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51 三つ巴

「ゴルドレッド――」


 俺は白髪の青年を見据えた。


「生きていたのか」

「いずれは世界を統べるこの俺が、あの程度でやられはしないさ」


 ゴルドレッドがニヤリとする。


「とっさに【変化】で空間を歪めた『盾』を作って光線を受け流した。同時に地面の一部を【変化】させ、その中に隠れていたんだ。戦況の変化を見極めるために――」


 と、ゴルドレッド。


「あわよくば君たちで潰しあってくれれば……と思ったが」

「潰しあう? あり得ぬよ」


 光竜王が鼻を鳴らした。


「我がすべてを蹴散らす。お前も、お前も」


 と、俺とゴルドレッドにそれぞれ視線を向ける。


「それこそあり得ない。俺はこの【変化】をさらなる領域へと進化させ、すべての上に君臨する真の王の力を得る――」


 ゴルドレッドは謡うように告げた。


「支配の紋章は自分に能力を使うことがトリガーなのか? これを自在に発現できるのはディータとシリルだけ。そして、二人は発動条件を俺に教えてはくれなかった」


 と、ゴルドレッド。


「君のおかげで答えにたどり着けるかもしれないな。感謝するよ、レイン・ガーランド」


 ゴルドレッドは右手を自分の胸に当てる。


「【変化】は自分自身には作用しない。君の【付与】と同じだ。だが、もしも自分に使ったときにどうなるか……実は試したことがない」


 ふたたびニヤリとする。


「君のおかげで勇気が湧いた。おそらく、俺の条件も同じだろう」


 ヴンッ!


 次の瞬間、ゴルドレッドは黄金の光に包まれ、額には紋章が出現する。


「――なるほど。こんなに簡単に出るなら試しておくべきだったかな」


 ニヤリと笑うゴルドレッド。


「これだけが条件なのか、他にもトリガーがあるのか分からないが――とりあえず、紋章を発現できたのは大きい。これで俺も使うことができるはずだ」


 紋章の輝きが増す。


「【変化】の第四術式を――」




 どうっ!




 そのとき、黄金の光線がゴルドレッドを襲った。


 空間を歪め、それを受け流すゴルドレッド。


「一つ、忘れているようだが」


 光線を放ったままの体勢で光竜王が言った。


 その全身が光に包まれる。


「お前たちは我にもヒントを与えたということだ」


 ヴンッ!


 同じように体が光に包まれ、額に紋章が出現する。


「なるほど、これが紋章か」


 光竜王まで同じことを――。


 ……いや、待てよ。


 俺やゴルドレッドは自分の能力を自分に作用させられない。


 けれど、光竜王は違うはずだ。


 もともと自らを【強化】して戦うスタイルだったはず。


 なら、今までの光竜王が支配の紋章を出せなかったのはなぜだろう?


 俺は、何か勘違いをしているのか?


『天の遺産』の力を自分自身に使う。


 それが『支配の紋章』の出現条件だと思ったんだけど、そうじゃないのか。


 あるいはそれ以外にも条件があるのか。


 なんにせよ、俺はまだ『支配の紋章』のことを理解できたわけじゃない。


 出現条件も。

 その使い方も。


「精神が……いや、魂が加速していく感覚がある。我の中にあった強烈な破壊衝動が消えていく――」


 額に紋章を輝かせながら、謡うようにつぶやく光竜王。


「破壊衝動……?」

「かつて我は――いやオリジナルの我は【侵食】によって破壊衝動を植え付けられた。文字通り、すべてを破壊しようとする衝動に『侵食』されたわけだ」


 光竜王が語る。


「かつて、お前が世界の八割を破壊したという伝承も、その根源は【侵食】にあったっていうのか……?」

「【侵食】はオリジナルの我を手駒にでもするつもりだったのか。それとも、単にそういう生態なのか……我にも分からんが、ともあれ――今は生まれ変わった気分だ」


 光竜王が晴れやかな笑顔を見せた。


「ようやく忌々しい【侵食】の呪いが消え、我は我として生きることができる」

「……よく分らないけど、お前の中から破壊衝動が薄れたっていうなら、もう世界を滅ぼしたりはしないってことだよな?」


 俺は光竜王を見据える。


 話の風向きが変わってきた……のか?


「なら、俺たちが戦う理由はなくなるはずだ」

「それとこれとは違う話であろう、人間よ」


 光竜王がニヤリとした。


「破壊衝動は薄れても、支配への欲求は変わらぬ。我は光竜王――王として君臨するために、世界を破壊し、しかる後に我ら竜の国を創建する」

「竜の――国だと」

「お前たちを破壊し、敵対する者すべてを破壊し、その後に願うとしよう。星の心臓の最終階層で」


 光竜王は楽しげだった。


「我ら竜族の楽園を、な。星の最深部にはあらゆる願いを叶える力があるのだろう? そうだったな、人間よ」


 と、ゴルドレッドに視線を向ける。


「……そうだ」


 うなずき、ゴルドレッドは身構えた。


「ただし、王になるのは君ではない。この俺だがな」

「世界の王は二人もいらぬ。お前はこの場で消し去ってくれよう」


 額に紋章を輝かせた光竜王が笑う。


 まさに三つ巴だ。




 ――そのとき、天啓のように閃くものがあった。




「……違う」


 それは偶然の思い付きなのか。


 それとも本能が教えてくれているのか。


 俺の中の何かが『違う』と言っている。


 違和感が噴出している。


「何?」


 同時に振り返るゴルドレッドと光竜王。


「これが最強の術式じゃない。さらに先がある――」


 そう、第四術式の、さらに先に。


 さらなる彼方に。


 おそらく、それが『到達点』だ。


 俺は本能的に悟った。


 いわば『天の遺産』――最終術式。


「俺は、そこにたどり着く」


 決意を込め、告げる。


 そして、この戦いを制し、星の心臓の最深部まで突き進んでみせる――。


   ※


 SIDE バーナード



 敵は三体の『天星兵団(アークレギオン)』。


 バーナードがこれまで宮廷魔術師や冒険者として相対してきた、どんな敵よりも強大な存在だ。


 それこそ神や魔王――いや、それ以上の存在かもしれない。


 対するこちらは最大戦力ともいうべきフローラ・ヴァーミリオンが一撃で倒されてしまった。


 残るは自分以外には高位魔族のヅィレドゥルゾ、少年剣士ラス、暗殺者の少女ミラベルだけ。


(勝てるのか、俺たちは――)


 戦慄は恐怖となり、恐怖は絶望に変わり、バーナードの全身を硬直させる。


 動けない。


 呼吸すら苦しい。


 だが――、


「俺は、諦めません」


 目の前のラスは凛とした表情で言い放った。

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