GM権限、使えちゃいました④
人をすり抜ける。
木もすり抜ける。
飛んできた石さえ当たらない。
「これって……無敵じゃない?」
もし本当にゲームと同じ性能なら――。
「安全に冒険することも、世界の危機から逃れることもできるかも。」
私の力では、大好きなこの世界を見ることも、大切な人を守ることもできない。
そう思っていた。
だけど、この力が本物なら。
誰にも姿を見られず、魔物から傷つけられることもなく冒険できる。
それは、私が探し続けていた答えそのものだった。
「でも、なんで?」
浮かびかけた喜びは、すぐに冷静さへ塗り替えられる。
どうして私だけが、こんな力を使えるのだろう。
私はただ、この世界へ転生しただけの普通の人間なはずだ。
神様から特別な加護を授かった覚えもなければ、何か儀式を受けた記憶もない。
それなのに、前世でしか存在しなかったGMコマンドが使える。
理由がまったく分からない。
「それに……。」
この世界には、私と同じような力を持つ人がいる可能性だってある。
私と同じ転生者。
あるいは、それとはまったく別の何か。
考え始めれば、可能性はいくらでも可能性は浮かんでくる。
「……このことは、誰にも話さない方がよさそう。」
友達にも、家族にも。
どれだけ信頼できる相手だったとしても、この力だけは秘密にしておくべきだ。
まだ分からないことが多すぎる。
そもそも、《HidePC》がゲーム時代とまったく同じ性能だという保証もない。
今はたまたま上手くいっているだけかもしれないし、致命的な欠点が隠れている可能性だって十分にある。
「安全が確認できるまでは、危険な行動は控える。」
そう結論づけると、私は小さく息を吐いた。
焦る必要はない。
まずは、一つずつ仕様を確認していけばいい。
気がつけば、町は夕焼けに染まっていた。
西へ傾いた太陽が建物をオレンジ色に照らし、長く伸びた影が石畳を覆っている。
「え、もうこんな時間?」
思っていた以上に夢中で検証を続けていたらしい。
そろそろパパも仕事を終えて帰ってくる頃だ。
きっとママも夕飯の支度を始めている。
「そろそろ帰らなきゃ。」
まだ試したいことはいくらでもある。
だけど、焦る必要はない。
私はまだ五歳。
時間は十分にあるのだから。
私は人気のない路地裏まで移動すると、周囲をぐるりと見回した。
誰もいない。
窓からこちらを見ている人影もない。
「……よし。」
小さく頷き、頭の中で静かに念じる。
《HidePC》
恐る恐る自分の手を見る。
うん、ちゃんと見えている。
念のため周囲を見回してみるが、誰かが驚いた様子もない。
どうやら誰にも見られず解除できたようだ。
「よかったぁ……。」
胸を撫で下ろし、私は足早に家へ向かった。
「ただいま!」
「おかえりなさい。」
台所にいたママが微笑む。
「今日はずいぶんご機嫌ね。何かいいことでもあったの?」
「んー……。」
思わず笑みがこぼれる。
「内緒!」
「あらあら。アイラもママに秘密ができちゃったのね。ふふっ。」
ママは口元に手を添えて楽しそうに笑った。
その言葉に、胸が少しだけちくりと痛んだ。
本当は話したい。
今日起きた信じられない出来事を、一番大好きな二人に聞いてほしい。
でも――これは話せない。
絶対に。
「えへへ。うん、内緒。」
だから私は笑ってごまかした。
ちょうどその時、玄関の扉が開く音が聞こえた。
「ただいまー。」
「パパ!」
私は勢いよく玄関へ駆け出し、そのままパパへ飛びつく。
「おっと!」
パパは慣れた様子で私を抱き上げると、優しく頭を撫でた。
「今日の天使様は、ずいぶんご機嫌だな?」
「そうなのよ。」
サラがくすくす笑いながら口を挟む。
「アイラったら、ママにも理由を教えてくれないの。」
「ほう?」
パパは面白そうに目を細めた。
「じゃあ、パパには教えてくれるか?」
私は首を左右にぶんぶん振る。
「んーん! 教えない!」
「ははは!」
「ふふふ。」
家の中へ明るい笑い声が響く。
その笑い声は、夕暮れの小さな家を優しく包み込んでいた。




