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夢百夜  作者: ゆず


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6/11

第六夜

こんな夢を見た——


 ある日、我が家に天使がやってきた。誰もが、私がおかしくなったと思うだろう。実際、始めは私もそう思った。

「別に、おかしくなんてないでしょう。人間は神に祈るのに、いざ使いがくると誰も信じないのはなぜなんでしょうか?」

 自称天使の不審者は首を傾げた。金髪にまるで絵画の様な顔、真っ白な羽を背中に背負っている。コスプレにしては出来が良すぎるが、さすがに本物の天使だとは信じ難い。とりあえず、私は自称天使の話を聞いてみることにした。


「それで、天使様がオレになんの用事なんだ?慎ましく生きるオレの願いでも叶えてくれるのかい?」

「いいえ。今日はあなたに協力を求めにきました。地獄から逃げ出した獄卒を見つけてほしいのです」

「獄卒ねぇ。地獄ってやつはそんな簡単に逃げ出せる場所なのか。神様はどうしてるんだ?奴なら獄卒がどこに逃げたかなんてすぐわかるだろ?」

 なかなか設定が凝ってるな、と思った私は話を合わせてやることにした。下手に刺激して逆上されても厄介だ。警察を呼んでもいいが、こんなことで捕まるなんて、こいつも可哀想だからやめておくことにした。


「神は忙しいのです。1人の獄卒に構っている暇なんてありません。しかし、逃げ出した獄卒をほっとくわけにもいかない。だからこうして私が遣わされたのです」

「へー。あんたも大変だな。でも、オレは協力できないよ。生きていくだけで精一杯だからな。他を当たってくれ」

「それはできません。そもそも、波長が合わない人間は私の声を聞くこともできないのです。つまり、あなたは選ばれ者だということ。光栄に思いなさい」

 不審者だというのに、なかなか態度が大きい奴だ。まぁ、そこが天使らしいと言えば天使らしい。ただ、そろそろ付き合うのも疲れてきたので、穏便にお帰り願いたい所だ。私は言葉を選びながらこういった。


「光栄には思っているさ。ただ、オレはクリスチャンじゃない。こんな栄誉なことは神の僕にゆずってやってくれ」

「断るのですか?バチがあたりますよ」

「あてられるものならあててみろよ。そしたら、オレの気も変わるかもしれないぜ」

 だんだんイライラしてきた私が強気に出ると、自称天使はそう言って黙り込んだ。これで帰るならよし、逆上するようなら警察を呼ぼう。そう決心した私の耳にがちゃんと何が割れる音がした。振り返ると、テーブルの上のマグカップが床に落ち割れていた。あーあ、お気に入りだったのに。その瞬間、あることに気付いた私の顔は青ざめた。マグカップはテーブルの中央付近に置かれていた。地震でもないのに、自然に落ちるとは考えにくい。まさか、いや、偶然だろう。まさか、奴が本物の天使なわけがない。


 私が首を横に振っていると、ガタンと再び音がした。横をみると、棚からフィギュアが2体落ちていた。2体とも、足が見事に折れている。あーあ、お気に入りだったのに。さすがの私も、二度目は偶然だとは思えなかった。青ざめた顔で天使を見ると、奴は悪びれもせずこう言った。

「どうします?今ならこの程度で済みますが、場合によってはもっと酷いことに……」

「すみませんでした。是非協力させてください!」

 私はつかさず頭を下げた。奴が本物の天使かはわからないが、奴の力は本物だ。断って、部屋中のものを壊されたらたまらない。ここは素直に従っておくのが得策だろう。


「よかった。では、契約に移りましょう。こちらにサインを」

 そう言って、天使は私に紙を差し出した。契約なんて、大掛かりなことをしなくてはいけないのだろうか?私はやいやいと頭をかいた。

「意外と現実的なんだな」

「人間は裏切るものですから」

 私は一応契約書に目を通したが、見たこともない字で書かれているので内容はさっぱりわからなかった。どんな内容であれ、超常的な力をもつ奴にかなうわけがない。私は渋々書類にサインした。


「これで契約は完了です。ちなみに、途中で投げ出すと地獄に落ちますよ」

「わかったよ。最後まで付き合えばいいんだろ」

「もちろん、完遂したあかつきには天国行き決定です。ありがたく思いなさい」

 強引な契約ではあったが、私にもメリットはあるようだ。別に死後の世界を信じているわけではないが、地獄行きより天国行きの方が夢がある。ここまできたら、最後まで付き合ってやろう。


「で、その獄卒ってやつはどんな奴なんだ?」

「そうですね。まず1人目ですが……」

「ちょっと待て。あんた、1人目っていったか?」

「はい」

 聞き捨てならない言葉を聞いた。「1人目」ということは、2人目以降がいるということだ。一体地獄から何人逃げ出したのやら。


「……獄卒は何人いるんだ?」

「全部で113人です」

「はぁ?さすがに多すぎないか!」

「そうでもないですよ。こんなことはしょっちゅうです。あぁ、安心してください。あなたが担当するのは、日本に逃げた獄卒だけですので」

 私が驚いている理由がわからない、といった表情をしていた天使だったが、合点が言ったと手を鳴らして私にそう告げた。私が驚いたのは、地獄の緩さの方なのだが。天使と人間では、感覚が違うのかもしれない。


「オレは何をすればいい?」

「私が獄卒の情報を伝えるので、日本のどのあたりにいるか推理してください。探偵なんだから、簡単でしょ?」

 天使は簡単そうにいうが、実際そう簡単ではない。いくら私が探偵とはいえ、この広大な日本全国から人を探し出すなんて無謀なことだ。一体何人獄卒がいるのかわからないが、長い付き合いになりそうだ。

 私はため息をついた。


 ——そこで目が覚めた。

 

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