10話 裏の裏も裏
「さて、問題は片付いたところで、次行ってみよー!」
拍子抜けしたような興昌の声に、3人の注目が集まる。
「次って、まだ何かあるのかよ?」
「いや、これは俺の勝手。その前に…」
興昌は、部屋の奥へ声をかける。
「王子殿下、起きていますよね?」
そう声をかけると、今まで眠っていたはずの王子が目を開け、体を起こした。
「いつから…気が付いてました?」
「解毒剤を調合して飲ませた時に。一瞬それまでとは違う呼吸音が入りました」
「そう…でしたか…」
「そちらも、いつから話を聞いていたんですか?」
「暗殺の件はほとんど…」
そう言って黙り込む2人。
「お、おい。どういう事だよ」
「…暗殺されようとした理由が分かった。いや、気づいたと言うべきか」
そう静かに口にする興昌。3人は驚愕した表情を浮かべているが、動揺が混ざっているのを興昌は見逃したりはしなかった。
「本当か!?」
「あんたらはとっくに知ってたんだろう?狙われた理由を」
三者三様に視線をそらす。言わないと判断した興昌は、
「…沈黙は肯定とみなす。知ってるなら言っても問題ないな」
「待て!」
「待たん。そのわけは…」
制止を聞き流し、全員を見渡すようにして言う。
「王子ではなく王女だから、だ」
「…すごいですね。ばれてないと思ったんですがね」
先ほどとは違う声で殿下が語りだす。
「声の高さを変えてましたか」
「ええ、まあ。どうして分かったか、教えてくれます?」
「何、単純な事だ。第二王子なんて普通暗殺するもんじゃない。上に何かあった時の保険としておくのが普通だ。デメリットの方が多い」
「…続けて下さい」
「だから、仮に王子じゃなく王女で、かつ上に何か不安を抱えている場合なら、女王の誕生を快く思わない人間がいるだろうと簡単に予測できる。だからその芽は早いうちに摘み取ってしまおうとして、この暗殺未遂に繋がると、まあそんな所だ。訂正する箇所はありますか?」
「いえ、間違いありません」
「殿下!」
アルフレッドが、これ以上はいけないという風に会話に割り込んでくる。
「いいのです、アルフ。切れ者のこの人が相手では、隠し続けることは厳しいでしょう」
「しかしそれでは…」
「シャロも、別にこの人は私達と敵対している訳ではないんです。だったら、こっちに取り込んでしまえばいいのです」
「俺抜きで話を進めないでくれます?なにやらよろしくない単語が聞こえたが…」
「興昌さん、でしたか?」
殿下が興昌に向き直る。
「ここから話すことを聞いたら、はいそうですかとあなたを返す訳にはいかなくなります。嫌でしたら、今すぐこの部屋から出て行って下さい。覚悟があるなら、このまま此処に居て下さい」
暫しの熟考ののち、興昌は答える。
「乗りかかった船だ。いいぜ」
「それでは…」
そう言って殿下は、ベッドに腰かけたままだが、頭を下げる。
「はい?」
「興昌さん、助けてください。この国を…、この私を…」
「…私には、兄と姉がいます。姉は5年前に隣国に嫁いでいますが、兄がいるため、王位継承などとは無縁なはずでした」
「そりゃ、まあそうだろうな」
「ですが、兄は22年前、10歳の時に重い病に罹ってしまっていたのです」
「ちゃんと治ったのか?」
「命はとりとめましたが、王子は伏せがちになられてしまいました」
「はい。それ以降、王子が王位に就くことに否定的な派閥が現れました」
「そいつらの主張は?」
「いつ倒れるかわからない病人を王位につかせることは許さない、もっと相応しい人物にすべきだ。というものです」
「御尤もだが、候補は?」
「伯父上、父上のお兄様がおられますが、高齢のため隠居状態に近いと聞いております、従ってその方の息子、私にとって従兄弟を擁立しようと画策しています」
「そのため、国内は王子派と王弟一派に分かれて内戦状態にあり、不安定な情勢にあります」
こりゃ駄目だな、と興昌は心の底で思った。
政治の中心を担っている王家内でもめ事が発生すれば、それだけで国力は疲弊する。他国からの干渉も多くなるだろう。
そういう前例が数多くあったことを興昌は理解していた。
「王様はこの件についてどう思っている?」
ここまで名前が挙がってこない人物について興昌は聞いてみることにした。
「父上もこの件はどうにかしたいと考えていたのですが、介入できるだけの軍事力もなく、双方の言い分も間違ってはいないため、手を焼いていたのです」
「…」
「そんな中、殿下がお生まれになったのです」
3人の顔色が暗くなったのを見て、興昌は地雷を踏んだかなと少し身構える。
「父上は私を王女ではなく王子として育て、新たな後継者とすることでこの争いに終止符を打とうと考えたのです」
「母親の意見は?」
「お妃さまは、殿下をお産みになって間もなく、亡くなられてしまわれました」
重い空気が場を包む。
「なんか…、無責任に聞いてすまないな」
「いえ、いいのです。ともかく、私は王子として育てられました。でも3年前から、何者かが手を出すようになったのです」
「ばれたんだろうな。王女だってことが」
「おそらくその通りでございます。真実を知っているのは陛下と殿下以外では、此処に居る3人を含めほんの少数の人間だけでしたから」
「はじめはいたずら程度だったのですが、次第に規模が大きくなっていき、とうとう命までも…」
「事情を話せる人間がいないがために、常に対応が後手後手にまわった、と…」
「はい。しかも、この公国との隣国であるバーリナが干渉を強めていて、いつ攻め込まれるかと恐れています」
「力の差は?」
「国同士は互角だが、今そうなったら公国だけでどうにかしないといけない。あっという間に負けちまうな」
「…」
一通りの話が終わり、興昌は考え込む。
「お願いします、興昌さん」
「我々からもお願いします。この国を救ってください」
4人が4人とも頭を下げて頼み込む。長い沈黙の後、意を決したように興昌が立ち上がり、言葉を発する。
「…分かった、引き受けよう」
「本当ですか!?」
「ただし!」
興昌が王女を指さし、今までにない大声を出す。
「あなたが本当にこの国を思っていて、現状を打開したいと考えているなら、その覚悟を見せてほしい。その覚悟が本物なら、喜んで協力しよう」
「私は…」
一瞬言いよどんだ後、声をはりあげる。
「私はこの国を変えたい!内戦に怯えることがないように!他国に戦々恐々としないように!この国を良くしていきたい!だから協力してほしい!」
そう一気に捲し上げた後、咳こんでしまう。
「殿下!」
「病み上がりですから、無理をされては…」
「ごめん。…覚悟を見せた。答えを」
興昌の方に向き直る。
「…確かに受け取った。貴女について行こう」
「ありがとう」
「よし、まだしっかりとした自己紹介がまだだったな」
そう言って興昌は王女に歩み寄り、右手を差し出す。
「久野金興昌だ。これからよろしくな。王女様」
「アリス・マキアット・ラ・エール・クラッフェリートです。こちらこそ、宜しくお願いします」
アリスも右手を差し出し、興昌と堅い握手をした。




