隠していた力⑮
「私が隠し事をしていたことを知っていた理由は分かった。他におかしいと思ってることはある?」
せっかくなので、この機会に全部聞いてしまおう。
自分でも知らないうちに色んな地雷を踏み抜いているのなら、今後のためにも改善していかないといけない。
私が気付いていないだけで、シルフからすれば不自然に見える行動がまだあるかもしれない。
「あとは魔法の使い方もおかしいわ。」
「魔法?」
思いがけないところを指摘されて首を傾げる。
何かおかしいところがあったのだろうか。
以前からシルフやドライアドには、私の魔力が甘いとか美味しいとか言われていた。
でも、それは魔力そのものについての話だったはず。
魔法の使い方までおかしいとは思っていなかった。
「精霊って魔法の扱いに長けてるのは分かるでしょ?」
「うん。精霊の行う精霊魔法は自然現象みたいなものだって。」
精霊の魔法は、人間が使う魔法とは根本的に少し違う。
火を出す時も、水を湧かせる時も、風を吹かせる時も、大地を隆起させる時も、精霊は世界に願うだけでそれをスキルとして発現させる。
元素に直接働きかけて化学現象を引き起こすようなことを、無意識のうちに行っている節がある。
私たち人間からすれば魔法としか思えない現象でも、精霊にとってはもっと自然な行為なのかもしれない。
「対して人間の魔法って無駄だらけなのね。」
「それは何となく分かる。」
人間は魔力そのものから火や水を直接生み出している。
何もないところから現象を生み出すのだから、当然ながら膨大な魔力が必要になるし、変換率だって悪い。
つまり、それだけ無駄が多いということだ。
「でもアイラの魔法って、こう、私たちに似てるというか。」
「精霊に?」
シルフの言葉を聞きながら、これまで自分が使ってきた魔法を思い返してみる。
例えば火を起こす際には、燃料、酸素、熱の三つが必要になる。
水を作るなら水素と酸素が必要。
どちらも前世の学校で習った知識だ。
この世界で魔法を使う時にいちいちそんなことを考えていたわけじゃないけど、前世で知っていたことを無意識に取り込んで、効率的に魔法を使っていたということだろうか。
確かに、必要なものを全て魔力から直接作り出すよりも効率は良さそうだけど。
「でもそれって、人から見て分かることなの?」
もし分かるのなら、少し困る。
シルフから見ておかしいというだけならともかく、他の人間から見ても普通とは違うと分かってしまうなら、今後は気を付けた方がいい。
「もし人間に気付かれることを気にしているのなら、その心配は少ないわ。」
「どうして?」
「人間はそんなに魔力を敏感に察知できないもの。アイラの魔法の威力がおかしいとか、普通とは違うとは思っていたとしても、それがどうしてまでかは分からないんじゃない?」
「なるほど。」
それなら、そこまで心配する必要はなさそうだ。
そもそも、この世界は魔法でほとんどのことができてしまう。
そのせいもあって、あまり化学が発展していない。
魔法の無いシン共和国などであれば、そういった技術も進んでいるけど、少なくともゾディアック王国で暮らしている人たちにはピンとこないかもしれない。
魔法を見て違和感を覚える人がいたとしても、その理由まで突き止められる可能性は低いということか。
「ありがとうシルフ。魔法については何となく分かったかも。」
「そう?」
「うん。」
つまり、化学知識を魔法に取り込んでいけば、今よりも凄い魔法が使えるようになるってことかな。
もちろん、何でもできるとは思わないけど、試してみる価値はありそうだ。
それに、この世界でも化学知識そのものが存在しないわけじゃない。
私が何かをしなくても、いつかはきっと誰かが同じことに気付くだろう。
もしどうしても教える必要が出てきたら、その時は誰かにこっそり教えて広めてもらうのもいいかもしれない。
「あとはそうねぇ。」
まだあるらしい。
シルフは指を顎に当てながら考え込み、そのままじ~っと私の胸の辺りを見つめてきた。
「な、何?」
思わず自分の胸元を見る。
何か付いているわけでもない。
シルフは少し考えてから、面白いものを見つけたように目を輝かせた。
「魂と魔力の色が他の人間と少し違ってて……。レアものって感じがするわ!」
「レアものって……。」
何だろう、その表現。
色違いモンスターみたいなものだろうか。
普通の人間と比べて魂と魔力の色が少し違う。
そんなことを言われても、私には自分の魂も魔力の色も見えないから確認しようがない。
もし原因があるとすれば。
異世界から転生してきた人間だから?
「うーん……。」
分からない。
前世の記憶があるからなのか。
それとも、GM権限を持っていることが関係しているのか。
今の私には判断できなかった。
もしシルフに全てを打ち明けたら、この謎も解けるのだろうか。
そんなことを考えていると、シルフが待ちきれなくなったように私へ詰め寄ってくる。
「そろそろアイラの隠してたことをアタシに教えなさい。」
「そうだなぁ……。」
いよいよ私の番か。
最終的には、私の秘密を全てシルフに教えるつもりでいる。
だけど、今日はどこまで話したものか。
全部を一度に話してしまっていいのかは、まだ少し迷っていた。
「シルフは異世界って信じる?」
「あぁ、聞いたことがあるわ。」
「聞いたことあるんだ……。」
てっきり、異世界というもの自体を知らないと思っていたのに、予想外の答えが返ってきた。
誰から聞いたんだろう。
この世界にも異世界について知っていそうな人物に心当たりはあるけど、その人から精霊たちへ伝わったのかな?
「ちなみに、その異世界について詳しく知ってる人は今どうしてるの?」
興味本位で聞いてみる。
もし私が想像している人物のことなら、まだ生きているはずだから。
「知らないわ。アタシたちは精霊女王がガイア様から聞いた話をまた聞きしてるだけだもの。」
「そうなんだ。」
女神ガイアが話すような人物だとするなら、『彼』のことを言っている可能性が高い。
ネームレスオンラインのメインストーリーにも登場した異世界人。
今はシン共和国にいるはずだ。
とはいえ、シルフ自身が詳しく知っているわけではないらしい。
それなら、これ以上聞いても分からないかな。
ティターニアに聞ける機会があったら、その時に聞いてみよう。
あの意味深な言葉も気になるし。
「つまりアイラは異世界人なの?」
おお、理解が早くて助かる。
シルフって、こういうところの理解は早いよね。
「正確には異世界で生きた記憶を持つ転生者かも。」
「へぇ~。やっぱりレアものね!」
シルフは興奮気味に目を輝かせる。
何というか、ガチャガチャでシークレットを当てた子供みたいな目で見られている。
もう少し驚いたり疑ったりすると思っていたんだけど、シルフにとっては異世界から転生してきたことよりも、私が珍しい存在だということの方が重要らしい。
そこから私は、ゲームについての説明を避けながら自分のことを話していった。
前世からこの世界について知っていたこと。
五歳の時に前世の記憶を取り戻したこと。
そして、その記憶の中にレーヴァテインや《HidePC》などの力が含まれていたこと。
一つずつ、シルフに説明していく。
未来について知っていることも話したけど、そこはかなり濁しておいた。
この世界のことを知識として何となく前世で得ていた。
説明はその程度に留めている。
もちろん、ネームレスオンラインについても話していない。
自分たちの存在がゲームの中にあって、データとして管理されていた。
そんなことをいきなり聞かされたら、シルフだってショックを受けるかもしれない。
だから今は話さないことにした。
……嘘を見破られていたと知ったばかりではあるんだけど。
私の説明を聞いている間、シルフがそれ以上深く踏み込んでくることはなかった。
なら、ひとまず納得してくれたものとしよう。




