隠していた力⑬
その後も《HidePC》状態のまま周囲に残り、しばらく盗み聞きを続けてみた。
だけど結局、有益な情報はほとんど得られなかった。
魔王の姿や、使っていたスキル。
そういった情報は全部、『ネームレスオンライン』の知識ですでに知っている。
カシウスや一部の二次職に就いている人たちでなければ、魔王にダメージを与えることすらできない。
大半の人たちは足止めするだけで精一杯だったらしい。
それも私の予想通りだった。
知識通りの強さで、予想通りの結果。
つまり、ここまでの収穫は無し。
「うーん……。」
それに加えて、今回の戦いを見たことで、この世界の戦力だけでは魔王を完全に倒しきることが難しいということも確信した。
それこそ、ティターニアみたいな人が助けてくれるなら話も変わってくると思う。
あの人なら魔王を相手にしても戦えるはずだ。
だけど、わざわざ人間を助けてくれるとは思えない。
「アールヴヘイムに魔王を誘導できれば倒してくれると思うけど、そんなことしたら怒られるじゃすまないだろうし。」
考えただけでも怖い。
魔王を倒すために、魔王より強い人から睨まれる。
それじゃあ、どう考えてもリターンが見合っていない。
この方法は取らない方がいいよね。
そもそも、本来の歴史通りなら魔王が登場するのは二年後だった。
今からさらに二年間鍛えたクレスであれば、今回よりもっと良い戦闘ができていたかもしれない。
だけど、その線ももう失われてしまっている。
魔王はすでに復活した。
「やっぱり私が倒すのが一番丸いんだけど……。」
そう考えるのが一番自然ではある。
だけど、それには少し懸念があった。
ネームレスオンラインでは、魔王を倒したのはプレイヤーだった。
だけど、魔王にトドメを刺したのはプレイヤーじゃない。
ストーリー上では、プレイヤーたちの力だけで魔王を討伐することはできなかったんだよね。
そして、そこに至るまでの流れには大きな懸念がある。
だからできることなら、GM権限を使わずに事を収めたい。
「……無理か。」
小さく息を吐く。
ギリギリまで未来のネームドキャラクターたちが登場してくれることを祈ろう。
それでも無理なら、その時は私が何とかする。
そのためのルールは一つだけ。
私の目の前で誰かが犠牲になる前に、必ず対処すること。
これだけは絶対に守りたい。
そこまで考えたところで、私は隣にいるシルフへ顔を向けた。
「シルフごめん、お話の前に知り合いの無事を確認しても良い?」
待たせてしまっているシルフには、本当に申し訳ない。
私の力についてちゃんと話すと約束したのに、さらに待ってもらうことになる。
だけど今は、ネネさんとルカさんの安否が気になって仕方がなかった。
二人が無事なのか確認しないままでは、落ち着いて話すこともできそうにない。
「今日中には絶対に説明するって約束するから。」
ここはちゃんと約束する。
私が真面目な顔でそう伝えると、シルフはしばらくこちらを見つめた後、大きくため息を吐いた。
「仕方ないわね。」
「ありがとう。」
許してくれたことにホッとしながらお礼を言う。
そのまま私は《HidePC》状態を維持し、シルフと一緒に魔導都市レオへ向かった。
街の近くまで戻ってきたところで、周囲を確認する。
冒険者や騎士の姿がない場所を見つけて立ち止まった。
「ここならよし。」
周囲に誰もいないことを確認してから、《HidePC》を解除する。
するとシルフが自分の体を眺めながら、不思議そうな声を上げた。
「はぁ~、フシギな力ね。今はアタシの姿が見えるの?」
「え?」
意外な反応だった。
つまり、《HidePC》中は私たち自身には自分の姿が見えないけど、お互いの姿だけは見えているということ?
「シルフも自分の姿は見えてなかったの?」
「見えてないわ。アイラは見えてたけど。」
「そうなんだ。」
思いもよらなかった情報に、私は思わず感心した。
私からはシルフの姿が見えていた。
そしてシルフからも私の姿は見えていた。
でも、それぞれ自分自身の姿は見えていなかったらしい。
今まで一人で使っていた時には分からなかったことだ。
この辺については、シルフと一緒に今後も検証していこう。
そんな新しい発見をしながら、魔導都市レオへ入る。
街の中は、とにかく人が多かった。
復旧作業や怪我人・死亡者の搬送、家族の捜索、食料の配給などを行う人たち。
あらゆる人たちが街の中を行き交い、そこら中がごった返していた。
建物の多くは崩れ、道には瓦礫が散乱している。
その中を、みんな必死に動いている。
私もネネさんとルカさんを探しながら、手伝えそうなことがあればできる範囲で手を貸していった。
だけど、いくら探しても二人の姿は見つからない。
時間だけが少しずつ過ぎていき、結局、二人を見つけられないまま夕方になってしまった。
「……いない。」
遺体収容所にも足を運んだ。
正直、そこへ向かうのは怖かった。
もしネネさんかルカさんがいたらどうしよう。
そう考えるだけで足が重くなる。
それでも確認しないわけにはいかない。
一人ずつ見ていったけど、二人の姿は無かった。
「良かった……。」
亡くなった方々には本当に申し訳ないと思う。
それでも、二人がいなかったという事実には少しだけ安心してしまった。
もしかしたら、どこか別の場所に避難しているだけなのかもしれない。
怪我をして、別の場所へ運ばれている可能性だってある。
そうであってほしい。
「アイラ、あれは何かしら?」
シルフの声に顔を上げる。
視界の先では、騎士団の人たちが大きな看板を立てていた。
その周囲には人が集まっている。
泣いている人や叫んでいる人、立っていられずその場に座り込んでいる人たちの姿を見て、私は何となく分かってしまった。
「あれ……。」
重い足取りで看板へ近づいていく。
大きく書かれていた文字を見て、胸の奥が締め付けられる。
『死亡者・行方不明者リスト』と書かれた看板だけがそこに立てつけられていた。




