいだから、かなり我慢が利かない人なのかもしれない。
「貴様、騎士団長たちの前で何だその態度は! 精霊の分際で!」
ぶつん。
「はぁ!? アンタ何様のつ――」
「シルフ。」
シルフの言葉を、今度は私がピシャリと切った。
いつもとは違う私の声色に驚いたのか、シルフがその場で固まる。
「聞き間違いかなぁ。今、何て言いました?」
怒りで瞳孔が開いているのが分かる。
頭がクラクラする。
それなのに、妙に目だけが冴えているような感覚がした。
首筋をスーッと冷たいものが通っていく。
あぁ。思い出した。
コイツ、クレスと一緒にネネさんの宿へ来た騎士だ。
あの時も何か言いたそうにしてたっけ。
まさか今度は、私の友達を侮辱する言葉が出てくるなんてね。
「無礼な精霊を黙らせ――」
「クロード。」
今度はクレスが、その言葉をピシャリと遮った。
へー、クロードさんって言うんだね。忘れておこう。
部屋の中に重い沈黙が流れる。
シルフは私の方をチラチラ見ながら青ざめているし、名前を知ったばかりの騎士は唇を噛みながら俯いている。
その間にも、カシウスとクレス、そして私の間で何となく空気の読み合いがあった。
これは私の意思に任せてくれるってことかな。
別に騎士団そのものへ怒っているわけじゃない。
とはいえ、今ここで要求したいものも特にない。
それなら、話を切り上げる口実として使わせてもらおう。
「これ以上、冷静な話し合いもできそうにありませんから、失礼して良いですか?」
こんなことで時間を無駄にしている暇はない。
私はこれから、やらなきゃいけないことがたくさんあるんだから。
そう考えると、この騎士はいい仕事をしてくれたのかもしれない。
二度と関わりたくないし、絶対に許さないけど。
「あぁ、問題ない。」
「私の部下が失礼な発言をして申し訳ない。」
カシウスとクレスは、残念そうに目を閉じて小さくため息を吐いた。
その仕草が驚くほどそっくりで、こんな時なのに親子なんだなぁと感心してしまう。
部下が下手をして、平民に謝罪まですることになるなんて災難だね。
「いいえ、お二人に何か言われたわけじゃないですし。」
返事のついでに、そこの騎士を少しだけ刺しておく。
遠回しに自分が非難されてプライドが傷ついたかな。
ますます顔を真っ赤にして震えてるけど、もう迂闊な発言はできないでしょ?
ここまで言えば、カシウスたちにも私の意思は伝わったはずだ。
ただ、二人ともあの騎士本人に謝罪させるつもりはないらしい。
騎士団のメンツとかではなく、あの人自身に何か問題でもあるのかな。
「それでは失礼します。」
一礼して部屋を出る。
隣ではシルフが、さっきの騎士に向かってあっかんべーしていた。
まぁ、それくらいは許しましょう。
実際に酷いことを言われたのはシルフの方だし。




