隠していた力⑭
ゆっくりと、そこに書かれている名前を確認していく。
手が少し震えていた。一人、また一人と名前を追っていく。
大丈夫。また確認する。
いない、大丈夫。何度も自分にそう言い聞かせる。
周囲では嗚咽と咆哮が入り混じっていた。
誰かの泣き声が聞こえるたびに、辺りの空気が一段と重くなっていくように感じる。
「あぁ……。」
突然、すぐ隣にいた女性が泣き崩れた。
その場に膝をつき、声を上げて泣いている。
きっと、この人にとって大切な誰かの名前を見つけてしまったのだろう。
隣にいた男性も泣きながら、その女性の肩を抱いていた。
その光景を見て、胸がキュッとなる。
何も言えなかった。
私はそのまま、一人ずつ名前を確認していった。
結局、全員を確認するのに三十分近くかかってしまった。
今は看板から少し離れたところにある、比較的平らな瓦礫の上に座っている。
「……いなかった。」
結論から言えば、知り合いの名前は一つも無かった。
それだけ見れば、安心していい結果のはずだ。
だけど、素直に喜び切れない。
視界の先では今も、大切な誰かを失った人たちの絶望が広がっている。
名前を見つめながら泣く人もいれば、誰かに支えられている人、その場から動けなくなっている人もいる。
そんな光景を前にしても、今の私にできることは何もない。
ただ、これからはこんな悲劇を少しでも減らせるようにしたい。そう思った。
もちろん、復興が一日で終わるはずもない。
街の様子を見れば、それは誰にでも分かる。
夜になる前に、ひとまず冒険者たちは解散することになった。
一方で騎士団の人たちは残るらしい。
こういう混乱した時には盗賊などが出ることもあるらしく、交代制で街の治安維持に努めるとのことだった。
魔王と戦った直後なのに。
緊急事態とはいえ、本当に頭が上がらない。
私は首都から輸送されてきた炊き出しをいただいた後、街から少し離れた丘の上まで移動していた。
もちろん、今は《HidePC》状態だ。
街を離れたところで、ようやく少しだけ落ち着くことができた。
ネネさんやルカさんは、おそらく首都リーブラへ搬送された怪我人の中にいたのだろう。
そう考えるのが一番自然だと思う。
だけど、実際に再会できるまでは安心できない。
今後も二人を探すのは続けよう。
そこでようやく、私は隣にいるシルフへ顔を向けた。
「さてと。シルフ、お待たせ。」
「お~そ~い~!」
「ご、ごめん。」
ここまで待たされたシルフは、かなりご立腹だった。
頬を膨らませて、見るからに不満そうな顔をしている。
でも、むしろよくここまで我慢してくれた方だと思う。
朝からずっと待たせてしまったんだから。
少し落ち着いたところで、私は気になっていたことから聞いてみることにした。
「それで、私が力を隠してたのにはいつから気づいていたの?」
「気づいたのはアールヴヘイムを出てからすぐね。」
「そんなに早く?」
それなら、もう数か月も黙っていたことになる。
出会ってすぐに気付くくらい、何か特徴的なものがあったということだ。
「気が付いた理由は?」
もしも他人が見ても分かるような特徴があるのなら、今後のためにも知っておきたい。
力を隠したいなら、何が原因で気付かれるのかは重要な情報だ。
するとシルフは、少し考えるような素振りを見せてから答えた。
「一番は嘘が下手なことね。何か隠し事してますって言うのが丸わかり!」
「嘘が下手……。」
思わず固まる。それは予想していなかった。
嘘をつくのが得意だとは思っていなかったけど、何も言わなくてもシルフに分かるくらい下手だとも思っていなかった。
思っていた以上にショックだ。
「そんなに分かりやすかったの?」
「分かりやすかったわよ。」
うぅ、ちょっと悲しい。
シルフはそんな私を気にする様子もなく、そのまま続ける。
「こそこそと何かを隠す様子だったり、いっぱいあった荷物がどこかに消えたり。」
「あぁ……。」
それは確かに迂闊だった。
シルフは細かいことなんて気にしないだろうと、どこかで高を括っていた部分もある。
でも、実際にはちゃんと見られていた。
私が思っていた以上に、色々なところを見られていたということだ。
これは反省しよう。




