精霊契約④
どうやったら契約できるのかな。
ゲームではスキルを使えば自分の精霊を喚び出せたけど、現実ではどうやって契約すれば良いのか分からない。
契約に関する技術はパッシブスキルに該当するので、レーヴァテインでも再現できない。
「私、ドライアドと一緒に冒険したいな。」
「わたし?」
「うん、私。」
「うん、わたしもにんげんといっしょがいい。」
その瞬間、ドライアドの頭にパァッと花が咲いた。
比喩表現ではなく、本当に双葉の間から小さな花が咲いたのだ。
何これ、知らない。
ドライアドがアルラウネみたいになってるけど。
でも、すっごく可愛い。
「にんげん、おなまえ。」
「私の名前はアイラだよ。」
「あいら。ちゅっ。」
ドライアドはするすると小枝から伸びてきて、私の顔の横まで来ると右頬にキスをした。
可愛さにキュンとしたのも束の間、すぐに頬が熱を持ち始めて狼狽える。
「え、何これ!?」
その熱はやがて頬から全身へと広がり、そのまま体の中に溶け込むように消えていった。
「今のは何?」
体に違和感はない。
試しに右頬に触れてみても、先ほど感じた熱はもう無かった。
ドライアドに何をしたのか聞いてみても、いまいち要領を得ない。
でも、悪いことをされたわけじゃなさそうなので、一旦考えるのをやめた。
それから間もなく、エルフが嬉しい報せを持って戻ってきた。
「待たせたな。精霊女王がお会いになってくださるそうだ。ついて来い。」
そう言うと、こちらの意向も確認しないまま世界樹を登り始めてしまった。
すぐに追いかけないと置いていかれそう。
「ドライアド、またね。」
名残惜しいけど、私はドライアドに別れを告げた。
「アイラ、またあえる?」
「うん、また会えるよ。」
人差し指でドライアドの頬を撫でる。
「きゃー!」
それがくすぐったかったのか、ドライアドは目を細めて喜んだ。
本当に誘拐したいくらいに可愛い。
やっぱ植物系しか勝たん。
「はっ、いけない。前世のオタクな部分が出てる。」
私は思考を切り替えて、エルフの後を追った。
エルフは先ほどの場所から五分ほど登ったところで立ち止まった。
草や蔦が生い茂った場所にそっと手を差し込むと、それらを払うように手を動かす。
すると、その奥から人が数人入れそうな樹洞が現れた。
「ここに入れ。」
「へ~、お邪魔します。」
確かに、知らなかったら絶対にたどり着けない場所だ。
樹洞の中央には水晶鏡があり、その表面では空間が歪んでいるのが分かる。
どうやら、あそこからどこかへ繋がっているようだ。
十中八九、あの先が精霊女王の玉座だろう。
ついにここまで来た……。
もうすぐ目的が果たせる。
そう思うと、自然と気持ちが高揚した。
「先ほどお話しした異邦人を連れて参りました!」
エルフが水晶鏡に向かって大声で叫ぶと、その中から一体の炎の精霊が姿を現した。
燃えるような髪と金色の瞳。
その姿は『サラマンダー』の成体に違いなかった。
「そいつか……。中に入れ。」
「失礼します。」
指示されるまま、水晶鏡の中へ足を踏み入れる。
触れたところから水面のように空間が歪み、波紋が広がった。
そのまま全身がすっぽりと覆われ――。
次の瞬間、私は世界樹の中に造られた宮殿に立っていた。
宮殿は木の壁と石の床を使った造りになっている。
全体的には質素なんだけど、美しい模様の絨毯や壁掛け、精巧な彫刻が飾られていて、荘厳な雰囲気が漂っていた。
部屋の奥には巨大なオーブ。
そして、その前に置かれた玉座には精霊女王『ティターニア』が鎮座していた。
私が入ってきた瞬間、ティターニアを守護するように立っていた四大精霊が、ギロリと強い視線を向けてきた。
「よく来たな、異邦人よ。我こそはアールヴヘイムの女王、ティターニアである。」
透き通るような声が宮殿に響く。
大声を出したわけでもない。
それなのに、不思議なくらいはっきりと耳に届いた。
さて、どうしよう。
王族への作法なんてよく分からない。
前世でも王族に謁見する機会なんて当然なかったし、この世界でも貴族相手の礼儀作法なんて習っていない。
さすがに立ったままでは失礼だよね。
そう考えて床に膝を着こうとした。
「よい。立ったまま質問に答えるがよい。」
「……はい。」
中途半端に腰を落としたところで止められた。
慌てて姿勢を戻す。
すると周りにいた精霊たちが、信じられないものでも見るような顔をして私を睨んできた。
え、私が悪いの?
