精霊契約⑩
「長々と話しましたが、最後に一つ。」
ドライアドが少しだけ表情を改めた。
「まだ、あのドライアドを連れていくことはできません。あの子は幼すぎますから。」
「そうですよね。」
それは予想していた。
あんな小さいドライアドが戦っているところなんて見たことがない。
そもそも、まだ生まれたばかりだ。
あんな小さな子をモンスターと戦わせて怪我でもさせたら、罪悪感で押し潰されそう。
可愛いから一緒に連れていきたい気持ちはあるけど、さすがに今すぐというわけにはいかないよね。
「ですが、貴女との契約は既に完了しています。これからは貴女の魔力を受けて、すくすくと成長するでしょう。」
「私の魔力で?」
「ええ。契約によって貴女とあの子の間には繋がりができていますから。」
なるほど。私の魔力に呼応して大きくなっていくってことなんだ。
それってなんだか、ドライアドが私の子供になったみたいでちょっと嬉しい。
「長くても一年ほどもあれば、通常の精霊と同じくらいまで育つと思いますよ。その時は一緒に連れて行ってあげてください。」
「はい!」
一年かぁ。ちょっと長いけど、楽しみだな。
早く一緒にいろんなところに行きたい。
ドライアドはまだ生まれたばかりだし、何を見せても楽しんでくれそう。
綺麗な湖とか。大きな街とか。見たことのない花畑なんかに連れていっても喜んでくれるかもしれない。
そう思ったら楽しく――。
「なので、今回はドライアドとは別の精霊とも契約した方が良いでしょうね。」
「へ?」
思考が止まった。
「……それ、やっても良いんですか?」
確かにゲームでも別の精霊を同時に呼び出すことはできるけど。
この世界では本当に精霊と契約するわけだし、ドライアドに怒られたりしない?
「精霊は怒らないんですか?」
「嫉妬深い子なら怒るでしょうけど、あの幼いドライアドなら気にしないと思いますよ。」
「そういうものなんですね……。」
精霊にも性格がある以上、その辺りは相手次第ということらしい。
最終的には四属性全てと契約したかったから助かるけれど、これから契約する時は相手の性格も考えた方が良さそうだね。
「もし召喚系のスキルが使えそうであれば、試してみると良いでしょう。貴女の呼びかけに応えてくれる精霊がいるかもしれません。」
「分かりました。」
召喚系のスキル。そう言われて、頭の中でサモナーのスキルを思い浮かべる。
昨日ティターニアから流し込まれた知識のおかげか、何をすればいいか分かる。
そして、一つの言葉が自然と浮かんできた。
――『サモンエレメンタルマスタリー』。
そう念じた瞬間、頭の中に新しい知識が溢れ出した。
「わっ……。」
どうすれば精霊と契約できるのか。
どうやって呼びかければいいのか。
今まで知識として曖昧だったものが、まるで昔から知っていたことのように理解できる。
これがサモナーの力なんだ。
次は属性の選択。どの精霊を呼ぶのか。
それについては迷う必要なんてない。
ドライアドと契約する前から、最初に契約するならこれと決めていた精霊がいる。
だから、私はその名前を念じた。
『サモンシルフ』
直後、私の魔力が体の外へと伸びていく。
「……!」
魔力が世界の真理へと繋がっていくのが分かる。
細い糸を辿るようにどこまでも、細く、長く。
目には見えない何かを探しながら、私の魔力が遠くへ伸びていく。
そして――。
「きた!」
誰かが私の魔力をパシッと掴んだ。
本当に手で掴まれたわけじゃない。
だけど、確かに誰かと繋がった感覚があった。
その何かが魔力の糸を手繰り寄せるように、こちらへ近づいてくる。
召喚されている。
そうそう。ゲームでもこんな感じで光が集まって、虹色に輝いて――。
――え、虹色?
「……あれ?」
ゲームで『シルフ』を喚び出す時は、紫色に光ったはず。
こんな虹色のエフェクトじゃなかった。
「これは……?」
ドライアドも何か驚いてない?
さっきまで落ち着いていた顔が、明らかに強張っている。
ちょっと待って。何かおかしいの?
しかし、もう『サモンシルフ』は止まらない。
虹色の光が目の前に収束していく。
小さな頭。腕。足。背中から伸びる羽。
光が徐々にシルフの姿を形作っていく。
そして――。
「ぷはぁ!」
弾けるように光が消え、そこから一人のシルフが姿を現した。
大きさは私の顔くらい。ゲームでも見たことがある体型だ。
そこだけ見れば、召喚は上手くいったように思える。
「初めまして、私はシルフよ!」
紫色の長い髪と瞳。長い耳。私が着ているものとよく似た素材の白いドレス。
そこまではいい。問題は、その背中。
虹色に輝く蝶のような羽が生えていた。
「……虹色の、羽?」
思わず呟く。
ドライアドも困惑している。
少なくとも、私はゲームでこんな羽のシルフを見たことがない。
普通のシルフとは明らかに違う。
それとも、この世界ではこれが普通なのだろうか。
ゲームと現実で姿が違うことくらいはあり得る。
でも、それにしては、ドライアドの反応がおかしくない?
「何よあんた、挨拶もできないの!?」
「えっ?」
シルフが腰に手を当てて私を睨んでいた。
「あ、ごめんなさいシルフ。私はアイラ。」
しまった。驚きすぎて、つい挨拶を忘れてしまった。
こういうのは最初が肝心。
これから一緒に冒険するかもしれない相手なんだから、お互いにちゃんと信頼関係を築いていかないとね。
「ええ、よろしくね。アイラ!」
「よろしく、シルフ。」
シルフが満足そうに笑った。
うん。このシルフ、結構気が強そう。
少し棘があって、言いたいことははっきり言うタイプなのかもしれない。
ドライアドとは全然違う感じだ。
まあ、精霊にもいろんな性格があるって言ってたしね。
「……ちょっと、待ってください。」
「ん?」
ドライアドが左手で顔を押さえながら、右手をこちらへ向けて制止を促していた。
どうしたというのだろうか。さっきから様子がおかしい。
「何よ、土の精霊王。何か用?」
「……。」
わ。種族が違うとはいえ、精霊王にため口とか大丈夫?
精霊って、この辺の階級みたいなのを気にしないのかな。
それともシルフが特別に気が強いだけ?
そんなことを考えていると、ドライアドが大きなため息を吐いた。
そして、頭が痛そうにシルフを見る。
「……どうして。」
「?」
「どうして、次代の風の精霊王が召喚されてるんですか?」
「……は?」
私は絶句した。
――また精霊王?




