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夢百夜  作者: ゆず


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7/11

第七夜

こんな夢を見た——


 8月中旬、手芸部に所属する私は部活のみんなとショッピングモールに買い出しにきていた。10月の文化祭に向けて、そろそろ本格的に作成に取り掛からなくてはならない。文化祭では小物の販売を行うので、大量の材料が必要だ。私たちはショッピングモール内の、市内で一番大きな手芸屋で手分けして材料を集めた。


「あっ、この布かわいい」

「ほんとだ。シュシュにすれば売れそうだね。10メートルくらい買っていこう」

 私は友人の朋花と共に、布を選ぶ役目だった。シュシュ用にポーチ用、子供の通学バック用にブックカバー用など、かわいい布から大人っぽいシックな布まで幅広く選んだ。柄の傾向が被らないように選ぶのがポイント。中学の頃からこの部に所属している私たちにかかれば簡単な作業だ。


 30分かからず布を選び終えた私たちは他の部員と合流した。各々の部員が、糸やらビーズやらリボンやら沢山抱えている。顧問の先生と共に会計する。あまりに大量の商品に、レジのお姉さんが応援を呼んでいた。


「さあ、これで買い逃した材料はありませんね?じゃあ帰りましょう」

「ちょっと待って、先生。せっかく来たんだから、少しだけ他のお店もみたいなぁ」

 メモと買ったものを照合した先生に、先輩部員が待ったをかけた。先生は、「あなたたちも?」と一人一人の表情をみた。後輩の部員は遠慮がちに顔を見合わせていたが、私と朋花はコクコクと首を縦に振った。在籍5年目ともなれば、多少の厚かましさも宿るのだ。


「……そうね。今日は部活が休みなのに買い出しに付き合ってもらったのだし、ご褒美は必要かも。じゃあ、1時間自由時間とします。1時間後に、車に集合ね。くれぐれも遅れないように」

「はーい!」

 先生は少し迷って、自由時間を与えてくれた。私たちは元気に返事をすると、それぞれショッピングモール内に散っていった。


 私と朋花は束の間の自由時間を楽しんだ。フードコートでアイスを食べ、コスメショップで新色のアイシャドウを試す。市内で遊ぶところといえばこのショッピングモールしかないので、今までも家族と来る機会は沢山あったが、友達と店を周る機会は多くない。車を運転できない私たちでは、ここに自力で来るのは難易度が高いのだ。私たちはせっかくの機会を大切にした。


「……!遙、大変!もう時間がない」

「えっ?何時?」

「15時55分」

 ゲームセンターでクレーンゲームに挑戦していた私に、朋花がスマホの画面を見せた。確かに、時計は15時55分をしめしている。解散したのが15時だったから、集合時間まであと5分しかない。楽しい時間はあっという間だ。私たちは慌てて店を出た。


「どうしよう?怒られちゃう」

「まだ絶望するのは早いよ。ここから出口まで急いで3分だとして、駐車場を走れば間に合うかも!」

 泣きそうな声でいう朋花だけでなく、萎れそうな自身をも励ますように、あえて明るい声で私はいった。


 ショッピングモール内は人が多いので、走るわけにはいかない。焦る気持ちを抑えつつ早歩きで出口を目指す。出口までの直線に入ると、人ごみに紛れて前方10メートルくらいのところに先輩の姿をみつけた。彼女らも時間を忘れて楽しんでいたようだ。怒られるのが自分たちだけでないことがわかり、私はちょっとだけほっとした。しかし、できれば怒られたくない。顧問の先生はいい先生なのだが、いざお説教となると長引くのだ。それではせっかくの楽しい気分が台無しではないか。


 ショッピングモールを出た瞬間、私たちは全力疾走した。先輩たちも同じく、わずかに前方を必死に走っている。車が近くに止まっていればよかったのだが、夏休みで混雑していたので、先生の車は入り口からかなり遠くに止まっている。200メートルほどの距離はあるだろうか?私の息が切れてきた。


「あっ。あそこ、見て!」

 先輩が声をあげる。先輩が指差す方をみると、先生が前方50メートルほど前を歩いていた。このままでは間に合わない。私は気分が落ち込んでいくのがわかった。

 

 その時、奇跡が起きた。駐車場内の歩行者信号が赤になったのだ。道の反対側にいる先生は足止めされることになる。私たちはその隙に車の前へと駆け込んだ。先に待っていた後輩たちが驚いた顔をしているが、そんなこと構っている余裕はない。私は地面にしゃがみこむと、弾んだ呼吸を落ち着けることに全力をそそいだ。


「もう、あなたたち。一体何事?高校生にもなって、遅刻ギリギリで走ることになるなんて……」

 先生が呆れた表情でやって来る。あぁ、お説教は避けられないのか。そう思って先生の方を見ると、厳しい顔がだんだん笑みへと変わっていった。そのまま口元を押さえて、クスクスと笑い出す。必死に走る私たちの姿がツボに入ったようだ。

「ふふ。でも、ギリギリ間に合ったのだから、今回は小言はなしにしてあげる」

 やった。私は朋花とハイタッチした。


 ——そこで目が覚めた。

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