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隠していた力⑥

「なに、これ……。」

「ひどいわね……。」


魔法陣を抜けた先には、地獄絵図が広がっていた。

何度も訪れた魔導都市レオ。

だけど、私の知っている街の姿はどこにもない。


街の中心部にはルインダンジョンほどではないにしても巨大な穴が開き、周囲の建物は軒並み吹き飛ばされている。

美しかったウィザードギルドも、たくさんの人が魔法を学んでいた学校も、跡形もなく消し飛んでいた。

残っているのは瓦礫と、焼け焦げた建物だけ。

あちこちから煙が上がり、鼻を突く焦げ臭い匂いが漂っている。


「こんな……。」

分かっていたつもりだった。

転送広場へ運ばれてくる怪我人を見た時点で、魔導都市レオが酷い被害を受けていることくらい。


それでも実際に自分の目で見ると、あまりにも違った。

確かにゲームでも魔王復活を受けて魔導都市レオは一度壊滅的な被害を受けた。

街には大穴が開いて復興には多くの時間を要したのも事実だ。

でも、ここで崩れた建物も、怪我をした人も、全部本物だ。


「ネネさんの宿……。」

いつも泊まっていた場所へ目を向ける。

だけど、そこに宿はなかった。


建物は完全に崩れ落ち、どこからどこまでが宿だったのかさえ分からなくなっている。

ルカさんがいつも居た場所も同じだった。

商品を並べていた店先は瓦礫に埋もれ、見る影もない。


「ネネさん……。ルカさん……。」

二人とも、どうか無事でいてほしい。

胸元をギュッと押さえる。

今すぐ探しに行きたい。

瓦礫の下に誰かがいないか確認したい。

だけど私には魔王討伐のためにここへ来たという役目がある。


それに、生きているなら既に避難している可能性だって十分にある。

今は無事を信じるしかなかった。


「……魔王は?」

辺りを見渡す。

これだけの被害を出した肝心の魔王の姿が、どこにも見当たらない。

あれだけ巨大な存在なら、近くにいればすぐに分かるはずだ。

一体どこに行ったというのだろうか。


「魔王は現在、騎士団および冒険者と交戦中! 街の南へ移動したとのこと!」

騎士団の伝令兵が大声を張り上げる。


「到着した者は部隊ごとにまとまれ! 準備ができ次第、南へ向かう!」

その声を受けて、周囲の空気が一気に変わった。


騎士たちは隊列を整え、冒険者たちも武器や防具の最終確認を始める。

私もウェストポーチの位置を確認して、杖を握り直した。


いよいよだ。

これから本当に魔王と対峙することになる。

ゲームでは何度も戦った相手。


攻撃方法も、使用するスキルも、弱点だって知っている。

それなのに手が震えていた。

知っているからこそ怖い。


あの攻撃を一度でも受ければ死ぬ可能性が高いと分かっている。

心臓がこれまで経験したことがないほど激しく鳴っていた。


「アイラ。」

「大丈夫。行こう、シルフ。」

自分に言い聞かせるように答えて、騎士団と一緒に南へ向かおうとした。

その時だった。


「おいおい、皆さんお揃いでどこに行くんだ?」

場違いなほど軽い声が聞こえた。


「何だ貴様は!?」

騎士たちが一斉に足を止める。

瓦礫の向こうから、一人の男がゆっくりと姿を現した。

深くフードを被り、手には一本の短剣。

顔の大部分は隠れている。


だけど、その姿を見た瞬間に背筋が凍った。

見間違えるはずがない。

ゲームのメインストーリーに登場した人物なのだから。


「ヴォイド……。」

思わず名前が口から漏れた。

どうして彼がここにいるの?

いや、それだけじゃない。

どうして既に魔王の意志を宿しているの?


私の知っている歴史では、こんなことになるのは二年後だった。

ヴォイドは大切なものを失ったことで心を病み、そこへ魔王が付け込む。

そして魔王に精神を乗っ取られ、その封印を解く手伝いをすることになる。

それが私の知っている正史。


だから私は二年後に備えていた。

なのに魔王は今日復活して、ヴォイドも既にここにいる。

何が起きたのか分からない。


私が歴史を変えた影響なのか、それとも全く別の原因があるのか。

今ここで考えたところで答えなんて出るはずがなかった。

ただ、一つだけ確かなことがある。

今のヴォイドは、ここにいる全員の敵だ。


「俺も混ぜてくれよ。」

ヴォイドが笑った。

その瞬間、肌が粟立った。

実際に気温が変化したわけじゃない。

それでも周囲の温度が二度は下がったように感じるほど、強烈な殺意が私たちへ向けられている。


騎士たちも即座に異常を察知した。

剣が抜かれ、後方ではウィザードたちが杖を構える。


「待て! こいつ、魔王の封印を解いたという人物と人相が一致しています!」

誰かが叫んだ。


「なっ!?」

次の瞬間には、ヴォイドの姿が消えていた。

違う、消えたんじゃない。

速すぎて目で追えなかった。


「ぐぁっ!」

「がっ……!」

前方から悲鳴が上がる。

ヴォイドは既に騎士たちの目の前にいた。


短剣が何度か閃く。

それだけで最前列にいた騎士たちが次々と地面へ倒れていった。


「そんな……。」

おかしい。私の知っているヴォイドは、こんなに強くないはずなのに。


ゲームでもヴォイドとの戦闘はあった。

だけどあれはストーリー進行のためのイベント戦闘で、プレイヤー側が勝てるように設計されていた。

だからゲームで表示されていた強さが、そのまま本来のヴォイドの実力だったとは限らないということなのか?


それでも、これは明らかに異常だ。

騎士団の人間が反応することすらできない速度。

一瞬で複数人を戦闘不能にする攻撃力。

私の知っているヴォイドとは、あまりにも違いすぎる。


「まさか……。」

ゲームのモンスターステータスよりもストーリー設定が優先されるのではないだろうか。

そう考えれば辻褄は合う。

今のヴォイドは、ただ魔王に操られているだけの人間じゃない。

魔王の力まで与えられている。

目の前にいるのは、魔王の半身に相応しいだけの力を持った存在だった。

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