隠していた力③
「今日はそろそろ帰ろうか。」
時刻はもう昼過ぎ。
そろそろ夕方になりそうだし、空には朝からずっと厚い雲が広がっている。
今にも雨が降り出しそうな天気だ。
引き上げるにはちょうど良い頃合いだと言える。
「あら、そう。アタシならあと百匹は行けたけどね。」
「はいはい。さすがシルフだねー。」
「トーゼンでしょ! アタシを誰だと思っているのかしら。」
いつも通り胸を張ってドヤ顔をしている。
さっきまで十匹倒しただけでふらふらになっていたのは誰だったかな。
魔力を飲んですっかり元気になったらしい。
今日も次代の風の精霊王様は絶好調だ。
「元気になって良かったね。」
「最初から元気だったわよ!」
「そういうことにしておくね。」
「何よ、その言い方!」
いつもの調子で抗議してくる。
シルフって大きくなると綺麗なお姉さんになるんだけど、性格はどうなるんだろう。
ゲームでは精霊が成長すると外見も大きく変化する。
今の小さくて可愛らしい姿から、すらっとした大人の女性へ。
この言動のまま外見だけ大人になったら、それはそれで面白そう。
逆に落ち着いた性格になったら、今の言動が黒歴史になったりするのかな。
数年後に昔の話をしたら顔を真っ赤にして怒るシルフを想像する。
ちょっと見てみたい。
「何ニヤニヤしてんのよ。」
「何でもないよ。」
「怪しいわね……。」
そんなことを考えながら、私たちは帰路に着いた。
王都リーブラに戻ると、街が何だか慌ただしかった。
「……あれ?」
普段から人の多い王都だけど、今日は明らかに様子が違う。
騎士団が街中を駆け回り、商人たちも慌ただしく荷物を運んでいる。
大きな荷車には大量の食料や薬品らしき木箱が積み込まれていて、それを何人もの人が急いで運んでいた。
そして何より目を引いたのは冒険者の数だ。
二次職と思われる冒険者たちが次々と冒険者ギルドの方へ走っていく。
中には装備を整える暇もなかったのか、普段着のまま武器だけを持って走っている人までいた。
明らかに普通じゃない。
「人間たちがうるさいわね。」
シルフも周囲を見渡している。
「何があったんだろう。」
街に戻ってきたばかりの私たちには何も分からない。
少なくとも、お祭りや何かの催しという雰囲気ではない。
誰も笑っていないし、行き交う人たちの顔には焦りが浮かんでいる。
「騎士団まで動いてるね。」
何人もの騎士が向かった先は転送広場の方だった。
何か事件でも起きたのだろうか。
野次馬は良くないと思うけど、この規模で騎士団や冒険者が動いているなら、重大事件の可能性がある。
邪魔になりそうなら離れれば良いか。
「ちょっと見てみようか。」
「アタシも気になるわ。」
私たちは転送広場の方へ向かった。
転送広場に近付くにつれて、人の数がどんどん増えていく。
そして同時に、街の異様な空気の正体も見えてきた。
「道を空けろ!」
騎士の大声が響く。
人混みが左右に分かれ、その間を担架が通り抜けていった。
運ばれているのは冒険者らしき男性。
鎧は大きく壊れ、全身が血に染まっている。
その後ろからも、また一人。さらにもう一人。
転送広場の中から次々と怪我人が運び込まれていた。
歩ける人は肩を借りながら、歩けない人は担架に乗せられていた。
中には遠目から見ても命に関わると分かるほどの大怪我を負っている人までいる。
「何よコレ……。」
「分からない……。」
さすがのシルフでさえ言葉を失っていた。
何かしらの襲撃にでも遭わなければ、こんな規模の怪我人は出ないだろう。
それも一人や二人じゃない。
今も転送広場から次々と運び込まれている。
大規模なモンスターの襲撃?
それともダンジョンで何か起きた?
頭の中でゲームの記憶を探ってみる。
「こんな事件、あったっけ……。」
少なくとも、私の記憶には無かった。
それともゲームでは描かれていなかった事件なのか。
判断できる材料が少なすぎる。
「あの傷に付いてる魔力、ちょっと変じゃない?」
「え?」
シルフの方を向く。
だけど、どうやら私に話しかけたわけではなく独り言だったらしい。
運ばれていく怪我人をじっと見つめている。
「シルフ?」
「……。」
珍しく返事がない。
私には実体化していない魔力を目視することはできない。
だから、もし何が見えるのか聞いたところで理解できるかは分からない。
きっと今のシルフには、精霊にしか見えない何かが見えているのだろう。
そしてシルフの表情を見る限り、それは普通のものではない。
嫌な予感がする。
「ひとまず、転送広場を覗いてみよう。」
「ええ。そうしましょ。」
人混みを掻き分けながら転送広場へ向かう。
近付けば近付くほど騎士や冒険者の姿が増えていく。
やがて転送広場が見えるところまで来ると、私は思わず足を止めた。
「……騎士団?」
広場には既に大勢の騎士が整列していた。
一個小隊なんて規模じゃない。
明らかに大規模な出撃準備だ。
大きく二つに分かれた隊列。
そのうち一つの前には、見覚えのある二人が立っている。
カシウスとクレスだ。
「二人ともいる……。」
カシウスは騎士たちを前に指示を飛ばし、その隣では完全武装したクレスが待機している。
だとすると、あちらが第二騎士団。
そしてもう片方が第一騎士団だろう。
つまり第一、第二騎士団揃い踏みということになる。
「……何が起きてるの?」
これだけの戦力を一度に動かすほどの何かが起きている。
さっきまで感じていた嫌な予感が、急速に現実味を帯び始めていた。




