隠していた力②
◇
「ほーら、シルフ。頑張って。」
「うっさいわね、今やってるでしょ!」
少し離れた海岸から、シルフの怒鳴り声が飛んでくる。
私はそんな声援を送りながら、シルフを連れてゾディアック王国の東海岸沿いまで来ていた。
この辺りはゾディアック王国の東端。
街道以外から来るには険しい森を抜ける必要があるため人の往来も少なく、強力なモンスターもほとんど出現しない地域になっている。
見渡せば海と砂浜。時折、弱いモンスターが砂の中から姿を現すくらいで、冒険者の姿もほとんど見当たらない。
そんな場所になぜ来ているのかと言うと、海岸沿いに出現するカニや土魚をシルフに狩らせてレベルアップさせようとしているからというのも、
「私の成長限界が来ちゃったんだよね。」
そう、サモナーで上げられるレベルの上限に早くも達してしまったようなのだ。
ある日を境に何をしても全くレベルが上がらなくなり、強くなっていく実感も無くなってしまった。
ゲームの数値に置き換えるならレベル九十九。
「思ったより早かったなぁ。」
残念に思う部分はあるけど、そこは別に良い。
ハイサモナーになるための条件は、最初の成長限界への到達。
つまりレベル九十九になることだから。
ハイサモナーに転職すれば、またレベルを上げられるようになる。
私については、それまで我慢すればいい。
だけど問題はシルフだった。
私がハイサモナーになってしまうと、契約しているシルフは強制的に成体へと成長する。
そしてゲームでは、この時の精霊のレベルが低いと転職時のボーナスが減ってしまうのだ。
一度成長してしまえば後から取り返すこともできない。
現実でも同じことが起こるかは分からない。
ゲームとは違って、今のシルフはちゃんと意思を持って生きている精霊だ。だけど、
「これまでもゲームシステム通りな部分も多かったもんね。」
確認するためだけに転職してみるなんて絶対にできない。
もし本当に同じ仕組みだったら、私の軽率な判断でシルフの成長を邪魔することになる。
私自身だけの問題なら多少の無茶はできるけど、今回は違う。
「せっかくできた新しいお友達だもんね。」
ちゃんと成長してから、一緒に次へ進みたい。
だから現在は私のレベル上げを中断して、シルフの育成期間というわけだ。
「お友達と言えば、セリーちゃんも元気かなぁ。」
あの後も二回会ったけど、ここのところ会えていない。
シルフのレベル上げが一段落したら、久しぶりに遊びに行くのも良いだろう。
「というか、ハイサモナーになる前に会いに行かないと怒りそうだし。」
サモナーになった時は、『どうして先に教えてくれなかったの?』って怒られたもん。
私としては後からちゃんと報告したつもりだったんだけど、セリーちゃんとしては先に聞きたかったらしい。
同じ失敗をするわけにはいかない。今度はちゃんと事前に話しておこう。
「アイラ~、十匹倒してきたわよ……。」
声のした方を見る。ふらふらになったシルフが海岸から戻ってきた。
いつもの元気はどこへやら。虹色の羽も少し垂れていて、かなり疲れているのが分かる。
「お疲れ様。ちゃんと十匹倒せたんだね。」
「当ったり前でしょ……。」
「偉い偉い。」
「子供扱いしないで!」
そう言いながらも、もう反論する元気もあまり残っていないみたい。
シルフってこう見えて、四精霊の中では戦闘が一番苦手なんだよね。
火力だけなら二位。だけど攻撃特化のサラマンダーと比べれば大きく劣る。
耐久も低く、回復能力も持っていないため長時間の戦闘には向いていない。
その代わり戦闘用のバフは強力で、便利なものが多い。
本来なら仲間を強化してこそ力を発揮する精霊なのだ。
問題は、その強化対象が私って部分。
「サモナー本人の火力が低いんだよねぇ。」
サモナーは全職業でも最低ランクの火力。
そんな相手を強化したところで、どうしても限界がある。
しかもゲームでは精霊が完全なオート戦闘だったため、他人との連携も難しかった。
当然、サモナー実装当初の『サモンシルフ』は不遇スキル扱いされていた。
今のシルフは自分で考えて動けるから、ゲームと全く同じ評価になるとは思わないけどね。
「約束通り、魔力を寄越しなさいよ。」
シルフが私の目の前まで飛んでくる。
「はいはい。」
そんなシルフが頑張って十匹も倒してきたんだから、ご褒美くらいはあげないとね。
私はグローブを外して、人差し指を差し出した。
シルフは待ってましたと言わんばかりに、その指を両手で鷲掴みにする。
「いただきまーす。」
ちゅううううっ。
「んっ……。」
そのまま魔力ごと私の指を吸われた。
指を吸われるくすぐったさ。
それと同時に、指先から魔力だけを吸い取られていく独特の違和感が全身へ広がる。
毎日二回もあげてるのに、全く慣れない。
一方のシルフはご機嫌だ。
「ん~~♪」
美味しそうに魔力を吸っている。
そもそも、最初はこんな渡し方じゃなかったんだけどね。
以前、もう一度アールヴヘイムへドライアドに会いに行った時のこと。
小さいドライアドに人差し指から魔力をあげていたら、シルフが『ずるいずるい!』と騒いだ。
自分も同じやり方が良いと駄々をこねた結果――。
それ以降、ずっとこの方法を強要されている。
それまでは普通に両手から魔力を渡してたのに。
「どうしてこうなったんだろう。」
「ん~~?」
「何でもないよ。」
指を咥えたまま返事されても困る。
しばらくして、ようやくシルフが口を離した。
「ぷぁ。ごちそうさま。」
「はい、お粗末様。」
さっきまで疲れ切っていたのが嘘みたいに、虹色の羽が元気よく動いている。
魔力をあげると本当に元気になるんだよね。
「美味しそうに食べてくれて何よりだよ。」
「当然でしょ。アイラの魔力は美味しいんだから。」
「そうですか。」
未だに魔力の味なんて私には分からない。
ドライアドにも言われたから、本当に何か違うんだろうけど。
シルフが嬉しそうなら今のところはそれでいいかな。