でも女王様本人に立っていろって言われたんだけど。
どうすればいいのか分からず固まっていると、ティターニアが静かに精霊たちへ視線を流した。
それだけだった。
「……っ。」
さっきまで私を睨んでいた精霊たちが、一斉に口を閉ざす。
蛇に睨まれた蛙のように縮こまり、誰一人としてティターニアと目を合わせようとしない。
こ、怖い。怒鳴ってもいないのに一瞬で全員を黙らせた。
「未熟な臣下どもが無礼を働いたな。許せ。」
声を出して良いのか分からなかったため、こくりと首を縦に振る。
こういう時は質問されたり、発言を許された時以外は話さない方がいいよね。
漫画の知識だけど、合っていることを願いたい。
それにしても他人の強さを感じ取る能力なんて、私には無いはずなのに。
ティターニアから感じる圧が凄すぎる。
ただ玉座に座っているだけ。
魔法を使っているわけでもなければ、こちらを威嚇しているようにも見えない。
それなのに、本能が勝手に理解してしまう。
この人には絶対に敵わない、と。
こんな感覚を覚えたことはない。
単純なステータスとか、レベルとか、そういう話じゃない気がする。
生物としての格そのものが違う。
さすが女神ガイアが直々に生み出した、世界最古の勇者だ。
ゲームでは設定資料の文章でしか分からなかった存在感を、今は全身で感じている。
「それで、異邦人よ。」
ティターニアの緑色の瞳が、真っ直ぐに私を捉える。
「何用でこの国に来た?」
来た。ここで誤魔化す意味はない。
「サモナーになるためです。」
私ははっきりと答えた。
その瞬間。周囲の空気が変わった。
「何だと?」
「人間が……?」
「サモナーに……。」
周りの精霊たちがざわつき始める。
予想はしていた。
精霊と契約して、その力を借りる。
人間からすればそういう職業でも、精霊側から見れば感じ方が違ってもおかしくない。
「我らの同胞を奴隷のように扱うつもりか!?」
「っ!」
先ほど私をここまで通したサラマンダーが、大声で怒鳴った。
炎のような髪が激しく揺らめく。
怒りからか眉間には血管が浮かび、握り締めた拳が僅かに震えていた。
金色の瞳には、隠す気もないほどの敵意が宿っている。
奴隷にするつもりなんて一切無い。
というか、契約って対等な関係じゃないの?
少なくとも私はそういう認識だった。
精霊を無理矢理戦わせたいなんて、一度も考えたことはない。
むしろ一緒に冒険する仲間だと思っている。
さっきのドライアドだってそうだ。
もし契約できるなら、一緒に色々な場所へ行ってみたい。
本人が嫌だと言うなら、無理矢理連れていくつもりだってない。
だから、その言い方には少し腹が立った。
でもここで反論するのは悪手だ。私は黙ってじっと耐える。
「うるさい。」
ティターニアの静かな声が響いた。
それだけで、ざわついていた宮殿が静まり返る。
「場も弁えられぬなら、退室を命じるが?」
「……申し訳ございません。」
さっきまで怒りを露わにしていたサラマンダーが、一瞬で頭を下げた。
やっぱり目論み通り、ティターニアはサラマンダーを止めてくれた。
少なくとも、最初から私を追い返すつもりはない。
さっきの様子を見ても、ティターニアは対話を求めている。
だったら私がすることは一つ。
彼女の質問に正直に答えることだ。




