隠していた力⑩
「何よそれーーーっ!」
怒るシルフをひとまず無視して、私は次のスキルを発動する。
『ライフサークル』
指定した範囲内にいる味方の体力を徐々に回復し続ける、ハイプリーストの範囲回復スキルだ。
私を中心に淡い光が広がり、傷ついた騎士や冒険者たちの足元に光の輪が浮かび上がる。
「これは……?」
「傷が治っていく……。」
突然現れた見慣れない回復スキルに、騎士団と冒険者たちが戸惑っている。
『ライフサークル』の回復量は術者の魔力に依存する。
普段の私が使えたとしたら、どの程度の回復量になるか分からないけど、レーヴァテインを持っている今なら話は別だ。
多分、一回の回復だけで全快するんじゃないかな。
実際、先ほどヴォイドに吹き飛ばされた騎士たちの傷がみるみる塞がっていく。
プリーストたちが次々と倒されて崩れかけていた戦線も、これなら少しは持ち直してくれるはずだ。
「何でアイラが奇跡を使えるの?」
私が突然ハイプリーストのスキルを使い出したから、シルフも驚いたみたい。
まぁ、そりゃそうだよね。
サモナーの私が何の前触れもなくハイプリーストのスキルを使い始めたんだから。
本当なら説明したいところだけど、今はそれよりも先に確認しておかなきゃいけないことがある。
「シルフ、その魔力量で魔法撃ったら危ないでしょ?」
「そうね。どんな威力になるか分かったもんじゃないわ。」
シルフも自分の中に流れ込んでいる膨大な魔力を感じ取っているのだろう。
珍しく素直に頷いてくれた。
今のシルフのステータスで精霊魔法なんて使われたら、確実に味方ごと巻き込んじゃうよね。
本人にそのつもりがなくても、いつもの感覚で放った『エレメンタルウィンド』がどんな威力になるか想像もつかない。
「しばらく大人しくしててくれる?」
悪いけれど、今回はシルフには大人しくしておいてもらおう。
バフなら使ってもいいよって言おうかと思ったけど、それもやめておいた方がよさそうだ。
今のシルフが全力でバフをかけたら、強化されすぎて逆に危険な可能性だってある。
もし攻撃が通じなかったり、動きを封じきれなかったりしたら、その時はシルフの力を借りよう。
「……もしもの時は、バフをお願いするから。」
「もちろんよ。私だってアイラの役に立ちたいもの。」
「ただし、私がお願いするまで使わないでね。今のシルフの魔力なら、どれくらいの強化になるか分からないから。」
「分かったわ。ちゃんと指示を待ってる。」
こんな状態でぶっつけ本番の力を試す勇気はない。
だからこそ、どうしようも無くなった時だけ、慎重に力を借りることにした。
「代わりにアイラの勇姿をしっかり見ておくわ。」
「ふふ、任せて。」
納得してくれたみたいでホッとする。
シルフが私に任せてくれたんだから、できるだけカッコいいところを見せないとね。
それにはまず、どうやってヴォイドを止めるかだ。
魔王の復活が二年も早まったことは気になる。
本来なら、ヴォイドがこうなるのも二年後だったはずなのに。
ネームレスオンラインでは、ヴォイドは魔王による思考誘導を受けていた。
戦いが終わって魔王の影響から解放された後は改心し、自分の犯した罪を償おうとしていたはずだ。
歴史が変わったとしても、まだ残された道はあるかもしれない。
もちろん、現在がゲームと全く同じ状態だという保証はない。
それでも可能性があるなら、できれば殺したくない。
どうにかして無力化できれば……。
「そうだ!」
ヴォイドがまだ人間のままなら、状態異常が通じるはずだよね?
だったら完全に殺す必要なんてない。
動けなくしてしまえばいいんだ。
私はレーヴァテインをグッと握り締め、戦場を飛び回るヴォイドへ意識を集中させる。
地上にいる間は勢い余って味方に攻撃をしてしまうかもしれない。
なら狙うべきは次の獲物を見つけて跳んだ瞬間だ。
今なら、《HidePC》で私とシルフの存在そのものが認識されていない。
つまりヴォイドに攻撃を予測される心配もない。
避けることは不可能なはず。
次の獲物を見つけたヴォイドが大きく大地を蹴った。今だ。
「『ライトニングケージ』!」
ヴォイドの着地点を狙い、先回りするように『ライトニングケージ』を発動する。
何もなかった空間に、雷を纏った柵が一瞬で出現した。
「!?」
突然現れた雷の柵に驚いている。
これで魔王の力を持っていても《HidePC》があれば知覚の外から攻撃できることが実証された。
事前に察知することもできず、空中で急停止することもできなかったヴォイドはそのまま、思い切り雷の柵へ飛び込んだ。
「いてぇ!?」
バチチッと激しい音が鳴り響き、全身を電流に貫かれたヴォイドが弾き飛ばされる。
「あっ、ちょっと強すぎた。」
魔力が高すぎて魔王の防御力を貫通して、手足が少し焦げるくらいの威力になっている。
やっぱりレーヴァテインを装備した状態で普通の感覚で魔法を使っちゃダメだね。
でも狙い通り、ヴォイドの動きは完全に止まった。しかも今は空中。
いくらヴォイドでも、この状態から自由に動くことはできないはずだ。
今ならいける。
足に力を込めて、グッと身を屈める。
そのまま地面を軽く蹴った。
さっきまで遠くにいたヴォイドとの距離が一瞬で縮まり、空中で弾き飛ばされているその体が目の前に迫る。
魔王の力があるなら、きっとこれくらいの攻撃は耐えられるはず。
もし加減を間違えて死なせちゃっても、その時は『リザレクション』でちゃんと助けるから。
だから今は、確実に止める。
「ちょーっとだけ痛いの我慢してね! 『インパクトストライク』!」
「うがぁっ!」
強烈な打撃と共に気絶効果を与える『グランドナイト』の攻撃スキルを、思いっきりヴォイドのお腹へ叩き込む。
《HidePC》状態の私が、レーヴァテインによる強化を受けて放った一撃。
それは私の想像を遥かに超える威力になった。
拳がヴォイドの腹部に触れた瞬間、周囲の空気が一気に押し出される。
ドンッという鈍い衝撃音と共に、私たちを中心として凄まじい衝撃波が発生した。
地面に積もっていた砂埃や小石が一斉に吹き飛び、近くにいた騎士や冒険者たちの髪や衣服が大きくはためく。
「えっ。」
衝撃波に煽られたヴォイドの体が、凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
騎士団と冒険者が密集している場所を飛び越え、さらにその向こうへ。
十メートル。
二十メートル。
それでも止まらない。
三十メートル以上も吹き飛んだところでようやく地面へ激突し、そのまま何度も地面を跳ねながら瓦礫の中を転がっていった。
やがて土煙の向こうで動かなくなる。
「やりすぎたかも……。」
気絶させるだけのつもりだったんだけどなぁ。
自分でやったことながら、ちょっとだけ心配になる。
でもヴォイドもたくさんの人を傷つけたんだし、これくらいの罰は受けても仕方ないよね。
うん。そういうことにしておこう。




