精霊契約⑦
目を覚ますと、部屋の隙間から見事な朝焼けが飛び込んできた。
昨日は長く眠っていたおかげか、いつもより早く起きられたみたい。
「んん……。」
本当はもう起きられたんだけど、私は布団から出ずに、しばらく柔らかいシルクの感触を楽しむことにした。
「こんなに気持ちいいお布団で寝られるの、次はいつになるか分からないもんね。」
ごろごろと寝返りを打ってみたり、手でシルクの表面を撫でてみたり。
最後には顔まで埋めてみる。
「気持ちいい……。」
こんなお布団で毎日寝たら、さぞ幸せだろうなぁ。
それとも柔らかすぎて腰痛になったりするのかな。
前世では座り仕事のせいで首から腰まで痛めていたから、あの頃の辛さを思い出すと柔らかい布団には抵抗が残る。
そんなどうでもいいことを、寝起きの頭でぼーっと考えていた。
――って、今日はお話があるって言われたよね。
昨日、ドライアドから朝になったら呼ぶように言われていた。
「起きなきゃ。」
名残惜しいけど、いつまでも布団の誘惑に負けているわけにはいかない。
頑張って上半身を起こして、そのまま両腕を上へ。
「う~~~ん!」
ぐーっと背筋を伸ばす。
そのまま首や肩を回して、全身を軽くストレッチ。
ようやく眠気も抜けてきた。
ベッドの上から何気なく床を覗き込むと、昨日はなかった物が置かれていることに気が付いた。
「ん?」
綺麗に畳まれた服が籠に入れられ、その横には靴まで用意されている。
誰が置いてくれたんだろう。
少なくとも寝る前にはなかったはずなので、私が寝ている間に誰かが持ってきてくれたらしい。
籠から服を手に取ってみる。
白を基調とした服とショートパンツ。それから、手足に当たる部分が透けたローブ。
見覚えがある。というより、忘れるはずがない。
「これ、サモナーの服だ。」
ゲームで何度も見たものと全く同じ。
「用意してくれたのかな。」
せっかく袖を通してみることにする。
私は今まで着ていたウィザードの服を脱いで、まずオフショルダーの上着に袖を通した。
首元から鎖骨、胸元まではしっかり隠れていて、肩だけが出るような形になっている。
続いて、股下が短めのぴっちりしたショートパンツを履く。
その上から透けたローブを纏って、二の腕にリングを巻いてしっかり固定。
腰にはベルトを巻き、その上からウェストポーチを取り付ける。
最後に忘れちゃいけないもの。
「これはこっち。」
ママから貰った、青い宝石の付いたペンダント。
服に合わせて用意されたものではないけど、これは絶対に外したくない。
首に掛けて胸元へ収める。
「わぁ……。綺麗。」
改めて自分の格好を見下ろしてみる。
服はとても肌触りの良い素材で作られていて、昨日の布団と同じくシルクを思わせる柔らかさがある。
全体には細かな金の刺繍が施されていて、豪華なんだけど派手すぎない。
ローブやベルトに付いた装飾には青い石が散りばめられていて、白と金を基調とした服のいいアクセントになっている。
そして一番特徴的なのが、このローブ。
「やっぱり透け透けだ。」
ローブは完全に透けていて、その下の手足がはっきり見えてしまっている。
前世の感覚で例えるなら、夏の暑い時期に都会の女性が着ているようなポロシャツとショートパンツ。
その上から、透けている綺麗なローブを纏っていると思ってもらえれば近いかな。
そこに靴下を履いて、服やローブとお揃いのブーツに足を通す。
「完成!」
鏡があったら今すぐ見たい。絶対すっごく綺麗な服だ。
パパとママにも早く見せたいな。きっと似合ってるって褒めてくれるはず。
「えへへ。」
嬉しくなって、その場で両腕を広げてくるりと回ってみる。
ローブが少し遅れてふわりと広がった。今度は片足を少し前に出してポーズ。
……何をやってるんだろう、私。
誰も見てないからいいよね。ひとしきり新しい服を堪能してから、改めてローブを摘まんで眺める。
「それにしても、嘘じゃなかったんだ。」
ゲームでこの透け透けデザインの設定について開発に問い合わせたことがある。
その時に返ってきた回答は、『魔力伝達率を高め、自然との親和性を向上させるため』だった。
当時は、『デザイナーの趣味を上手く設定に落とし込んだなぁ。』なんて思っていたけど、どうやらこの世界では、本当に意味があるらしい。
「確かに、魔力の流れをこれまでより肌で感じやすいかもしれない。」
試しに自分の魔力を少しだけ流してみる。
すると、ローブに施された金の刺繍や装飾が仄かな光を帯びた。
「おお……。」
幻想的で綺麗だ。
それだけじゃなく、自分の周囲にある魔力まで少し近く感じる。
昨日までとは明らかに感覚が違う。
サモナーになった影響なのか、この服のおかげなのか。
もしかしたら両方なのかもしれない。何にせよ、
「私、この服すっごく好きかも。」
見た目も綺麗だし、着心地もいい。機能までちゃんとあるなら文句なしだ。
「どうやらお気に召したようですね。」
「ひゃあ!?」
突然、誰もいなかったはずの後ろから声が聞こえて、思わず飛び上がった。
慌てて振り返る。やっぱり声の主はドライアドだった。
木の壁から、昨日と同じように何の前触れもなく姿を現している。
「び、びっくりしたぁ……。」
本当に心臓に悪い。
せめて正面から声をかけてくれないかな?
「驚かせてしまいましたか。」
「突然、誰もいないところから声がしたので驚いてしまいました。」
「驚かせてしまいましたね。すみません。」
昨日も全く同じようなやり取りをした気がする。
この流れ、昨日の焼き直しか何かかな?
私は小さくため息を吐きながら、それでもドライアドをまっすぐ見る。
昨日言っていた『話したいこと』について尋ねないといけない。




