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精霊契約⑨

だけど、もしあり得るとしたら、一番疑わしいものがある。

――ひょっとして、レーヴァテイン?


あらゆるアクティブスキルを使用可能にするレーヴァテイン。

これを装備すると、条件さえ満たしていればサモナーのスキルだって使用可能になる。

実際、私はサモナーになる前からレーヴァテインを使えばサモナーのスキルを発動できた。


それはつまり、サモナーになる前から、サモナーの魔法についての知識が私の中に存在していたということになるのかも。

レーヴァテインを装備して、サモナーのスキルが使えるようになった。

サモナーのスキルを使えるから、精霊についての知識も体に宿っていた。

その影響がレーヴァテインを外した後も残っていて、だから生まれたばかりのドライアドの言葉を理解できた。


うん。理由としてはギリギリ納得できる。

少なくとも、突然私に謎の才能が生えてきたと考えるよりは説得力がある気がする。


だけど、これはまだ疑いの段階だ。

本当にレーヴァテインが原因なのか確かめる方法もないし、断定することはできない。

それに、下手に検証しようとして何か取り返しのつかないことが起きても困る。

このことは可能性の一つとして考慮するに留めておこう。


「分からないことを考えても仕方ありませんから、この話はやめましょうか。」

「はい。」

ドライアド側から提案してくれて助かった。

これ以上追及されてレーヴァテインのことまで勘繰られたら、どうにか誤魔化すか、最悪の場合は逃げるしかなくなるもん。

できれば精霊たちとそんな関係にはなりたくない。


「我々にとって大事なことは、次代の土の精霊王が貴女と契約してしまったという部分なんですよ。」

「……やっぱり、そんなに凄いことなんですか?」

ゲームでも精霊王と契約するなんて話は聞いたことがない。

プレイヤーは全員一律の強さの精霊と契約するから、当然と言えば当然なんだけど。

そもそも精霊王は契約する対象ではなく、NPCとして登場する存在だった。


「精霊王が人間と契約したなんて前代未聞です。それこそ何代か前の勇者くらいなものでしょうか。」

「勇者!?」

思わず大きな声が出た。よりにもよって勇者!?


ゲームでもプレイヤーが英雄と呼ばれることはあっても、勇者になることはなかった。

前にも説明した通り、この世界における勇者とは単純な英雄の呼び名じゃない。

世界に何か大きな危機が訪れた時、その危機へ対抗するために女神ガイアが生み出す存在。

言ってしまえば、世界の防衛機構みたいなものだ。

女神ガイアが世界を守るために生み出した、理不尽の塊。

そんなものと同じになるつもりは全くない。


「どうして、そんな……。」

思わず声に出てしまった。

そんな私の様子を、ドライアドが怪訝そうな表情で見つめている。


「人間なら喜びそうなものですが。嬉しくないのですか?」

「い、いえ! 私なんかには身に余るというか、その……。」

両手をぶんぶん振りながら、なんとか誤魔化そうとする。


確かに普通の冒険者なら、勇者なんて言われたら大喜びするのかもしれない。

名誉もある。力もある。歴史に名前だって残るだろう。

だけど、それは私の目標とはあまりにも違いすぎる。


私は英雄になりたいわけでも、勇者になりたいわけでもない。

冒険者として世界を旅して、いろんなものを見て。

いつか好きな人と結婚して、家族を作って。

ただ、この世界で幸せに暮らしたいだけなのだ。

そんな私にとって『勇者かもしれない』なんて言葉は、むしろ不吉な宣告に近い。


あたふたする私を見て、ドライアドはふっと笑った。

「貴女は、それだけ強大な力を手に入れてしまったということです。」

「……。」

「私としては、勇者が生まれるような事態が発生していないのであれば目くじらを立てるつもりはありませんよ。もちろん、悪用は許しませんが。」


なるほど、つまりドライアドが気にしていたのは、私が勇者なのかどうかということだけじゃない。

精霊王と人間が契約するなんて異常な出来事が起こった。

それが、世界に何か大きな異変が起こっている前触れなのではないか。

だから警戒していた。

そして、たとえ勇者とは関係なかったとしても、私が手に入れた力を悪用しないか心配していたというところかな?それなら納得できる。


「しません、しません! 私の願いは精霊女王にもお伝えした通りですから!」

私は全力で否定した。

そう。私の願いは昨日、精霊女王ティターニアにも伝えてある。

精霊と仲良くなりたい。そして、少しだけ力を貸してほしい。それだけだ。

世界を救いたいなんて一言も言っていない。


「そうですか。」

ドライアドはしばらく私を見つめてから、小さく頷いた。

「もし何か気になることがあったら、すぐに報告しに来てください。私は貴女が勇者である可能性を、まだ捨てていませんから。」

「はい、そうします!」


勇者なんて願い下げだけど、もし本当に何かおかしなことが起きたらすぐに報告しに来よう。

精霊王との契約が世界の異変に関係している可能性が少しでもあるなら、放っておくわけにもいかない。

私は勇者なんて願い下げだけど何かあったらすぐに報告しに来ようと世界樹に誓った。

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