精霊契約⑪
「どうしても何も、アイラの魔力が甘くて美味しかったのよ。」
「……甘い?」
魔力に甘いとか美味しいとか、そんな概念があるのかは甚だ疑問なんだけど。
シルフが言うには、そういうものらしい。
私には自分の魔力を味わうなんて芸当はできないので、確かめようもない。
「この魔力の持ち主なら、このアタシが契約してやっても良いかなって思ったってワケ。感謝しなさいよね~!」
「は、はぁ……。」
シルフは腕を組んで、これでもかというほど胸を張っている。
風の精霊王候補様に認めてもらえた。
普通なら大喜びするところなのかもしれない。
嬉しいんだけど既に次代の土の精霊王であるドライアドとも契約済みの私としては、かなり複雑だ。
一人ならまだ偶然で済ませられるかもしれない。
でも二人目となると話が変わってくる。
もしこの事実を誰かに知られたら、平穏な日々の終わりを迎えるだろう。
さっきも勇者かもしれないなんて言われたばかりなんだけど。
お願いだから、これ以上話を大きくしないでほしい。
「ふむ。」
「え?」
何だろう。ドライアドが私をじっと見ている。
「シルフがそこまで言うのであれば、少し興味がありますね。」
突然、右手を取られた。そして、そのまま人差し指をドライアドの口元へ運ばれる。
ぱくっ。
「!?」
指先を咥えられた。そのままちゅうっと吸われる。
「ひゃぁ!?」
今度こそ悲鳴を上げた。
何してるの、この人!?
指を吸われている感触もそうなんだけど、それ以上におかしい。
ほんの少しだけ、私の中にある魔力へ何かが触れてくる。
そのまま僅かな魔力を吸い取られているような――。
何とも言えない違和感が全身を駆け抜けた。
「確かに甘いですね。」
「と、突然何をするんですか!」
大慌てで手を引っ込める。
ドライアドは抵抗することなく離してくれたけど、何故か少し残念そうな顔をしていた。
「味を確かめただけですが?」
「せめて先に言ってください!」
精霊の距離感ってどうなってるの!?
私は吸われた指を反対の手で握りながら、少し距離を取る。
え。私の魔力って、本当に甘いの?
シルフだけじゃなく、ドライアドまで同じ感想なら本当らしい。
魔力の味なんてゲームには無かった設定だ。
また知らないことが増えてしまった。
「こらー!」
今度はシルフの怒鳴り声が響いた。
「私のアイラに何してんのよ!」
まだ契約すらしてないよね?
いや、契約したとしてもシルフの所有物になるつもりはないけど。
「少しくらい良いでしょう。減るものでもありませんし。」
「減ってるでしょ! 魔力吸ってたじゃない!」
「微量です。」
「量の問題じゃないわよ!」
シルフは顔を真っ赤にしてドライアドへ詰め寄る。
でも、ドライアドはどこ吹く風。
シルフの抗議をさらりさらりと受け流している。
「……。」
私、昨日から精霊に振り回されすぎじゃない?
サモナーって、もっとこう。
精霊と心を通わせて、一緒に冒険して。
幻想的で素敵な職業だと思ってたんだけど。
それから数分後。ようやく騒ぎは収まった。
今、この部屋には三人いる。
ドライアドとの格闘で疲れたのか、机の上に座って腕を組んでいるシルフ。
争っている最中に何度か私から魔力を奪うことに成功し、何故か満足げなドライアド。
そして椅子に座ったまま項垂れている私。
精霊が二人揃うだけで、想像以上に騒がしい。
これが将来四属性揃ったりしたらどうなるんだろう。
……考えるのはやめよう。
ともかく、この調子で人間の街に行って、好き勝手に暴れられては堪らない。
特にシルフ。この子には今のうちに、ちゃんとお願いしておいた方が良さそうだ。
「シルフ。」
「何よ?」
「一つお願いがあるんだけど。」
「聞くだけ聞いてあげるわ。」
早くも一筋縄では行かない未来を予感させるセリフ。
でも、この性格なら正面から『言うことを聞いて』とお願いしても反発されそう。
上手く誘導しないと。
「人間の街や、人が多いところでは暴れないこと。」
「あら。」
シルフが鼻で笑った。
「アタシがそんなことすると思ってんの? やーね。」
そして自分の胸に手を当てる。
「未来の精霊王様よ、アタシ。」
「……。」
この数分でシルフの性格は大体掴めた。
この子。普通に言って聞くような性格じゃないね。
それなら、こっちにも手があるよ。
「そうだよね~。」
「何よ?」
私はわざとらしく感心したような声を出す。
「高貴な精霊王様は人間なんかよりずっと凄いから、街中で暴れたり大声を出したりなんてしないんだろうな~。」
「と、当然よ!」
耳がピクピクッと動いた。
分かりやすい。
「どんな時でも優雅で、落ち着いてて。」
「え、ええ。」
「周りに迷惑なんて絶対にかけないんだろうなぁ。」
「も、もちろんよ!」
よし。効いてる。
「それに、とっても可愛くて綺麗で。」
羽がソワソワと動き始めた。
「人間のお願いもちゃんと聞いてくれる、慈悲深い精霊王様なんだろうな~。」
「ふふん! アイラ、分かってるじゃない!」
シルフの胸がどんどん反っていく。
このままいったら後ろに倒れそう。
ここまで来たら、最後の一押し。
「きっと私とも友達になってくれて。」
「ええ!」
「主従関係なんかじゃなくて、お互いに助け合える対等な関係を築いてくれるんだろうな~。」
「当ったり前じゃない!」
シルフは胸に手を当て、自信満々のどや顔で言い切った。
その姿がすっごく可愛い。
純粋というか。ちょろいというか。
ちょっと罪悪感が湧いてきた。
でも、これから一緒に行動するなら、ここは大事なところだ。
手段は選んでられない。
「じゃあ、約束ね。」
「ええ! アタシに任せなさい!」
その瞬間。
私とシルフの体がパァッと光った。
「え?」
シルフが目を丸くする。
私の中から細い魔力の糸が伸びていき、シルフへと繋がった。
向こうからも魔力が流れ込んでくる。
二つの魔力が絡み合い、やがて一本の強固な繋がりへと変わっていく。
さっき召喚した時とは違う。
これが契約の感覚かぁ。
「はい、契約完了~。」
「って、ああ!?」
ようやく自分が何を了承したのか気付いたらしい。
シルフが両手を前へ突き出し、慌てて何かを止めようとする。
でも、時既に遅し。
光は完全に私たちを繋ぎ終えていた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
はい、残念。契約は結ばれました。
「これからよろしくね、シルフ。」
「~~~~っ!」
顔を真っ赤にして私を睨むシルフ。
だけど、契約を嫌がっているようには見えない。
むしろ羽が嬉しそうにパタパタ動いている。
……うん。多分、大丈夫。
こうして私は生まれたばかりの次代の土の精霊王に続いて。
次代の風の精霊王とも契約することになってしまった。
「……。」
本当に、誰にも知られないようにしよう。




